CA1521 - バーチャル国際典拠ファイル―その試みと可能性― / 鈴木智之

PDFファイルはこちら

カレントアウェアネス
No.280 2004.06.20

 

CA1521

 

バーチャル国際典拠ファイル―その試みと可能性―

 

1. 背景

 1990年代後半以降,典拠ファイルの共同構築・共同利用に関する世界各国での取組みは,めざましい展開を見せている。

 1977年に発足したLC名称典拠ファイル(LC Name Authority File: LCNAF)の共同作成プログラムであるNACO(National Authority Cooperative Program)は,ここ10年の間に飛躍的な成長を遂げ,今や419機関の参加館を擁する一大事業となっている。一方,EUでは,2001年から3か年計画でLEAF (Linking and Exploring Authority Files) プロジェクトがスタートし,ベルリン国立図書館を中心に,オーストリア国立図書館,スウェーデン国立公文書館など10か国15機関による,名称典拠ファイルの共有を目指した活動が続けられている。また,規模自体は比較的小さいとは言え,嶺南大学の主導のもと,香港で1999年から開始された中国人名・団体名典拠データベース構築プロジェクト,HKCAN(Hong Kong Chinese Authority(Name)) も無視することはできない。

 本稿では,こうした取組みの中でも代表的な事例として注目を集めている,OCLC,米国議会図書館(LC),ドイツ図書館の三者による「バーチャル国際典拠ファイル(Virtual International Authority File:VIAF)」の構想を紹介したい。

 

2. バーチャル国際典拠ファイルの概要

 バーチャル国際典拠ファイルとは,一言で言えば,各国の書誌作成機関等が作成した典拠ファイルの標目形(著者名,タイトル,件名)を相互にリンクさせることによって,世界規模での典拠コントロールを実現しようとする試みである。

 リンクによる共有というコンセプトからも明らかなように,本構想では,同一実体に対する典拠レコードを一つに統合するのではなく,各国の作成した複数の典拠レコードを並列的に維持する,という考え方が採られている。LEAFとも共通するこの考え方は,各国の利用者の多様な言語・文字に根ざした要求に応えようとする基本姿勢に立脚している。

 ある一つの著者に対する標目形は,多くの場合,それぞれの典拠ファイルにおいて用いられる言語や文字,形式によって異なっている。それらの標目形を一本化してしまうかわりに,各典拠レコードを相互リンクで結びつけることによって,書誌作成機関は各々の言語・文字・形式による典拠レコードを保持したまま,他の機関との典拠情報の共有を行うことができる。

 この構想を実現するためには,いくつかのモデルが考えられる。具体的には,Z39.50(CA1266参照)などのプロトコルを利用して各国の典拠ファイルを検索する分散モデル,各国の典拠ファイルからメタデータを取得してサーバに格納し,各ファイルに対する修正をその都度更新・反映するOAI(Open Archive Initiative; CA1513参照)プロトコル・モデル,中央の1つの典拠ファイルに他の全ファイルをリンクさせる集中モデル,などが想定される。このうちOAIプロトコルを用いたモデルは典拠レコードの維持管理という点で最も優れた方法と考えられており,後述するように,現在進行中の検証プロジェクトの主たる対象として想定されている。

 また,各典拠レコードには固有のコントロール番号が与えられるが,この番号についても,OAIプロトコルを利用して各実体ごとに機械付与する方法が想定されている。

 

3. コンセプト検証プロジェクトの進行

 こうしたバーチャル国際典拠ファイル構想の実現に向けて,OCLC,LC,ドイツ図書館の三者による「コンセプト検証(proof of concept)」プロジェクトが2002年から開始されており,2003年8月には三者による覚書が取り交わされた。

 このプロジェクトは,まず第1段階として,典拠レコードの初期マッチングの自動化を検証する。バーチャル国際典拠ファイルが実現するためには,あらかじめ各国の典拠ファイルの既存レコードを同一著者ごとにマッチングさせておく必要がある。OCLCはこうした遡及的なマッチングを機械的に行うためのアルゴリズムを独自に開発しており,現在,LCNAFの個人名典拠レコード(約3万8千件)とドイツ図書館の個人名典拠ファイルのレコード(約2万件)のマッチングを行いつつ,このアルゴリズムの実効性を検証しているところである。

