CA1946 – 韓国の公共図書館の多文化サービス-プログラム事例を中心として- / 廣田美和

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カレントアウェアネス
No.339 2019年3月20日

 

CA1946


 

韓国の公共図書館の多文化サービス
-プログラム事例を中心として-

関西館アジア情報課:廣田美和(ひろたみわ)

 

1. 日韓の社会と公共図書館における多文化サービスの現況

 ここ数年、日本の在留外国人数(中長期在留者及び特別永住者)は増加しており、2017年末には約256万2,000人(全人口比約2%)と過去最高を記録した。国籍・地域別に見るとベトナム、ネパール、インドネシアが大きく増加し、構成比も変化している(1)。しかし、日本の公共図書館における多文化サービスの現況は、日本図書館協会が行った「多文化サービス実態調査2015」によると、「全体としては足踏み状態が続いている状況」である(E1900参照)(2)

 一方、韓国では、1990年代終盤から在留外国人が急増した。1997年に約38万7,000人であった在留外国人数(短期滞在者を含む)は、2007年には100万人を超え、2017年に約218万人(全人口比約4%、短期滞在者を除くと約158万人で同比約3%)に達した(3)。この背景には、外国人労働者及び国際結婚の増加があり、国際結婚による「多文化家庭」の数は2017年に約32万世帯(総世帯数の約1.6%)となっている(4)(5)

 韓国の公共図書館における多文化サービスは、同国に移住した外国人の定着と適応を支援する市民団体等によって2000年代初めに始められた(6)。2009年に文化体育観光部(7)が「多文化図書館設置及びプログラム支援事業」(8)による公共図書館への支援を開始して以降は、多文化サービスを提供する公共図書館が急速に増えていった。文化体育観光部の支援を受けて設置された公共図書館及び資料室と、プログラム支援を受けた図書館の数は、以下のとおりである。

 

表 文化体育観光部による年度別多文化図書館・資料室
設置数及びプログラム支援数(単位:館)

年度 多文化図書館・
資料室の設置数
プログラムを
支援した図書館数
2009 2 12
2010 6 16
2011 11 30
2012 11 40
2013 9 89
2014 7 110
2015 3 125
2016 4 127
2017 146
出典:“표1-15 다문화자료실 조성 및 프로그램 지원 현황”. 2018한국도서관연감. 문화체육관광부, 한국도서관협회, 2018, p. 49.

 

 また、文化体育観光部は、世界の多様な文化を体験し、相互の文化の尊重と理解の幅を広げるための「多文化サービス活性化事業」を2013年に開始し、多文化サービス企画マニュアルの製作・配布や、担当者教育のためのワークショップ、各種研究などを行っている。2018年には、同事業の一環として、公共図書館で実施された多文化サービスプログラムの8つの優秀事例を掲載した『2018 図書館多文化サービス優秀事例集』 (以下「事例集」)(9)が発行された。

 ここで紹介されているプログラムは、多文化家庭の子どもや大人、移住労働者を対象に読書活動を行うもの、韓国人を主な対象として異文化の理解や受容を助けるもの、双方の交流を図るものなど様々である。本稿では、これらの事例の中から、子どもを含む多文化家庭を支援するプログラムと成人を支援するプログラムを1件ずつ紹介することとし、小学校及び大学と協力したメンタープログラム等を実施した「仁川広域市永宗図書館」(10)と、参加者や移住労働者人権団体と協力して読書プログラムを実施する京畿道・安山市の「安山多文化小さな図書館」(11)を取り上げる。

 

2. 「多文化社会と助け合いin永宗図書館」仁川広域市永宗図書館

 仁川広域市永宗図書館の位置する永宗島は、仁川国際空港を擁する、人口7万人弱の島である(12)。島には約2,000人の外国人が居住しているが(13)、島という立地のため、文化、芸術、教育情報へのアクセスが困難な多文化家庭が多いという。

