E2014 – 国立美術館の映画専門機関「国立映画アーカイブ」

カレントアウェアネス-E

No.345 2018.04.19

 

 E2014

国立美術館の映画専門機関「国立映画アーカイブ」

 

●国立映画アーカイブの誕生

 2018年4月1日,独立行政法人国立美術館「国立映画アーカイブ」が東京・京橋に誕生した。前身は,東京国立近代美術館(1952年設置当時は国立近代美術館)のフィルム・ライブラリー事業から始まった東京国立近代美術館フィルムセンター(以下「フィルムセンター」)である。同美術館の中の一課として半世紀以上にわたって行ってきた映画の収集・保存・公開・活用の活動をふまえて,他の国立美術館と同格の,一つの独立した館に改組されたことになる。

 館名の「映画アーカイブ」は,当館も含め世界の74の国・地域から164の映画保存機関が加盟(2017年時点)している「国際フィルムアーカイブ連盟(FIAF)」の使命「映画の救済,収集,保存,上映,普及」を行う機関であることを明示している。文化財・文化資源の永続的な「保存」と「活用」を積極的に行うことがアーカイブである,という当館の信条を示す標語として,「映画を残す,映画を活かす。」も掲げた。この館名には,作品の保存や収蔵庫の課題を抱える美術界の方から「心強い」というエールをいただいた。

●国立映画アーカイブに至るまで

 フィルムセンターの独立を望む声は,東京・京橋にフィルムセンター専用の建物が開館した1970年当時から映画業界や学会・映画関係者の間にあったが,一つの転機と言えるのは,2003年の文化庁「映画振興に関する懇談会」でまとめられた「これからの日本映画の振興について~日本映画の再生のために~(提言)」である。同文書にフィルムセンターの独立にむけた提言が記され,翌年には同庁「フィルムセンターの在り方に関する検討会」で「フィルムセンターの独立について(審議のまとめ)」がとりまとめられた。2017年には「未来投資戦略2017」において,映画の海外展開促進のための「フィルムセンターの機能強化」が,さらには文化審議会の「文化芸術推進基本計画」の参考資料「文化芸術政策に係るその他の主な中長期的課題について」でも,フィルムセンターについて映画振興を図る観点から,「継続的な機能と人員の強化を図る必要がある」と指摘されるにいたった。

 一方でフィルムセンターでは,この間,独立に必要な体制の整備を一歩一歩進めてきたといえる。国際交流の分野では,2007年に当館でFIAFの年次会議を開催した後,2009年には主幹の岡島尚志(当時)がアジア人で初めてのFIAF会長に就任(2011年まで)し,FIAF加盟機関との共催事業も同年から国内外で毎年開催するなど,国際的な評価を確立してきた。収蔵フィルム数もこの15年間で3倍に増大し,映画保存棟を2棟増築して,収納可能本数を2倍以上に増やした。現在,所蔵フィルムは8万本を超え,関連資料も80万点以上を収蔵している。また,2009年の所蔵フィルム『紅葉狩』(35ミリ可燃性デュープネガ・フィルム)の重要文化財指定を皮切りに,3年続けて所蔵フィルムが重要文化財に指定され,映画フィルムが文化財として保護される道が開かれた。さらに,2014年度からは文化庁の補助金を得て「映画におけるデジタル保存・活用に関する調査研究」(2017年度まで)を進め,デジタル映画の保存・活用や,フィルム映画のデジタル保存・活用などに関する調査研究を推進した。成果の一つとして,2017年2月,日本の初期アニメーション64本をネット上で閲覧できる「日本アニメーション映画クラシックス」(E1895参照)ウェブサイトを立ち上げ,国内外から大きな反響を得ている。2017年度には,長瀬映像文化財団と株式会社木下グループホールディングスからの大型寄付で専門家の雇用も進めることができ,映画における国際交流,文化・芸術振興,保存・活用すべての面で,独立に必要な基礎的な資金,人材,規則,技術などがほぼ整ったといえる。

●今後の活動

 こうして誕生した国立映画アーカイブでは,日本の映画文化振興のためのナショナルセンターとして,映画の収集・保存・公開・活用に一層注力し,三つの拠点機能―映画を保存・公開する拠点,映画に関するさまざまな教育の拠点,映画を通した国際連携・協力の拠点―を担っていく。なかでも公開・活用については,映画のデジタル保存・活用の調査研究を継続して進める一方で,国内各地の機関と連携しながら,館外での展示や巡回上映なども行い,映画に関する教育の拠点機能などを高めていく計画である。フィルムでの映画鑑賞の機会を各地に提供すること,こどもに映画や映画鑑賞の面白さをスクリーンで体験してもらい次世代の映画文化を支える観客を育むこと,映画文化を担う映写技術者や専門家を育成すること,若手クリエイターの支援など,永続的な映画・映画文化の振興にむけた取り組みが,一つずつ始まっている。

国立映画アーカイブ・冨田美香

Ref:
http://www.nfaj.go.jp/
http://www.nfaj.go.jp/ge/wp-content/uploads/sites/2/2015/01/NFAJrelease02.pdf
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/eiga/eigashinko/index.html
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/eiga/eigashinko/pdf/korekara_nihoneiga_shinkou.pdf
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/eiga/filmcenter/index.html
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/eiga/filmcenter/pdf/filmcenter_dokuritu.pdf
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/miraitousi2017_t.pdf
http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/__icsFiles/afieldfile/2018/03/05/a1402067_03.pdf
http://www.nfaj.go.jp/research/bdcproject/
http://animation.filmarchives.jp/index.html
E1895