E819 – リポジトリにおける名称典拠導入の試み(英国)

カレントアウェアネス-E

No.133 2008.08.13

 

 E819

リポジトリにおける名称典拠導入の試み(英国)

 

 学習や研究の過程で,あるいは図書館業務のさなかに,同名異人の著作物に出くわす経験を,多くの人が持つであろう。たとえば重なる研究フィールドで業績を有し,なおかつ同姓同名であるものの,所属研究機関が異なる場合,はたして同一人物であるのかどうか。また全く同じ研究の分野で,なおかつ同じ所属研究機関に、姓のみが異なる人物がいる場合もあろう。これは異名同人なのか。このように混乱した経験はなかろうか。

 英国情報システム合同委員会(JISC)と経済社会学術評議会(ERSC)が共同で設立した,高等教育・継続教育・研究者コミュニティ向けのデータ・情報資源提供機関である“Mimas”は,JISCからの支援により,英国図書館(BL)と共同で,英国の学術機関リポジトリ及び主題リポジトリ向けに,一意に作成者や作成組織名を同定・識別できる名称典拠ファイルを提供することを模索するテストプロジェクト“Names”を,2007年5月から2008年9月末までの予定で実施している。

 リポジトリにコンテンツを登録するにあたり,コンテンツの作成者・作成機関に関する情報を同時に登録するのが一般的である。だがミドル・ネームのイニシャル標記や,姓・名の順序など,作成者を示す情報である氏名や組織名の標記には,一定のゆれが存在する。これが原因で検索漏れが発生し,同一の作成者・作成機関でありながらコンテンツへのアクセスが妨げられたり,逆にノイズが混入し,検索結果が不正確なものとなる恐れがある。このような問題はメタデータによるリポジトリデータの共有により,より拡散する恐れすらある。Namesプロジェクトの背景として,学術機関リポジトリや主題リポジトリに登録される論文や報告書,研究データが増加し,また利用も増加するに従い,コンテンツの作成者や作成組織を一意に特定できるサービスへの期待の高まりがある。

 Namesプロジェクトでは2007年10月に,研究者による各種リポジトリへの登録,リポジトリ間の横断検索,BLの作成した名称典拠ファイルの活用など,Namesプロジェクトが想定している5つの利用形態について,前提条件や要件についてまとめたシナリオを作成した。引き続き2008年6月には,「典拠データの機能要件(FRAD;E363E640参照)」やMARCフォーマットの作成者フィールド,米国議会図書館(LC)の「名称典拠共同作成プログラム(NACO;CA1521参照)」,「ヴァーチャル国際典拠ファイル(VIAF;CA1521参照)」プロジェクトなど,名称典拠の先行事例のレビューをまとめた。2008年7月には,プロトタイプにおけるソフトウェア要件仕様書をまとめ,公開するに至った。

 ソフトウェア要件仕様書では,プロジェクト開始以降にまとめられたシナリオや先行事例研究を基盤として,リポジトリにおける名称典拠にかかわるさまざまなプロセスとその要件が定義されている。基本的なシステムの構造にはじまり,データベース上への名称典拠の登録,データの出力,インターフェイスの定義,典拠ファイルの管理,外部の既存システムとの互換性,登録された典拠データの修正などといった機能的な要件,英国在住者であるか否かを識別するためのフィールドの作成といった非機能的要件,また2007年10月に策定されたシナリオに基づく,プロトタイプの動作プロセスが示されている。今後,このソフトウェア要件仕様書に沿って,プロトタイプの構築を行うことが表明されている。

 なおオランダでも,国内の大学や研究機関に所属する研究者に,一意のデジタル識別子を付与し,学術機関リポジトリや図書館目録,各種研究情報システムへの活用をはかる“Digital Author Identifier (DAI)”プロジェクトが進められており,学術機関リポジトリ・ポータル“DAREnet”(E750参照)に活用されている。

Ref:
http://names.mimas.ac.uk/
http://names.mimas.ac.uk/documents/Names_project_usage_scenarios_Oct_07.pdf
http://names.mimas.ac.uk/documents/Names_Software_Requirements_11Jul2008.pdf
http://names.mimas.ac.uk/documents/LandscapeReport26Jun2008.pdf
http://www.jisc.ac.uk/whatwedo/programmes/programme_rep_pres/shared_services/project_names.aspx
http://www.surffoundation.nl/smartsite.dws?ch=eng&id=13480
http://www.narcis.info/index
http://ir.library.osaka-u.ac.jp/metadb/up/DRFIC2008/Marc_van_den_Berg.pdf
CA1521
E363
E640
E750