カレントアウェアネス-E
No.147 2009.04.08
E909
米国が武力紛争の際の文化財保護条約を批准
武力紛争時の文化財保護を目的とする「武力紛争の際の文化財の保護に関する条約(平成19年条約第10号)」(E192,E688,E879参照)および同議定書について米国は,すでに1954年5月の採択時に署名を行っていたものの,その後長らく批准を行っていなかった。米国を欠くことは,同条約の実効性確保の点で問題とされてきた。
1999年1月6日に当時のクリントン(Bill Clinton)大統領は,連邦議会上院に対して,同条約締結について助言と承認を求めた。これに対し上院は,2008年9月25日に助言と承認を与えた。そして2009年3月13日,ついに米国は条約の批准書をユネスコに寄託した(6月13日発効)。これで米国は,条約の123番目の締約国となる。
上院は,今回の同条約の助言と承認に当たって,「軍事上の必要がある場合には,文化財に付随的損害をもたらす可能性があろうとも,すべての文化財を合法的で相応の手段により攻撃することを許す」「この条約が確立する規範は,通常兵器にのみ適用され,核兵器を含む他の種類の兵器を管理する国際法に影響しない」といった事項を含む,米国の立場を明確にした4つの了解事項と宣言を付している。
クリントン大統領(当時)は上院に対し,条約と同時に条約議定書についても助言と承認を求めたが,これは上院外交委員会において条約とは分離して審議することとされ,いまだ助言と承認を得るにいたっていない。さらに1999年3月には,同条約第二議定書が採択されているが,米国は署名を行っておらず,加入に必要な上院の助言と承認も求めていない。
今回の米国の批准により,国連安全保障理事会の常任理事国で同条約未締約の国は,英国だけとなった。その英国においても,同条約・議定書・第二議定書を批准するための法案“Cultural Property (Armed Conflict) Bill”が,今国会に提出されようとしている。
Ref:
http://erc.unesco.org/cp/convention.asp?KO=13637&language=E
http://frwebgate.access.gpo.gov/cgi-bin/getpage.cgi?position=all&page=S9555&dbname=2008_record
http://www.commonsleader.gov.uk/textonly/Page2172.asp
http://www.savingantiquities.org/pdf/ArtLawIssueII.pdf
E192
E688
E879