カレントアウェアネス-E
No.147 2009.04.08
E910
『学術コミュニケーションの新たな地平』<文献紹介>
2008年12月,国立情報学研究所(NII)が学術機関リポジトリ構築連携支援事業第1期報告書『学術コミュニケーションの新たな地平』を公開した。これはNIIが機関リポジトリの構築と各大学間の連携を支援するために行った「CSI(サイバー・サイエンス・インフラストラクチャ:最先端学術情報基盤)委託事業」(CA1626,CA1639参照)の,2007年度までの第1期の成果をまとめたものである。
CSI委託事業では,2005年度に19大学に事業を委託,2006年度からは国内の国公私立大学から公募により参画機関を募集した。この公募における支援対象は,機関リポジトリの立ち上げ構築を支援する「領域1:機関リポジトリの構築・運用事業」と,機関リポジトリ構築・運用に係る技術的・制度的諸問題に実証的に取り組み,問題解決のための具体的成果を得ることを目的とした「領域2:先駆的な研究開発事業」の2種類である。
領域1では,2007年度までに委託機関として70大学が採択され,コンテンツ搭載数は累積で50万件を突破するなどの成果が出た。委託から試験公開までにかかる日数は年々短くなっており,システム構築のノウハウも共有されてきている。また機関リポジトリ運営のための組織内部での規則類の文書化も委託機関の半数以上で大幅に進展した。一方で,運営体制を維持するための予算確保,コンテンツ作成にかかる適正なコストの分析,著作権処理の問題などが今後の課題として挙げられている。
領域2では「構築技術」「発信強化のための技術」「制度的問題」「機関リポジトリの評価基準作成」「学内連携」「学外連携」という6つのテーマの下で事業が展開された。代表的なものとして,慶應義塾大学によるオープンソース「XooNips Libraryモジュール」の開発や,北海道大学等によるリンクリゾルバ連携システム「AIRwayプロジェクト」(CA1628,E622参照)などがある。
こうした領域2の各研究・調査プロジェクトは4つの概念(「リポジトリコミュニティ支援」「付加価値サービス」「発信力強化」「機関リポジトリ評価」)に分類され,これらと機関リポジトリ群とが連携して機能を強化しあうような相補構造としての「リポジトリネットワーク」として整理された。CSI委託事業の第1期は,こうしたネットワーク形成の第一歩と位置づけられている。
以上の成果をふまえ第2期を迎えるにあたっては,機関リポジトリによる学術コミュニケーションの変革に向けた各プロジェクト間の共通認識の確立,コンテンツの永久保存に向けての技術的・制度的問題の解決,大学の可視化およびアカウンタビリティの向上などが不可欠であるとしている。
報告書は,学術研究の在り方を根本的に変革する可能性を秘めた機関リポジトリの発展のために何が必要か,より多くの実践と議論が必要であると結ばれている。
(関西館文献提供課・服部有希)
Ref:
http://www.nii.ac.jp/irp/archive/report/pdf/csi_ir_h17-19_report.pdf
http://www.nii.ac.jp/irp/
CA1626
CA1628
CA1639
E622
E654