カレントアウェアネス-E
No.367 2019.04.18
E2124
津山市立図書館×地元企業:「カリコレ」で地域課題に挑戦
●はじめに
津山市(岡山県)に本社のある株式会社ワードシステムは団体貸出を支援するサテライト貸出システム「カリコレ」を開発し,2019年1月11日にサービスの提供を開始した。このシステムは津山市立図書館と市内IT企業であるワードシステムが共同開発したもので,全国でも珍しい図書館発の産官連携の成果である。「カリコレ」は,図書館の一般的なサービスである団体貸出において,団体貸出先から資料を貸し出すのが難しいという問題を解決する,これまでにありそうでなかったツールである。具体的には,団体貸出先を図書館のサテライトのように位置づけ,当該団体に貸出中の資料データを電子ファイル形式で「カリコレ」に取り込んで貸出や返却を簡便に行うことができるようにしたシステムである。図書館電算システムとの連携は必要としない。「カリコレ」の開発により図書館と団体利用者が協働し,施設等を地域の「ミニ図書館」としてより身近な場所で図書館の蔵書を利用できる環境を作ることが可能になった。
●経過
当館では従来から読み聞かせグループや幼稚園,保育園,学校,地域のグループ等に団体貸出を行ってきた。一部の団体では貸出先からさらに個人宅に本を持ち帰るなどの利用ができるが,団体利用者側が借り受けた本の管理を独自に行う必要があった。これを解決するために図書館の電算システムとオンラインで貸出返却ができるシステムを構築するには,経費や人の配置,セキュリティの問題が大きく現実的ではなかった。あるとき,つやま産業支援センターのアドバイザーと話をしていて,「そういう課題があるならセンターが行っている市内外の企業が集まる機会があるので,IT企業と話をしてみたら」とご紹介いただき,「第7回異業種連携プラットフォーム」(2017年6月30日開催)に参加した。そのときの話をきっかけに何度か参加企業と情報交換を行い,自社ソリューションの開発を自社の課題としていたワードシステムが開発に取り組んでみようということになった。
団体貸出についての全国的なニーズがわからない中で,ワードシステムでは開発のリスクを低くするためにプロトタイプの開発に着手した。図書館にかかわるシステム開発に初めて取り組むため,当館からは図書館での団体貸出の仕組みや資料データの取り扱い,個人情報に関する考え方などを随時提供し,また当館の団体貸出先であるNPO法人マルイ・エンゲージメント・キャピタルが運営するシェアオフィス・スペースZiba Platformの協力を得てテスト環境を構築し,実証実験を行い,団体利用者側の意見を聞きながら調整を繰り返して開発を進めた。
2018年5月に「図書館総合展フォーラムin津山」で当館からの事例発表としてサテライト貸出システム「貸出くんβ」(「カリコレ」の開発中の仮名)を紹介した(E2035参照)。翌日にはフォーラム関連イベントを開催中のZiba Platformで「貸出くんβ」を展示し,フォーラムに参加した図書館関係者には予想以上に好意的に受け入れられた。フォーラム終了後,ワードシステム社内で開発について検討し,発売に向けた本格開発を決定した。
「カリコレ」は,とにかく簡単に使えることを目指して開発を進めた。団体利用者側で子どもも高齢者も簡単に操作できるようなわかりやすい画面になるように重ねてブラッシュアップを行った。また団体利用者側が利用できる統計等の帳票も開発した。システム環境としては運用負担を軽減できるようにクラウドシステムを採用,またPCだけでなくタブレットでも利用できるシステムとした。
●いまいちど,ポストの数ほど図書館を
今回,当館と地元企業の双方の課題を持ち寄った結果,「カリコレ」という製品が世に生まれた。今後,企業や高齢者施設,病院,地域コミュニティグループ等への団体貸出を通して,様々な理由で来館しにくい市民が身近な場所で図書館の蔵書を活用できるようになると考えている。人口の減少が見込まれているなかで,分館や自動車文庫の運行に代わる全域サービスのための第三の選択肢として団体貸出を位置づける可能性もあると思われる。特に離島や中山間地域では図書館サービスの可能性を広げることができるかもしれない。前出のフォーラムの参加者から「高齢になってできないことが増えて悲しくなる。サテライト貸出が実現するとできないことができるようになる。生きる勇気が湧いてきます」との感想をいただいた。いまいちど,「ポストの数ほど図書館を」の実現を目指し,「カリコレ」が各地域で活用されることを願っている。
津山市立図書館・大河原信子
Ref:
https://www.wordsystem.co.jp/callichore/
https://www.wordsystem.co.jp/tool/usfld/f1_20190115165454000000.pdf
http://www.tsuyama-biz.jp/wp-content/uploads/2017/06/4f901d1dfeb2cbe1c2d4e57674cfb93a.pdf
E2035