 そのため同館では、2012年、「多文化社会と助け合いin永宗図書館」プログラムを企画、実施することとした。同プログラムでは、多文化家庭の子どもを対象としたメンタープログラムや、多文化家庭と韓国人家庭を対象とした子育て情報の提供・交流などが行われた。

 

2.1. メンタープログラム

 このプログラムは、仁川広域市から多文化家庭の子どもや親を支援する多文化教育中心学校に指定されている仁川空港小学校と、永宗島から仁川大橋を挟んだ対岸にある仁川大学校の協力を得て実施されたものである。永宗図書館は、仁川大学校及び仁川空港小学校との協力関係の構築や、プログラム全体の運営管理を行ったほか、担当司書が大学生と一緒に読書活動を行った。

 プログラム内容は、言語的問題のために学校生活で困難を経験することの多い子どもの学習面と精神面に注目して構成され、仁川大学校のボランティアサークルの大学生4人がメンターとなり、仁川空港小学校の多文化家庭の子どもを対象に補習授業と読書活動を行うという形式で実施された。メンターとなった大学生が、子どもに教科を教えるだけでなく、兄弟のように親しく接しながら信頼関係を築いたことで、子どもは精神的に安定し、不足する教科の学習や、読書活動を効果的に行うことができたという。

 

2.2. 子育て情報提供・交流プログラム

 このプログラムは、一般家庭に比べて子育てに関する情報が入手しづらい多文化家庭に情報を提供することと、多文化家庭と韓国人家庭の交流を促進することを目的として、両家庭を10家族ずつ募集して実施された。内容は、子育てに関する4つの講義と交流で、講義は、幼児の健康管理、美術・音楽教育、安全教育などのテーマで構成され、幼児のためのマッサージと鍼術体験、読書活動、心肺蘇生法(CPR)実習などの体験も含まれている。このプログラムでは、講義によって多文化家庭と韓国人家庭が子育て情報を共有するとともに、体験を通じてコミュニケーションが促進され、連帯感が形成されるといった成果が出ている。

 

 これらのプログラムは過去に実施されたものであるが、2017年現在、同館では多文化家庭と韓国の子どもが多言語絵本を活用して世界の昔話を学ぶ「私たち一緒に学ぼう」など、文化の相互理解を中心とした多文化プログラムが複数運営されている(14)

 

3. 「移住労働者の翼のある図書館」安山多文化小さな図書館

 安山市は、韓国北西部に位置する、国内で最も多くの外国人が居住する都市である(15)。2008年、安山市外国人住民センターの一角に開館した「安山多文化小さな図書館」(16)は、現在、中国語、ベトナム語、インドネシア語など23か国語1万4,339冊の資料(このうち、韓国語・英語以外の資料は9,877冊)を備えており(17)、まさに「多文化」図書館といえよう。

 

3.1. 翼のある図書館プログラム

 2014年から同館で行われている「翼のある図書館」プログラムは、移住労働者のための読書プログラムである。プログラム参加者は、母国語で書かれた物語の本などを、順番に一段落ずつ声を出して読み、読後にその感想を分かち合う。

 プログラム参加者の大半は、教科書以外の本を読んだ経験がほとんどない青年たちで、このプログラムを通して読書を楽しむほか、他の参加者やスタッフとの交流を通して、移住労働者のための雇用、医療、子どもの教育などに関する情報や、不当な扱いや処遇を受けた時の問題解決に役立つ情報を得ることもできる。

 

3.2. 世界名誉司書

 多くの言語の資料を選書し、読書プログラムを運営することは容易ではないが、同館では、プログラムに積極的に参加する参加者を「世界名誉司書」に任命し、この「世界名誉司書」が、各国語資料の選書と読書プログラムの企画を補助している。また、移住労働者人権団体や参加者と連携してプログラムを実施し、図書館がプログラム進行を、移住労働者人権団体や韓国語ができる参加者がプログラム進行の通訳を行うという形で運営されている。

 

 なお、同館では、このプログラムの他に、様々な国籍の多文化家庭が童話とタロットカードを通じてコミュニケーションをとる「絵で理解する私と私たち:絵本とタロットカード」(18)や、多文化家庭を含む地域のお年寄りすべてを対象とした「本と一緒に行う認知症予防教室」(19)など、多くのプログラムを運営している。

