E2126 – National Film Registryの30年:米国におけるフィルム保存

カレントアウェアネス-E

No.367 2019.04.18

 

 E2126

National Film Registryの30年:米国におけるフィルム保存

 

 2018年,米国のNational Film Registryが制度開始から30周年を迎えた。National Film Registryとは,1988年に成立した米国フィルム保存法(The National Film Preservation Act)を根拠にした「文化的,歴史的,あるいは美学的に重要な」フィルムのリストであり,このリストに掲載されたフィルムは,米国議会図書館(LC),映画スタジオ,その他のアーカイブ機関,フィルム製作者のいずれかによって保存することが求められる。

 米国におけるフィルムの保存政策は,1988年から続く米国フィルム保存法,それによって設けられたNational Film RegistryやLC内に設立された米国フィルム保存委員会,1994年にLCから公表された米国フィルム保存計画,1997年に設立された全米フィルム保存基金等によって進められている。本稿ではそのうち,National Film Registryを取り上げる。なお,米国フィルム保存法は時限法であるが,これまで5回再承認・延長され,現時点では2026年まで効力を持っている。

 毎年,公表後少なくとも10年が経過している作品の中から候補作品が公募され,米国フィルム保存委員会やLCのフィルムキュレーターらの協議の上,登録する作品がLCの館長名で公表される。

 LCが所蔵していないフィルムであってもその候補になり得る。筆者がLCのスタッフにメールで確認したところ,National Film Registryに登録された作品については,LCのフィルム保存の専門家が中心となってそのフィルムを所蔵している個人や機関と協力し,フィルムが保存されるように取り計らう。その過程で,LCにフィルムが寄贈されることが多いとのことである。

 1989年に最初の25作品が登録された。それ以降毎年25作品が選ばれ,これまで30年間で合計750作品が登録された。登録対象は「フィルムで作られていること」とされているため,これまで保存されてきた作品には『市民ケーン(Citizen Kane)』,『2001年宇宙の旅(2001: A Space Odyssey)』,『ブレードランナー(Blade Runner)』等の劇場公開された映画フィルムが多いが,その他にはフィルムで撮影されたマイケル・ジャクソンのミュージック・ビデオ『スリラー(Michael Jackson’s Thriller)』や,音楽祭のドキュメンタリー映画『モントレー・ポップ(Monterey Pop)』も含まれている。また個人のホーム・ムービーとして撮影されたフィルムのコレクション群等の劇場公開されない作品も登録されている。特にホーム・ムービーは近年,撮影当時の様子が分かる歴史的な一次史料として評価されていることから,それらを早い段階でリストに掲載していたことは特色のひとつであるといえるだろう。なお,米国の映画会社や個人によって,製作又は共同製作されたことも登録の条件になっている。

 また,1995年から2002年にかけて,The Library of Congress Film Preservation Tourと題して,National Film Registryに登録されている中から選ばれた作品を劇場のスクリーンで実際に上映する会を米国各州で実施するという取組みも行われていた。

 2018年9月からは,LCが所蔵しているフィルムの中からデジタル化が済んだ作品をNational Screening Roomというウェブサイトで公開している。2019年3月現在で約360作品が公開され,パブリックドメインのものはダウンロードすることができる。ウェブで公開されているもののうち65作品はNational Film Registryに掲載されている作品である。その中には,例えばマッキンリー第25代米国大統領の宣誓を撮影したものや,1904年のニューヨーク地下鉄の様子を撮影したフィルムが含まれている。

 米国フィルム保存法が制定され,National Film Registry等が設けられた背景には,米国の映画業界におけるフィルムの散逸や改変等に対する重大な懸念があった。米国議会に提出された1993年のLCの調査では,米国において,1920年代の映画で公開当初の状態が残っているのは全体の20%未満,1910年代のものになると10%程度しかないことが報告された。1950年より前に製作された映画全体ではおおよそ半分のものしか公開当初の状態のものが残っていないとのことである。また公開当初の状態のフィルムが着色されたり,編集・改変・別媒体に複製されたバージョンが公開されることに対する反対意見もあった。そのため,米国で製作された映画の多様性とフィルムを保存することの重要性を広く認知させることを意図する同法が制定され,その後のフィルム(米国の映画文化)の保存活動につながっていった。

 日本においても,1952年の国立近代美術館の映画事業(フィルム・ライブラリー)の開始以来,東京国立近代美術館フィルムセンターや,2018年に同フィルムセンターが独立して開設された国立映画アーカイブ(E2014参照)によって,フィルムの収集・保存・復元等の活動が続けられている。2009年以降,現在は国立映画アーカイブが所蔵しているフィルム『紅葉狩』,『史劇 楠公訣別』,『小林富次郎葬儀』が重要文化財に指定される等,フィルム自体を「文化財」として評価する動きもでている。米国におけるNational Film Registryの取組みは日本にとっても道標となるといえるだろう。

関西館電子図書館課・山本俊亮

Ref:
https://www.loc.gov/item/prn-18-144/library-of-congress-national-film-registry-turns-30/2018-12-12/
https://www.loc.gov/programs/national-film-preservation-board/about-this-program/
https://www.loc.gov/programs/national-film-preservation-board/preservation-research/film-preservation-plan/
http://filmpres.org/preservation/library06/
https://www.loc.gov/programs/national-film-preservation-board/film-registry/frequently-asked-questions/
https://www.loc.gov/programs/national-film-preservation-board/resources/past-projects/film-preservation-tour/
https://www.loc.gov/collections/national-screening-room/
https://www.loc.gov/programs/national-film-preservation-board/film-registry/complete-national-film-registry-listing/
http://mentalfloss.com/article/75176/what-happens-films-selected-preservation-library-congress
http://www.momat.go.jp/fc/aboutnfc/jubun/
E2014
Francis, David. The National Film Preservation Act: The Library of Congress’s experience in mixing politics and film preservation. Journal of Film Preservation. 1995, vol. 24, no. 50, p. 28-31.