E2199 – 都道府県立図書館サミット2019<報告>

カレントアウェアネス-E

No.380 2019.11.21

 

 E2199

都道府県立図書館サミット2019<報告>

都道府県立図書館サミット実行委員会・子安伸枝(こやすのぶえ)

 

 2019年8月25日,県立長野図書館にて都道府県立図書館サミット2019を開催した。このサミットは2016(E1828参照)に続き2回目の開催である。テーマを「都道府県と基礎自治体の関係-『協力』のスタンダードを築く」とし,都道府県立図書館は域内の図書館にどのように関与し,その図書館行政に貢献していくのか,現場での取り組みをもとに学び合い考える場とした。なお,サミットは県立長野図書館が継続的に開催している「信州発・これからの図書館フォーラム」にも位置付けられている。

 サミットは基調講演と6つのセッションから構成されており,セッション1から6はできるだけ開かれた議論ができるよう,登壇者同士や参加者との対話形式を取り入れた。

 基調講演「秋田県立図書館の支援・協力とはなにか」では,山崎博樹氏(元・秋田県立図書館副館長)から,相互貸借担当1人という状況から,やがて資料だけでなく人材交流,研修,図書館運営のコンサルテーションといった幅広い支援・協力活動を行うようになるまでの過程について報告があった。上司や同僚,市町村立図書館の職員との対話をベースに必要なことを実行していくという支援・協力のありかたは,相互貸借のサービス向上だけでなく,秋田県立図書館全体のサービスアップ,市町村立図書館との密な関係作りにつながったという。

 セッション1の論点整理「秋田県からまなべること」では,福島幸宏氏(東京大学大学院情報学環)が山崎氏の講演から重要なキーワードを抜き出す形で論点整理を行った。足元を固める,資料と情報を届ける,人を届ける,人を育てる,成果,市町村との関係,今後の都道府県立の役割(情報ハブ/新サービスなど)と整理されたキーワードの中で,よりよい協力・支援活動を展開していくためにはどの活動にどういう時間のかけ方をするか,どういう人材を求めるか,の2点に議論が集約された。

 セッション2のキーノートクロストーク「なぜ,いま都道府県立図書館サミットか」では,サミットの共同実行委員長である平賀研也氏(県立長野図書館長)と岡本真氏(アカデミック・リソース・ガイド株式会社代表取締役)によるサミット開催の動機が語られた。ここ数年,都道府県立図書館の新館開館ラッシュが起こっている(CA1932E2114参照)。そんな中で,図書館振興から文化政策,地域振興へとつながる図書館像を描いていく必要性があるのではないか,そのビジョンを描くために必要な対話や思考の場としてサミットを位置付けたと語られた。

 セッション3の都道府県立図書館レポート「生涯学習課での6年から-宮崎県の図書館行政」では,清家智子氏(宮崎県立図書館)から宮崎県教育庁生涯学習課での取り組みが報告された。清家氏は学校事務から県立図書館そして生涯学習課へと異動した経験を持つ。県の総合計画に明記された「日本一の読書県」実現を目指し,政策を作っていくことの難しさやその成果,また行政の立場になってサービスから政策に視点を転換し,発展させていった取り組みを語った。

 セッション4の都道府県立図書館レポート「隠岐諸島での図書館設置100%達成の舞台裏」では,大野浩氏(島根県立図書館)から特に島嶼部への支援について報告があった。島根県は実質図書館設置100%を実現した都道府県のひとつである。全市町村に図書館があれば県立図書館の役割が減少するのではなく,それぞれの市町村のキーパーソンを支える必要がある。そのためには市町村のことを肌感覚で知ることが大切であると語った。

 セッション5の都道府県立図書館レポート「都道府県立図書館の使命を再定置する」ではセッション2から4を受けて,再び福島氏による都道府県立図書館の論点整理が行われた。都道府県立図書館の将来像として大きく3つの方向性(1)紙資料を中心とした従来路線の継続路線,(2)「場としての図書館」路線,(3)デジタルと物理資料のハイブリッド化を通じた情報ハブへの路線があるとした。特に(3)では県紙を中心とした地域情報のアーカイブ機能や,域内の市町村立図書館等へ電子書籍のプラットフォームやデータベースを提供していくコンソーシアムとしての機能が重要になってくるだろう,そして地域社会が縮小していく中で,情報へアクセスする機会を確保することこそが特に都道府県立図書館の役割であろうと結んだ。

 セッション6のラップアップ「各都道府県で何を取り入れ,いつから始めるか」は,福島氏,新出氏(富谷市図書館開館準備室(宮城県)),小澤多美子氏(県立長野図書館)による鼎談から,会場内との対話となった。「何を」も「いつから」も簡単には結論がでないだろうとしながらも,新氏から,都道府県立図書館のコンサルテーション機能は重要であろう,しかし意志・能力の両面においてコンサルタントたりえるかという提起があった。小澤氏からは,長野県ではコンサルタントという立ち位置よりも一緒に考えるという姿勢を取っているという紹介があった。会場からは,このような支援を行う図書館の評価指標は社会的活動を行うNPOなどの評価指標に近いのではないかという発言や,都道府県立図書館が発展していく未来像にマッチした人材は図書館内に存在するのか,また今の都道府県立図書館にコンサルタントとしての能力はあるのか,学校図書館への視点がもっと求められているといった問いや提言がされた。最後に,福島氏から図書館はあるべき社会像を構想するところから始めてはどうかという投げかけがあった。

 会場内では今回のテーマに合わせ,都道府県立図書館の活動を支援・研修・協働の3つの枠組みで紹介するポスターセッションも行われた。実行委員としてポスターセッションの準備からこのサミットに関わった筆者にとっては,47都道府県立図書館をポスターセッションによって俯瞰することができ,その上多くの都道府県立図書館関係者と対話する機会を得たサミットだった。

Ref:
http://www.library.pref.nagano.jp/futurelibnagano_190825
E1828
E2114
CA1932
CA1871