 

まとめ

 韓国は、日本より一足先に、また急速に多文化時代に突入し、政府の多文化政策と共に、公共図書館における多文化サービスも発展を続けている。事例集には、本稿で紹介した事例のほかに6の事例が掲載されているが、そのすべてに共通するのは、多文化プログラムを図書館だけで運営するのではなく、学校や多文化家族・外国人支援機関(20)、民間支援団体、大使館など、関連機関・団体と協力して運営している点である。このような、韓国の公共図書館における多文化サービス事例は、日本の公共図書館で多文化サービスを企画・運営する上でも参考になるものと思われる。

 

(1)法務省入国管理局. “平成29年末現在における在留外国人数について(確定値)”. 法務省. 2018-03-27.
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00073.html, (参照 2019-01-22).

(2)日本図書館協会多文化サービス委員会編. 多文化サービス実態調査2015報告書. 日本図書館協会, 2017, 227p.

(3)정보분석과. “체류외국인 100만명 돌파!”. 법무부 출입국•외국인정책본부. 2007-08-24.
http://www.immigration.go.kr/immigration/1502/subview.do?enc=Zm5jdDF8QEB8JTJGYmJzJTJGaW1taWdyYXRpb24lMkYyMTQlMkYzMTQzOTglMkZhcnRjbFZpZXcuZG8lM0Y%3D, (参照 2019-01-22).
이민정보과. “2017 출입국 외국인정책 통계연보”. 법무부 출입국•외국인정책본부. 2018-06-28.
http://www.immigration.go.kr/immigration/1570/subview.do?enc=Zm5jdDF8QEB8JTJGYmJzJTJGaW1taWdyYXRpb24lMkYyMjglMkY0NDA2MDQlMkZhcnRjbFZpZXcuZG8lM0ZwYXNzd29yZCUzRCUyNnJnc0JnbmRlU3RyJTNEJTI2YmJzQ2xTZXElM0QlMjZyZ3NFbmRkZVN0ciUzRCUyNmlzVmlld01pbmUlM0RmYWxz…, (参照 2019-01-22).

(4)통계청. “인구총조사: 다문화가구 구성 및 가구원수별 가구 – 시도”. 국가통계포털.
http://kosis.kr/statHtml/statHtml.do?orgId=101&tblId=DT_1JD1505&conn_path=I2, (参照 2019-01-22).

(5)国際結婚の中でも、特に韓国人男性と外国人女性の結婚が急増し、韓国政府は国際結婚による家庭を支援する「多文化家族支援法」を制定(2008年)するなどの対策を行っている。
白井京. 韓国の多文化家族支援法:外国人統合政策の一環として. 外国の立法. 2008, (238), p. 153-161.
https://doi.org/10.11501/1000155, (参照 2019-01-10).

(6)“8. 다문화 서비스”. 2010한국도서관연감. 한국도서관협회, 2010, p. 342-351.
http://www.kla.kr/jsp/fileboard/almanacboard.do?procType=view&f_board_seq=16378, (参照 2019-01-10).

(7)韓国の図書館政策を所管する行政機関。

(8)国費で7割を補助し、自治体が3割を負担する形式の補助事業で、補助対象は公募により選定される。
“8. 다문화 서비스”. 2010한국도서관연감. 한국도서관협회, 2010, p. 342-351.
同様の支援事業は2009年以降継続して行われているが、名称や詳細な内容は年度によって異なり、2019年度の名称は「図書館多文化サービス支援事業」である。また、2017年度以降はプログラム支援のみ行っている。

(9)2018 도서관 다문화서비스 우수사례집. 문화체육관광부, 한국도서관협회, 2018, 103p.
http://www.clip.go.kr/damunhwa/pds/view.asp?m_code=7&searchMode=&searchWord=&hb_PageNum=1&idx=21, (参照2019-01-10).

