E2134 – 地域コミュニティにおける公共図書館の役割:米国の実践事例

カレントアウェアネス-E

No.368 2019.05.16

 

 E2134

地域コミュニティにおける公共図書館の役割:米国の実践事例

 

●はじめに

 2018年10月,米・ニューヨーク州立大学オールバニ校のCenter for Technology in Government(CTG)は研究報告書“The role of public libraries in engaging citizens in smart, inclusive and connected communities – A current practices report”を公開した。

 近年,米国の地域コミュニティでは,データや技術を活用した「スマート化」により,行政サービスや市民生活の質の向上を目指す動きが広がっている。こうした動きを受けて,CTGは米国図書館協会(ALA)と連携し,スマート化へと加速する地域コミュニティの中で公共図書館が果たす役割を研究するプロジェクトを2017年から進めてきた。本稿では,その成果である本報告書の内容を紹介する。

●スマートコミュニティと公共図書館

 報告書では,公共図書館はこれまで,地域コミュニティを様々な面から支援するコミュニティ・アンカー(E1740E1860参照)としての役割と,ネット環境や電子書籍をはじめとするデジタルリソースの提供を通じた情報リテラシーの中心的役割(E1874参照)を果たしてきたとしている。技術革新が進み,コミュニティのスマート化が図られる今日,これらの役割はますます重要なものになっている。公共図書館は,スマートコミュニティの発展における地域のニーズや課題を把握し,市民を巻き込み,知識と創造の中心として機能することができる。

 本プロジェクトでは,スマートコミュニティにおけるアンカー機関として革新的な取り組みを行っている米国各地の公共図書館から32館を取り上げ,調査を行った。

●5つの側面

 報告書では,各図書館の事例を5つの側面(インフラストラクチャー,テクノロジー,プログラムとサービス,市民の参画,パートナーシップ)から分類している。また,それぞれの取り組みのレベルによって基本事例(Building Blocks:図書館の基本的サービスであり,伝統的な役割をさらに発展させるために不可欠なもの),優良事例(Good Practices:基本事例を超えて,図書館と地域社会が深く関わりあう事例),独自事例(Unique Practices:図書館の可能性を一層高める,最も革新的な事例)に分けている。

 さらに,統合的な優良事例(Integrative Good Practices)として,上記の5つの側面を組み合わせながら市民を巻き込む革新的なプログラムやサービスを提供し,図書館のポテンシャルを独自に高めている事例が紹介されている。

●各図書館の実践事例

 以下では,独自事例と統合的な優良事例に分類された取り組みの一部を紹介する。

 インフラストラクチャーの独自事例としては,イリノイ州のシカゴ公共図書館にYOUMedia(E1390参照)というメイカースペースがあり,若者たちに3Dプリンターや編集ソフトウェアを提供して自由に作品を作れるようにしているという例がある。

 テクノロジーの独自事例としては,モンタナ州のベルグレイドコミュニティ図書館において技術学習の機会を提供するため,普段は交流の少ない10代の若者と高齢者とがパートナーを組むというプログラムがある。また,テキサス州ベア郡では,米国初の完全デジタル公共図書館であるBiblioTech(E1487参照)が開設されている。

 プログラムとサービスの独自事例としては,在監者や移民,障害者などに対するサービスの例がある。ペンシルベニア州のフィラデルフィア自由図書館では,在監者がビデオ会議システムを通して自身の子どもと一緒に絵本を読めるStories Aliveというプログラムを行っている。

 市民の参画の独自事例としては,ニューヨーク州のアルバート・ウィズナー公共図書館が地域コミュニティ内の対話を促進する目的で,四半期ごとに選んだ本を街中のカフェに置いて提供するWarwick Cafe Reading Projectという取り組みが見られる。同館は自治体と連携し,住民が様々なトピックについて発信できる電子コミュニティ掲示板も作成している。

 統合的な優良事例としては,テネシー州のチャタヌーガ公共図書館が市民のニーズに合わせて図書館施設の大規模改修を行い,メイカースペースや教育設備,青少年の意見をもとにした活動スペース,レコーディングスタジオなどを設置した例がある。また同館は,市民が地域の歴史や未来を共有するChattanooga Memory Projectを開始した。このプラットフォームは,共同で1つのものを築き上げるという実感をコミュニティにもたらしている。さらに同館は自治体と協力し,犯罪統計や予算,計画類等のデータセットを提供するオープンデータポータルも開設した。

●おわりに

 以上のように,米国各地の公共図書館は,スマート化が進むコミュニティにおける教育や支援を目的とした幅広いサービスを提供している。報告書では,多様な人々がともに学び,社会に参画するスペースとして大きな役割を果たしている公共図書館の事例が,規模や財源,地理的位置を問わず幅広く示された。さらに,公共図書館の役割は変化しつつあるが,スマートコミュニティ構想にとって不可欠な存在となることは明らかであり,そのためには市民のニーズを理解し,それを満たす方法を特定することが重要であるとしている。

 スマートコミュニティにおけるデジタル,知識,創造的インフラの重要な要素として,公共図書館は有力な存在となりうる。これからの日本における公共図書館の役割を考えていく際にも,本報告書における米国の先進的な事例は大いに参考になるだろう。

利用者サービス部科学技術・経済課・原智美

Ref:
https://www.ctg.albany.edu/media/pubs/pdfs/IMLS_Report_-_Oct_31.pdf
https://www.ctg.albany.edu/projects/imls2017/#press
https://www.albany.edu/news/89064.php
http://www.albertwisnerlibrary.org/content/warwick-cafe-reading-project
https://chattlibrary.org/
E1740
E1860
E1874
E1390
E1487