カレントアウェアネス-E
No.309 2016.08.18
E1828
都道府県立図書館サミット2016<報告>
2016年7月1日,長野県の塩尻市市民交流センター(えんぱーく)で「信州発・これからの図書館フォーラム・都道府県立図書館サミット2016『直接・間接・併用の議論を超えて-新しい都道府県立図書館モデル』」が開催された。本イベントは県立長野図書館の事業「信州発・これからの図書館フォーラム」の一環として,全国の都道府県立図書館の現状と将来像を集約・共有し,これからの時代の都道府県立図書館のモデルを確立することを目指して開催されたものである。当日は,全国34の都府県立図書館の職員を含む150名の参加があった。
◯キーノートクロストーク
「なぜ,いま都道府県立図書館サミットか」まず,アカデミック・リソース・ガイド株式会社の岡本真氏と県立長野図書館館長の平賀研也氏との間で,本イベントの開催経緯や問題意識について語られた。岡本氏からは,神奈川県立図書館の再整備を巡る活動に携わった経験から,都道府県立図書館の役割に関する新しい枠組みの必要性を感じたこと,この課題を議論していくための最初の試みとして本イベントが構想されたことが述べられた。平賀氏からは,都道府県立図書館が市区町村立図書館や地域の人々にとって役に立つ施設であるかが問題なのであり,直接サービスか間接サービスかという二元論を超え,地域の「知る」に貢献できる第三の道はないのだろうか,という問題提起がなされた。
◯都道府県立図書館クロスレビュー「都道府県立図書館のいま」
続いて,議論のための情報共有を主な目的として白河市立図書館(福島県)の新出氏と岡本氏によるクロスレビューが行われた。新氏の米国における州立図書館の役割についての論考をもとにした14の観点から,新氏からは俯瞰的な,岡本氏からはその補足と,各館を訪問した実体験に基づくコメントがよせられた。
◯都道府県立図書館パネルトーク「私たちが描くこれからの都道府県立図書館」
都道府県立図書館の館長・職員8人に進行役の岡本氏を交えて活発な議論が行われた。クロスレビューを受けて,奈良県立図書情報館の乾聰一郎氏からは都道府県と市区町村といった行政的な垂直の枠組みが図書館にも存在することを再認識したこと,第三の道を模索するためには,支援する側・される側といった関係性や,支援の多寡といった数量的な評価指標を再考する必要があることなどが述べられた。青森県立図書館館長の佐藤宰氏からは,図書館に赴任してから都道府県ごとの図書館の状況の多様さに驚いたことが述べられ,各館がそれぞれの状況にあう解決策を探さなければならないとの意見がよせられた。
都道府県立図書館によるネットワークづくりという観点からは,京都府立図書館の是住久美子氏から同館が複数の組織と協力して実施している研修会「シラベル」の紹介があった。今後はこうした取組をパッケージ化し,市町村,特に図書館未設置地域に展開して,活動の基盤になる知識や技術が不足している個人や団体と伴走していきたいとの意気込みが語られた。これを受け,都道府県立図書館においては直接サービスをただの直接サービスにとどめるのではなく,実践の中でうまくいったことを市区町村の図書館などへ展開するというやり方もあるのではないか,という意見が佐藤氏から出された。
フロアコメンテーターである京都府立図書館の福島幸宏氏からは「都道府県立図書館は図書館サービスの実験場たり得るのではないか」との問いかけがなされ,そのような事例として鳥取県立図書館の小林隆志氏から「音読教室」,三重県立図書館の中川清裕氏から「東北に行こうキャンペーン」といった市町村立図書館などを巻き込んで実施した取組の紹介があった。岡本氏からは,これらの活動は都道府県立図書館の指導や助言によるものではなく,その成果がうまく共有され広がった事例であるとの指摘がなされた。
また,広がるという観点では,乾氏からは,結びつきのゆるやかさという点で「アメーバのようだ」と例えられた奈良県におけるビブリオバトル部の活動の広がりについて,福島氏,是住氏からは京都府立図書館のサービス計画における職員の館外活動の位置づけ,岡山県立図書館の森山光良氏からは職員による自主的な課外活動「トショカン・ヨコの会」などが紹介された。
セッションの終盤は,ここまでに議論された価値をどのように評価すべきか,という福島氏からの問いかけを中心に議論がなされた。平賀氏からは,都道府県立図書館が何を期待されているかをふまえること,岡本氏からは,あらゆるサービスの実施を目指すのではなく明確な役割像を打ち出すこと,小林氏からは,自館の理想の絵を描きぶれないこと,が必要なこととして挙げられた。
◯クロージング
「都道府県立図書館サミット宣言(案)」が読み上げられ,会場内からの盛大な拍手とともに採択された。主催者であるサミット実行委員会からの説明によると,本宣言はアドボカシーを意図している指針であり,本サミットの参加者等に対して特に強制力を持つものではないとのことである。
なお,サミットの会場外には全国の都道府県立図書館によるポスターやブースが設置された。開催時間を通じて参加者でにぎわい,積極的な議論や情報交換が行われていた。
電子情報部システム基盤課・水野翔彦
Ref:
http://www.library.pref.nagano.jp/futurelibnagano_160701
http://togetter.com/li/994244
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I8646421-00
http://www.pref.kyoto.jp/npo/psc/knowledgediy/shiraberu01.html
http://www.pref.mie.lg.jp/TOPICS/2015070259.htm
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2899626/www.pref.mie.lg.jp/TOPICS/2011090046.htm
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2629653/www.library.pref.miyagi.jp/oshirase/#9
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