(10)인천광역시영종도서관. “다문화 사회와 품앗이 in 영종도서관”. 문화체육관광부, 한국도서관협회, 2018 도서관다문화서비스우수사례집, 2018, p. 12-25.
http://www.clip.go.kr/damunhwa/pds/view.asp?m_code=7&searchMode=&searchWord=&hb_PageNum=1&idx=21, (参照 2019-01-10).

(11)안산다문화작은도서관. “이주노동자의 날개탈린 도서관”. 문화체육관광부, 한국도서관협회, 2018 도서관다문화서비스우수사례집, 2018, p. 88-95.
http://www.clip.go.kr/damunhwa/pds/view.asp?m_code=7&searchMode=&searchWord=&hb_PageNum=1&idx=21, (参照 2019-01-10).

(12)永宗島は仁川広域市中区に位置し、2017年末現在、永宗洞、龍游洞、雲西洞の行政区域を含む。
행정안전부. “행정구역(읍면동)별/5세별 주민등록인구”. 국가통계포털.
http://kosis.kr/statHtml/statHtml.do?orgId=101&tblId=DT_1B04005N&conn_path=I2, (参照 2019-01-22).

(13)행정안전부. “지방자치단체외국인주민현황:읍면동별 유형 및 지역별 외국인 주민현황”. 국가통계포털.
http://kosis.kr/statHtml/statHtml.do?orgId=110&tblId=DT_110025_A033_A&conn_path=I2, (参照 2019-01-22).

(14)인천광역시립영종도서관. “우리 함께 배워요”. 도서관다문화프로그램공유시스템.
http://www.clip.go.kr/damunhwa/programs/view.asp?m_code=0&addr1=&addr2=&lib_idx=200&program_idx=251, (参照 2019-01-22).

(15)2017年11月1日現在の居住人数(密度ではない)による。
사회통합지원과. “2017년 지방자치단체 외국인주민 현황”. 행정안전부.
https://www.mois.go.kr/frt/bbs/type001/commonSelectBoardArticle.do;jsessionid=LJlWKSgvK2l+qM6NGJpFJCri.node50?bbsId=BBSMSTR_000000000014&nttId=66841, (参照 2019-01-10).

(16)안산다문화작은도서관.
http://blog.naver.com/dadada2661/, (参照 2019-01-10).
ウェブサイトにはプログラムの写真も多数掲載されており、活気に満ちた様子がよく分かる。

(17)안산시중앙도서관. ”다문화작은도서관”.
https://lib.ansan.go.kr/minLib.do?fn_seq=28451&srcYear=2018&srcMonth=8&sitekey1=31&minisitekey=10&gwan1=Y&access=, (参照 2019-01-10).

(18)최현호. “[경기문화읽기] 도서관의 진화-안산다문화작은도서관”. 인천일보. 2018-02-23.
http://www.incheonilbo.com/news/articleView.html?idxno=799792#08hF, (参照 2019-02-05).

(19)안산다문화작은도서관. “책과 함께하는 치매예방교실 개최”. 작은도서관(문화체육관광부). 2018-10-16.
http://www.smalllibrary.org/library/story/3086, (参照 2019-02-05).

(20)韓国では、多文化家族支援法第12条に基づき多文化家族のための教育・相談・情報提供などの事業を実施する「多文化家族支援センター」のほか、結婚移住女性や移住青少年、外国人労働者等のための支援機関が各地に設置されている。
“다문화・외국인 지원기관”. 다문화 가족지원 포털 다누리. 2018-04.
https://www.liveinkorea.kr/portal/KOR/page/contents.do?menuSeq=211&pageSeq=42, (参照 2019-01-22).
 

[受理:2019-02-08]

 


廣田美和. 韓国の公共図書館の多文化サービス-プログラム事例を中心として-. カレントアウェアネス. 2019, (339), CA1946, p. 11-13.
http://current.ndl.go.jp/ca1946
DOI:
https://doi.org/10.11501/11253592

Hirota Miwa
Multicultural Services in Korean Public Libraries:Focus on Multicultural Programs