カレントアウェアネス-E
No.122 2008.02.06
E750
大阪で「デジタルリポジトリ連合国際会議2008」開催 <報告>
2008年1月30日と1月31日の2日間,大阪大学において,「アジア・環太平洋地域におけるオープンアクセスと機関リポジトリ」をテーマに,デジタルリポジトリ連合(DRF;CA1639参照)の主催,大阪大学附属図書館,大学図書館近畿イニシアティブ(CA1599参照),REFORM(E558,E659参照),国立情報学研究所(NII)の共催,文部科学省の後援で「デジタルリポジトリ連合国際会議(DRFIC)2008」が開催された。
本会議は,「セッション1.アジア・環太平洋地域におけるオープンアクセスと機関リポジトリ」,「セッション2.持続可能なリポジトリを目指して」,「セッション3.機関リポジトリを推進する多様なイニシャチブ」という3テーマに分けられ,国内での機関リポジトリ(IR)の取り組みについての紹介のほか,6か国から参加した7人の参加者が自国でのIRの取り組みについて発表を行った。本報告では,海外からの参加者の発表を中心に紹介する。
1日目は「セッション1」が行われ,韓国,台湾,オーストラリア,インド,日本の代表者から報告があった。韓国の梨花女子大学の情報サービス・資源担当司書であるリー(Nanee Lee)氏は,2003年に韓国教育学術情報院(KERIS;CA1296参照)が開発し,2007年12月現在,215大学が利用しているというIRシステム「dCollection」とコンテンツ収集の取り組みについて紹介した。続いて,国立台湾大学(NTU)のチェン(Kuang-hua Chen)准教授は,NTUのIRである「NTUR」,台湾の高等教育機関にリポジトリを広めつつ統合検索用ゲートウェイを構築するプロジェクト「TAIR」について紹介した。オーストラリア,クィーンズランド工科大学eResearchアクセスコーディネーターのカラン(Paula Callan)氏は,持続可能なリポジトリに向けてのパートナーシップを高める「APSR」,地方の大学のリポジトリ構築を支援する「RUBRIC」,オープンアクセスに関する法律情報を提供する「OAK Law Project」,機関リポジトリの技術研究を行う「ARROW」(CA1575参照)という4つのプロジェクトを紹介し,それらへ資金援助を行った政府の資金提供プログラムについて発表した。インドからは,M.S.スワミナサン研究財団のアルナチャラム(Subbiah Arunachalam)氏が,金銭的な問題から高価な科学雑誌を購入できない図書館が多いインドにおいて,研究成果へのアクセスと可視性を高めるIRが持つ可能性に言及するとともに,研究成果のオープンアクセス化を政府機関が義務付ける必要性を訴えた(E527参照)。なお日本からは,NIIの安達淳教授が日本のIR構築におけるNIIのイニシアティブをテーマに発表を行った(E323,E654参照)。
2日目には「セッション2」と「セッション3」が行われた。「セッション2」では,まず英国サウザンプトン大学のホワイト(Wendy White)氏が,リポジトリを持続可能なものにするために必要な戦略について,所属大学や英国の例に基づいて報告を行い,研究者,図書館員をはじめIRに関わる人の間に協働体制を作り上げていくこと,研究活動におけるIRの存在感を高めることなどの必要性を指摘した。続いて日本におけるIRの実践について,6つの研究機関や組織から報告が行われた。さらにポスターセッションが実施され,日本の20を超える大学や研究機関等が,持続可能なIRを実現するための取り組みを紹介し,その先進性やアイディアをアピールした。また参加者の投票により,筑波大学附属図書館の斎藤未夏氏らの研究グループの「これからのサービスのためのIR利用統計:比較分析の方法論」が最優秀ポスター賞に選ばれた。
「セッション3」では,オランダ,オーストラリア,日本の代表者が発表を行った。オランダ,アムステルダム大学図書館のヴァン・デン・ベルグ(Marc van den Berg)氏は国内の19高等教育機関のIRのネットワークである「DAREnet」について紹介し,さらにDAREnetのモデルをヨーロッパ全域に拡大したプロジェクト「DRIVER」について報告を行った。オーストラリアからはモナシュ大学図書館のフロンアヴェーゲン(David Groenewegen)氏が,自身がプロジェクトマネージャーを務める「ARROW」と「ARCHER」,2つのプロジェクトについて紹介した。なお,「ARCHER」とは,デジタル環境に適応した研究環境,研究ツールを開発するプロジェクトで,将来的にはARROWとARCHERの連携を目指しているという。日本からは,北海道大学附属図書館の杉田茂樹氏がDRFの取り組みについて紹介した。
2日間を通じて参加者は,それぞれの国や機関が抱えている課題の相違点と共通点を共有するとともに,学術情報流通においてIRが持つ可能性を再確認することができたと思われる。なお,当日の資料の一部はDRFICのウェブサイトで公開されている。
(国立国会図書館:堤 恵)
Ref:
https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/DRFIC2008/index_ja.php
CA1296
CA1575
CA1599
CA1639
E323
E527
E547
E558
E604
E611
E654
E659