E2198 – Code4Lib JAPANカンファレンス2019,大阪にて開催<報告>

カレントアウェアネス-E

No.380 2019.11.21

 

 E2198

Code4Lib JAPANカンファレンス2019,大阪にて開催<報告>

高森町立高森北小学校・宮澤優子(みやざわゆうこ)

 

 2019年9月7日から8日にかけて,大阪市立中央図書館にてCode4Lib JAPANカンファレンス2019が開催された。7度目の開催(E2069ほか参照)である今回は過去最高の103人(1日目77人,2日目87人)が参加し大変盛会であった。台風第15号の影響で新幹線の運休が決まり,2日目の午後はあわただしく会場を後にする参加者も多かったが,2日間で基調講演2件,発表9件,ライトニングトーク18件が行われた。また1日目の午前中には2件のチュートリアルが開催され,参加者が実際に情報技術活用にチャレンジした。本稿では,筆者が関心を抱いた発表について一部紹介し,報告としたい。

 基調講演の2件は,大阪市立図書館の,図書館内部にとどまらない外部団体との取り組みや,職員が外へ飛び出すことで構築した市民との関係の中から出てきたテーマであったかと思う。松原茂樹氏(大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻)と山川みやえ氏(大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻)による「図書館環境の評価手法の開発-「キャプション評価」の方法とデジタル化の開発に向けて-」は,大阪市立図書館での実践報告と,図書館のさまざまな活動のありようを測るひとつの方法論の提示であった。キャプション評価とは,評価する人がそれぞれ館内の気になる場所の写真を撮り,その写真にキャプションを付けるという環境評価の手法である。原田祐馬氏(UMA/design farm)と中川和彦氏(スタンダードブックストア)による「“中の人”じゃない人と考える 図書館×本×デザイン」は,利用者や一般市民として図書館周辺で活動をしていながらも,図書館の運営側ではない立場からの視点や観点を置いての講演であった。またそれに続くアンカンファレンスも図書館の「中の人」ではない「外の人」の視点を持ち込んでの,図書館や公共についての議論となった。

 発表では,前回までのカンファレンスで発表された新しい技術やそれを使ったアイデアの実装が印象に残った。南雲知也氏(株式会社ブレインテック)による「OpenBookCameraを用いた書影およびOCRデータによる図書館蔵書の大量一括遡及データ作成の試み」は,2018年のカンファレンスで,吉本龍司氏(株式会社カーリル)により「背を撮影できる書影撮影デバイスの開発」として発表されたOpen Book Cameraを使った取り組みである。このOpen Book Cameraは,さらにさかのぼった2013年のカンファレンス(E1486参照)で,やはり吉本氏によって「カーリルブックカバープロジェクト/背も撮影できる書影スキャナの開発」として報告されたものであり,それがいよいよ実用化された事例である。この視点で過去のCode4Lib JAPANカンファレンスの発表を振り返ってみると,2013年の田辺浩介氏(物質・材料研究機構),2015年(E1721参照)の江草由佳氏(国立教育政策研究所),2017年(E1964参照)の田辺氏によるオープンソースの図書館システムNext-L Enjuに関する一連の発表をはじめ,継続や応用による実現や拡張が見て取れる。また2014年の基調講演,福島幸宏氏(京都府立総合資料館=当時,現・東京大学大学院情報学環)による「文化資源のデジタル化とその課題」は,今回「アーカイブズ構築のスリムモデル」として同氏と天野絵里子氏(京都大学学術研究支援室)によって,たとえば対象資料の決定や公開に関する課題に関して,解決の糸口が示された。Code4Lib JAPANの活動がスタートして10年が経過し,この活動が「図書館における情報技術活用を促進し,図書館の機能向上と利用者の図書館に対する満足度向上」(Code4Lib JAPAN公式ウェブサイトより)を目指してきた成果が見て取れたカンファレンスであったと思う。

 同時に,さまざまな技術やアイデアが次々に発表され,図書館の情報技術活用において新しい取り組みがいくつも生まれる中で,それらに関する情報が図書館の現場でどの程度収集され,認知され,活用されているのかは大変気になるところである。そのような中で,松村友花氏(神戸大学)による「スマホ入館はじめました」や,大河原信子氏(津山市立図書館(岡山県))による「図書館×地元企業「カリコレ」共同開発」(E2124参照)のように,日頃の運営の中から出てきた課題を情報技術活用によって,かつ,図書館が主体的に解決した事例の発表もあり,大いに参考になった。

 当日の会場の様子はインターネット上で動画配信され,SlackやTwitterによる活発なリアルタイムコミュニケーションに参加も可能,発表スライドは一部を除きウェブサイトで公開,というように,当日でもその後でも,カンファレンスの内容に容易にアクセスが可能なところも,このイベントの特徴であろう。

 米国を中心に活動する,図書館の情報技術活用に関するエキスパート集団であるCode4Libであるが,その日本支部を目指すCode4Lib JAPANでは一般の図書館職員に広く門戸を開放している。図書館の運営にかかわるすべての職員は,その立場がどのようなものであっても,情報技術活用を常に意識し知見を広めるための努力をしたいものである。次回のCode4Lib JAPANカンファレンスは,例年より時期を早め2020年6月20日から21日にかけて愛知県豊橋市で開催される。今回以上の積極的な図書館職員の参加を期待したい。

Ref:
http://www.code4lib.jp/
http://wiki.code4lib.jp/wiki/C4ljp2019
http://wiki.code4lib.jp/wiki/C4ljp2019/program
https://www.facebook.com/Code4LibJAPAN/
https://www.youtube.com/watch?v=augiXmmDYoE
https://www.slideshare.net/AkikoSawaya/slides-at-code-4-lib-20190907
https://researchmap.jp/muc0v99in-16665/?block_id=16665&active_action=multidatabase_view_main_detail&multidatabase_id=1555&content_id=25479
https://braintech.co.jp/news/obc20190908_c4ljp.pdf
https://speakerdeck.com/yukam/started-the-entering-with-your-smartphone-service
E2069
E1486
E1721
E1964
E2124