E2135 – 私達の人生を変える図書館:第3次図書館発展総合計画(韓国)

カレントアウェアネス-E

No.368 2019.05.16

 

 E2135

私達の人生を変える図書館:第3次図書館発展総合計画(韓国)

 

    韓国の大統領所属図書館情報政策委員会は,所管官庁を跨いだ館種横断的な図書館政策の審議・調整・策定等を担う大統領直属組織であり,図書館法第14条で,法に準じた効力を持つ図書館発展総合計画を5年ごとに策定することになっている。その委員会が,2019年1月,第3次図書館発展総合計画(以後「第3次計画」)を発表した。第1次計画(2009年から2013年;E797参照),第2次計画(2014年から2018年)に続く2023年までの計画で,第2次計画の成果と課題,近年の情報・技術・社会環境や図書館へのニーズの変化をふまえ策定された。人間疎外・地方消滅・経済の二極化といった社会の変化に市民が適応できるよう,課題に能動的に対応できる図書館制度を構築することが目的である。本稿では,ビジョン「私達の人生を変える図書館」を掲げ,3つのコアバリュー「人への包容性」「空間の革新性」「情報の民主性」のもと,4つの戦略目標に13の中心的課題((1)から(13)を付与),36の推進課題を配置した第3次計画について戦略目標ごとに見ていきたい。

●個人の可能性の発見

  (1)「市民の力を育てる文化サービスの拡大」では,AIで置換不能な人間の能力を発見する人文系プログラムや,議論に基づく成熟社会実現のための読書プログラムの実施等を掲げる。(2)「利用者の情報アクセスの利便性向上」では,時間的・地理的制約や情報入手の即時性に対応する電子書籍サービスの拡大や館内Wi-Fi環境の整備,利用者カード1枚で全図書館を利用できるサービスや相互貸借制度の参加館及び24時間貸出・返却可能な「U-図書館」の設置拡大をあげる。(3)「利用者のライフサイクルにあわせた図書館サービスの強化」では,蔵書構築指針策定のための研究・調査の実施や公共図書館貸出データの活用,MOOC(CA1811参照)の運営,乳幼児・妊産婦対象の読書事業の拡大,子どもの創造力等の養成に資する学校と学校図書館間の連携強化,機関リポジトリdCollectionの機能向上や学術情報提供の自動化等による学術支援サービスの強化,専門図書館支援による生活密着型専門情報サービスの向上,国立中央図書館(NLK)・国会図書館(NAL)・法院図書館のサービス強化等を掲げる。


●コミュニティ力の向上

  (4)「分権型図書館経営体系の構築」では,業務効率化や地域内図書館の不均衡是正のため,地域の図書館施策の策定・施行及び体系的な支援を担う「地域代表図書館」を中心とした統合経営体系の構築,電子資料サービスの共同運用・購読契約,地域資料の収集強化等に言及する。(5)「コミュニティの記憶の保存・共有・拡散」では,国内外に散在・流出した古文献の収集・統合管理,地域資料のデジタル化とクラウド基盤の構築,公共図書館による資料所蔵者・機関への支援強化等を課題として示す。(6)「交流・協力基盤としての機能強化」では,公共図書館では住民間,学校図書館では子ども・保護者・教師間,大学図書館では学生間の交流の場としての機能を強化することを指摘する。


●社会的包摂の実践

  (7)「積極的な情報福祉の実現」では,情報格差解消のための支援策策定,情報化教育の推進,障害者(CA1881参照)・病院・兵営・刑務所の図書館のサービス拡充,農・漁村での図書館サービス強化,アウトリーチサービスの拡大等を示す。(8)「空間の開放性拡大」では,空間決定権が相対的に弱い子ども・貧困層・高齢者用のスペース拡大,災害発生時の図書館の避難所としての活用,ユニバーサルデザインの適用拡大等をあげる。(9)「境界を越えた連携」では,関係機関と連携しての,少子化時代に対応した家族向けサービス,高齢者への健康情報提供,求職者・在外韓国人への情報提供,在留外国人への多文化サービスの強化(CA1946参照)を指摘する。


●未来を開くための図書館改革

  (10)「図書館経営体系の質的向上」では,全館種での職員不足に対応するため,人材配置の促進,今後の必須技能に応じた養成プログラムの策定,館種別の改革指針の提示,基準・制度の法的拘束力強化,大学振興計画等と連関させた大学図書館評価システムの構築,中長期的な政策を含む図書館経営の評価指標の策定等を示す。(11)「図書館協力体系の強化」では,同委員会の機能強化や地方の図書館情報サービス委員会との協力,NLKと地域代表図書館間の連携強化,地域代表図書館を中心とした地域内の館種横断的な協力体制の構築,出版界・読書界との協力体系の樹立,各官庁が所管する図書館での専門人材の確保,国際交流の強化をあげる。(12)「図書館資源の共有基盤構築」では,国のオープンアクセスポリシーの策定,ナショナルサイトライセンスの拡充,デジタル化資料送信サービス(E1931参照)の契約館の拡大,電子資料保存(E1836参照)のためのダークアーカイブ構築拡大,著作権法改正等によるデジタル資料活用の阻害要因の除去等を示す。(13)「図書館基盤の拡大」では,公共図書館の新設・改修,創造的な学習に適した大学・学校図書館の改修支援,第4次産業革命に対応する「スマート図書館」のモデル構築等を掲げる。

    図書館法第15条に従い,今後,中央官庁及び特別市・広域市・特別自治市・道・特別自治道の長は,毎年,第3次計画に基づいた施行計画を策定する(E884E1145参照)。日本とも類似するような課題をどのように解決しようとするのか,注目しておきたい。

関西館図書館協力課・武田和也

Ref:
http://www.clip.go.kr/
https://www.mcst.go.kr/kor/s_notice/press/pressView.jsp?pSeq=17080
http://www.law.go.kr/LSW/lsInfoP.do?lsiSeq=92098#0000
E797
E1931
E1836
E884
E1145
CA1811
CA1881
CA1946