CA1947 – 奈良大学図書館における日本考古学協会図書の受贈事業について / 森垣優輝

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カレントアウェアネス
No.339 2019年3月20日

 

CA1947

 

 

奈良大学図書館における日本考古学協会図書の受贈事業について

奈良大学図書館:森垣優輝(もりがきゆうき)

 

はじめに

 奈良大学は奈良市山陵(みささぎ)町に立地し、2学部6学科(通信教育1学科)と大学院2研究科4専攻から成る、収容定員2,456人(通信教育1,600人)の私立大学である。1969年の開学当時は同じ奈良市の宝来町にあったが、1988年に現在の校地へ移転した。図書館は校地の南東にあって、北館、南館の2つの建物で構成されており、地上3階地下2階、蔵書規模は約55万冊である。所蔵資料は文化財、歴史、文学の各分野が特に多く、市場に流通せず一般には入手困難な発掘調査報告書や、奈良関係資料が充実しているのが特色である。また、全体の9割以上は開架方式をとっていて、利用者が多くの資料を自由に閲覧可能な環境を整備している。

 所蔵資料の1割強は一般社団法人日本考古学協会から受贈した資料群である。登録冊数は6万1,799冊(図書4万4,312冊、逐次刊行物1万7,487冊)で、発掘調査報告書がこのうち3万6,515冊あり、中にはガリ版刷りで流通量が少なく貴重な報告書も含まれている。2014年末から当初3年計画で受入を開始し、約半年間の延長を経て2017年10月に受入を完了した。以降の記述では日本考古学協会寄贈資料を単に「寄贈資料」と略する。

 本稿では、受贈と受入の経緯、環境整備ならびに予算措置と資料登録方法について、また利用者への資料提供について述べる。大量寄贈資料の受入、利活用に関して他館業務の一助となれば幸いである。

 

1. 受贈の経緯

 2000年代後半、日本考古学協会において多年にわたる懸案となっていた図書保管にかかる経費負担の問題を解決するため、一括引受を条件とした寄贈先が検討されていた。2010年5月にいったんは英国のセインズベリー日本藝術研究所への寄贈が決まった。しかし、会員より、国内有数の規模である考古学関連図書コレクションの海外流出を危惧する強い反対意見が出されたため、同年9月に協会臨時総会が開催され、同研究所への寄贈は否決された(1)

 2012年、協会において国内機関を対象とした寄贈先選定の予備調査開始後、奈良大学がこれに申し込みを行い、協会の審査を経て、2014年5月の協会総会にて寄贈先が奈良大学に決定したものである。

 奈良大学は日本初の文化財学科を擁して文化財専門職の育成にも取り組み、関連資料も継続的に収集している。寄贈先に名乗りを上げたのは教育効果と社会的意義を総合的に勘案した上層部の経営判断による。

 

2. 環境整備と予算措置

 受贈にあたり、奈良大学図書館と日本考古学協会の間で事前協議が行われ、相互に要望と現状を共有して問題点を把握・検討した。

 協会からは、会員も利用できる環境であることが要望され、奈良大学図書館側の課題は収容力ならびに人的リソースの不足であった。

 6万冊を超える資料を3年で受入するにあたり、既存の書架では収容力が足りず、新たに集密書架等を増設して図書館全体の収容力を増強する必要があった。また、年間受入冊数が約1万1,000冊(2)の図書館には寄贈資料を短期間で整理する余力はなく、外部委託の活用は不可欠だった。

 図書館は校地移転にともなう建設当時から1階に手動式集密書架を有しており、今次事業の前には退職教員寄贈資料である水野文庫ならびに洋書を配架していた。このスペースをリニューアルして考古学協会寄贈資料収蔵庫にかえ、1階の図書の移動先として3階閲覧室への書架増設と南館地下への電動集密書架新設を行うことになった。1995年に新棟(南館)を増築した際、その地下2階に将来の書庫用空間を確保し、後日設置予定として長年倉庫用途等に使用していたが、このうち半分の容積を集密書架用としたものである。

 実施に必要な事業予算については、遡及事業費を図書館費として、日本考古学協会より事前連絡のあった全体冊数をもとに総額の見積を取得のうえ、3か年計画で納品都度払いとし、納品冊数見通しに基づき業務委託費に毎年計上した(装備材料費は初期に一括支出)。半年間の期間延長に際しては事前の総額見積内に収める覚書を奈良大学と業務受諾者の間で取り交わした。

 予算規模は、当初予算としては遡及事業費(遡及作業費、装備材料費、倉庫保管費)に約4,700万円、1階集密書架リニューアルと3階書架増設に約1,100万円を要した。さらに地下2階の電動集密書架新設工事には当初予算とは別に補正を行い、約1億5,360万円(うち書架に6,500万円)を支出している。奈良大学としては通算2億円を超える経費を投入したことになる。

 

3. 資料整理と配架

 資料整理は逐次刊行物も含めて物理単位で行う方針とした。外部委託にあたり、NACSIS-CATに書誌がないものについてはすべてオリジナル書誌を作成することとして、目録担当専任職員と業務受諾者の間で目録・装備仕様を定めた。寄贈資料の6割は文化財保護法に基づき各地の自治体等が発行する発掘調査報告書であり、これについては当館固有の請求記号付与ルールに則して著者記号に全国地方公共団体コード(3)を使用している。登録番号は通常の購入・寄贈の番号から独立した体系として、備品登録する寄贈図書の中でも特に区別している。既所蔵分に対する複本もすべて登録対象とした。