 このマッチングを1年かけて行った後,プロジェクトは次の段階に移行し,前述したいくつかのモデルのうち,OAIプロトコル・モデルを用いた典拠ファイルの維持管理手法を俎上に乗せる予定である。すなわち,第2段階ではそれぞれの典拠ファイルから得たメタデータを1つないし複数のサーバーに格納し,第3段階ではOAIプロトコルを通じてメタデータの更新分を収集する仕組みを検証する。また,最終段階では,利用者の選んだ文字・言語で典拠レコードを表示する方法が検討されることとなっている。

 

4. バーチャル国際典拠ファイルのもたらすもの

 バーチャル国際典拠ファイルに代表される各地での共同典拠作成プロジェクトの展開は,現在のわれわれの情報環境にどのような恩恵をもたらすだろうか。バーチャル国際典拠ファイルの推進者の一人,LC 目録政策・支援室長ティレット(Barbara B. Tillett)女史の主張に寄り沿いながら,このプロジェクトが持つ意義について,以下に整理してみよう。

 まず,典拠コントロールそれ自体の意義については,多言を要さないだろう。統制された標目は検索の一貫性を保証し,参照形の記録は検索の網羅性を保証する。典拠ファイルは目録情報のナビゲーションにおいて欠かせないツールであるが,典拠情報の共有の仕組みが構築されれば,各国の図書館はもとより,文書館,博物館,権利管理機関,出版社も,典拠コントロールの恩恵に浴することができる。

 さらに一歩進んで,典拠ファイルは混沌としたウェブ環境に活路を開く,高精度の検索ツールとしても期待される。共有された典拠ファイルをサーチエンジンに組み入れる,あるいはウェブ上のレファレンス・ツールや情報資源とリンクする――そうした試みを通じて,ティレット女史の言葉を借りるなら,「将来の“Semantic Web”においては,共有された国際典拠ファイルが不可欠」だと見ることもできよう。

 また,典拠レコードの作成・維持管理は,目録作成業務の中でもきわめて専門的な,それゆえ非常に手間とコストのかかる作業であるが,複数の機関による典拠ファイルの共同構築には,こうした作業を省力化し,費用の節約に寄与するという側面もあることを付言しておこう。

 さて,冒頭に述べた通り,典拠情報の共有という課題はここ数年の間に世界各地での共通の関心事として捉えられ,典拠作成作業の分担化に向けたいくつもの試みが同時に進行しつつある。こうした国際動向の下,国立国会図書館でも,昨年11月に開催された第4回書誌調整連絡会議の中で,国内の他の書誌作成機関と共同で「国の典拠ファイル」を構築し維持管理する「全日本典拠総合データベース」(仮称)の検討を進めることを明らかにした。日本における典拠データの統合に向けた最初の一歩を踏み出そうとしている今,バーチャル国際典拠ファイルを初めとする世界的な典拠情報の共有の動きに,あらためて注目したい。

書誌部書誌調整課:鈴木 智之(すずきともゆき)

Ref.

Tillett, Barbara B. "A Virtual International Authority File". 日本語,中国語,韓国語の名前典拠ワークショップ記録. 第3回. 東京, 国立情報学研究所, 2002, 117-139.

Tillett, Barbara B. Authority Control: State of the Art and New Perspectives. Authority Control: Reflections and Experiences, Florence, 2003. (online), available from < http://www.unifi.it/universita/biblioteche/ac/relazioni/tillett_eng.pdf >, (accessed 2004-05-14).

VIAF: The Virtual International Authority File. (online), available from < http://www.oclc.org/research/projects/viaf/ >, (accessed 2004-04-09).

国立国会図書館書誌部. 名称典拠のコントロール(第4回書誌調整連絡会議記録集). 東京, 日本図書館協会, 2004, 161p.

 


鈴木智之. バーチャル国際典拠ファイル―その試みと可能性―<. カレントアウェアネス. 2004, (280), p.2-3.
http://current.ndl.go.jp/ca1521