E2125 – 新Tulips Search:ディスカバリサービスの新たな形を目指して

カレントアウェアネス-E

No.367 2019.04.18

 

 E2125

新Tulips Search:ディスカバリサービスの新たな形を目指して

 

   筑波大学附属図書館は2019年3月に,利用者向け情報検索ツール「Tulips Search」を刷新した。

   Tulips Searchは2014年の当館システム更新時から導入された統合検索ツールである。いわゆるウェブスケールディスカバリサービス(以下,WSD:CA1772参照)のツールであるEx LibrisのSummonを使用し,図書館蔵書だけでなくウェブ上の電子ジャーナルなどの多様な情報資源を一元的に検索し,アクセスを提供できる。2014年当時,WSDの導入は国内大学図書館としては先導的な事例であったが,これまでの運用で,検索速度や不明瞭な検索対象などに利用者・職員の双方から不満の声が寄せられた。特に検索速度については,ベンダーに対しても継続的に改善を要望し,相当の改善は見られたものの,理想的な体感速度とは必ずしも言い難い部分があった。

    この中で当館は2019年にシステム更新を迎えた。この更新に際しては予算の大幅な削減があり,新規機能を多数盛り込むことが非常に難しいという背景があった。当館としては本学仮想基盤の利用などで経費を抑える一方,利用者が最も多く利用する情報検索ツールであるTulips Searchを刷新し,より使いやすく,より快適なものとすることで,システム更新の特徴として打ち出すことを狙いとした。このような経緯で,システム更新に際し基幹的機能の強化として検索速度の向上を主とした検索インターフェースの導入を仕様に盛り込み,この点を重視することを明言した。結果,新システム全体を株式会社リコーが落札し,新Tulips Searchに当たる検索インターフェースについては,公共図書館の蔵書横断検索サービスで著名な株式会社カーリル(E1035参照)が担当し,共同で開発する運びとなった。

    そうした体制のもと新Tulips Searchは,高速かつ幅広い検索を実現し,また全文情報への到達性を向上させたツールとして完成した。このツールは,APIを駆使してこれまでの統合検索ツールSummonだけでなく当館の蔵書検索(OPAC)やCiNii,その他,APIが公開され文献情報へのアクセスが可能な各データベースを横断的に検索し,それらのフロントエンドとして機能する。加えてこのツールでは,複数のデータベースを一括検索した際に同じ文献情報が検索結果として複数件ヒットしてしまう,いわゆる「書誌の泣き別れ」の問題についても解決を試みている。DOIやISSN,ISBNなど一意のIDを再検索するなどの手法で同定を行い,重複を高い精度で排除しつつ,複数のソースをまとめて表示する(情報源を明らかにしつつ文献入手の選択肢をできるだけ多数用意する)という仕組みがそれである。この他,一覧性を維持しつつ,絞り込みのための付加情報を提供する機能として,掲載誌毎に論文をまとめて表示することも可能とした。

    また,実際の画面においては必要十分な書誌情報を分かりやすい形で提示する,良い意味で「従来の図書館システムらしくない」,シンプルでモダンなユーザーインターフェース(UI)が採用されている。

    一方で,Summonを採用していた旧Tulips Searchとは見た目や使い勝手が大きく異なるため,利用者やサービスを担当する職員からの反発も予想の範疇ではあった。このため,旧Tulips SearchであるSummonは「Tulips Discovery」として存置することで,情報検索の選択肢を減らさないという措置も行っている。

    新Tulips Searchの公開は本学の春季休業期間中であったこともあり,本記事の執筆時点(3月中旬)で,利用者からこのツールについて届いた意見は賛否いずれを問わず決して多くない。4月以降,引き続き利用者の意見とコンセプト維持の双方を念頭に置きつつ,ツールの改善を実施していく予定である。

    また新Tulips Searchを題材に,「文献を探す・発見する」ことと検索インターフェースの関係を探る取り組みの実施を予定している。この取り組みは当館に設置されている研究開発室のプロジェクトの一環と位置づけられる予定で,本システムの契約期間である5年間を通じての実施が検討されている。

    ここまで報告してきたこの新Tulips Searchはウェブサービスとして公開されており,本学の構成員以外でももちろん利用できる。百聞は一見に如かず。本稿を読んで新Tulips Searchに興味を持たれた方には,是非一度お試しいただければ幸いである。

筑波大学学術情報部・松野渉,高橋雅一,嶋田晋

Ref:
https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/lib/
http://tsukuba.summon.serialssolutions.com/
E1035
CA1772