 会報や考古学関連同人誌も物理単位ごとに登録番号を付与して登録しているが、管理上の都合でフラットファイルの1ケースに数十点を収めた(登録番号ラベルをフラットファイルにも全て貼付した)ものもある。

 なお寄贈資料の中には事務連絡のプリント1枚という形態のものも含まれており、これらは後日一括登録することとして、前掲の登録冊数には含んでいない。

 作業開始後、委託先からは毎月、段ボール箱20個前後(約2,500冊)の資料が納品されてきた。もともと協会の保管先から箱詰めで作業場所へ送付されていたもので、遡及作業にあたってはなるべく都道府県コードの若い順に、すなわち北の地方から順番に実施するのが望ましいと取り決められていたが、実際の作業開始後はどの箱にどの地方の資料が入っているか正確な情報がなく、開梱してはじめて判明する状態だったと聞く。このため納品後に配架すると都道府県別の配架状況に極端な濃淡が生じた。2015年度後半からは大規模な書架調整を毎月行う必要に迫られ、しかも先の見通しが不明のため一挙に調整を済ませることができず、現場合わせの移動作業を30日ごとに行うため図書館の通常業務を相当圧迫した。

 発掘調査報告書群の納品終了見通しのついた2016年末には1階集密書架内、ならびに館内一部書架の大調整を行った。寄贈資料のうち約8,000冊を占める一般図書の配架場所を変更するなどの対策を実施することで、集密書架内に発掘調査報告書と逐次刊行物を収めることができた。

 

4. 利用

 先述の通り、日本考古学協会からは、寄贈資料を会員も利用できる形にしたい旨、当初より要望されていた。奈良大学図書館は学外個人への貸出サービスを行っていないため図書館間相互協力による現物貸借ならびに文献複写送付と、来館利用時の閲覧・複写サービスを実施すること、来館頻度の高い方には地域公開制度(4)があることや、一時利用の手続きでも入館できることを併せて回答し、会員に周知されている。

 寄贈資料は奈良大学図書館OPACで検索可能で、詳細検索の項目「文庫区分」から「日本考古学協会寄贈資料」を検索キーに指定することで、検索対象を寄贈資料に限定できる。

 寄贈資料はそのほとんどが北館1階の電動集密書架に配架されており、自由に利用できる。ただし前述のように1ケース数十点の逐次刊行物を収めた形態の資料については、資料混在・不明リスクを局限したい管理上の要請により閉架書庫に収容した。閉架資料は原則として学外者の閲覧不可であるが、今次受入に際して運用方法を見直し、閉架の寄贈資料については学外者も利用可とした。

 既所蔵分の複本もすべて登録対象としたことや、逐次刊行物も物理単位で登録したことで利用機会が増大しており、利用目的を寄贈資料に定めて来館する学外者もあって、寄贈資料の利用件数は増加傾向にある。

 

表1 貸出冊数の推移

統計年度 貸出冊数 うち寄贈資料
2016年度 42,368 540
2017年度 49,372 1,122
2018年度※ 36,812 1,006

※2018年度統計は12月末まで、以下同じ

表2 一時利用者数と来館目的の推移※※

統計年度 一時利用者数 寄贈資料を
目的とした来館
2016年度 645 295
2017年度 703 170
2018年度※ 585 128

※※いずれものべ人数
 

表3 ILL学外貸借の推移

統計年度 学外貸借冊数 寄贈資料の
学外貸借使用
2016年度 403 35
2017年度 320 42
2018年度※ 295 52

 

結びにかえて

 今次受贈事業の結果、奈良大学図書館は特に発掘調査報告書の所蔵冊数において、既所蔵の約5万冊から約1.7倍に増強することができ、質・量ともに充実した考古学関連資料群で学内外の利用者に貢献しつつある。また、短期間に受入冊数が膨れ上がったことが寄与して外部のランキングで高得点を得る(5)という副次的効果も生んだ。実施過程では困難もあったが、受贈事業は成功裏に完成したといえよう。

 最後に、長年にわたり資料を蓄積・保管してこられ、寄贈先として奈良大学を選定いただいた日本考古学協会に感謝の意を表して結びとしたい。

 

(1)石川日出志. 日本考古学協会の記録. 日本考古学年報. 2012, (63), p. 84-116.

(2)日本の図書館2014. 日本図書館協会. 2015, p. 304.

(3)“全国地方公共団体コード”. 総務省.
http://www.soumu.go.jp/denshijiti/code.html, (参照 2019-01-25).

(4)学外者の入館には一時利用手続きが必要である。地域公開制度により、希望者は単年度有効のLibrary Cardを取得し、以後の入館手続きを簡略化することができる。

(5)大学ランキング2019年版. 朝日新聞出版, 2018, p. 216-217.
 

 

[受理:2019-02-08]

 


森垣優輝. 奈良大学図書館における日本考古学協会図書の受贈事業について. カレントアウェアネス. 2019, (339), CA1947, p. 14-15.
http://current.ndl.go.jp/ca1947
DOI:
https://doi.org/10.11501/11253593

Morigaki Yuuki
Acceptance of Books Donated by the Japan Archeology Association at Nara University Library