E818 – 図書館の運営資金をどうやって集めるか?―OCLCの報告書から

カレントアウェアネス-E

No.133 2008.08.13

 

 E818

図書館の運営資金をどうやって集めるか?―OCLCの報告書から

 

 図書館の利用者が増えている一方で,図書館運営のための資金が十分でないため,多様化する利用者のニーズに十分応えることができない,ひどい場合は運営そのものが行き詰る(E649E716参照)―米国の公共図書館が抱えるこの課題を解決する糸口はどこにあるのだろうか。図書館への資金提供を活発化させるためには,誰に,どのように働きかけるアドヴォカシー(CA1646E781 参照)活動が有効なのか,という問題意識の下,OCLCは,ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団から助成を受け,調査を実施していた。このほどその成果が報告書“From Awareness to Funding: A study of library support in America”としてまとめられ,発表された。今回の調査の対象は,人口が20万人未満のコミュニティの18歳から69歳までの有権者と,公選された地方公務員という2つのグループである。彼らに対し,質問紙調査や電話インタビューが行われた。

 この2グループがターゲットとなったのは,2つの目的による。まず1つは,図書館の財政的な支援者とは誰なのかを見極めることである。この目的を達するため,調査対象は,米国の公共図書館の90%以上がサービスを提供している人口20万人以下のコミュニティ(E699参照)の,図書館運営に係る住民投票に投票権を持つ有権者とされた。もう1つの目的は,公選された地方公務員の,図書館に対する一般的な考え方を理解し,それが公共図書館への資金提供を支持する意欲にどのような影響を及ぼしているかを明らかにすることである。「公選された地方公務員」が対象となったのは,図書館の運営資金の約8割が地方自治体から出ているという理由による。報告書では,量的調査と質的調査の両面から,この2グループの性質について精査している。

 本報告書は全7章で構成されており,第1章が全体の概略,第7章が結論となっている。第2章では,図書館への財政支援への態度から分類した有権者の4類型,第3章では,地方議員の考え方と図書館への資金提供の関係,第4章では,人々が図書館を支援する要因について,第5章では潜在的な図書館支援者層の考え方について,第6章では,図書館によるどのようなメッセージやアプローチが潜在的な図書館支援者層に効力を発揮するのかについて,それぞれ詳細に分析している。

 本報告書では,下記のようなことが明らかになった。

  • 図書館への財政支援への態度から有権者は,「積極的支援者」「潜在的支援者」「不支援者」「不投票者」の4つの層に分類できる。調査に回答した有権者に占める割合はそれぞれ,7.1%,32.3%,34.0%,26.6%となった。
  • 図書館の運営資金の仕組みについて知っている人は少ない。
  • 図書館を最もよく利用する層が,図書館の財政的支援者になるわけではない。また,図書館の財政的支援者が図書館利用者であるわけでもない。
  • 生涯学習を支援する図書館員を熱心だとみなす,図書館は学校と同じようにコミュニティにとって不可欠な資源だと考えるなど,図書館の支援者層(積極的支援者層と潜在的支援者層)は,図書館を単なる情報源ではなく,人々の生活を「一変(transform)」させるための力となると信じている点に特徴がある。

 以上を踏まえ,報告書では具体的なアドヴォカシー活動を提案している。それは,積極的支援者層と潜在的支援者層を対象とし,「人々の生活を一変させる」という図書館の価値と,図書館は学校や警察と同じように財政難にある,ということを強く印象付けるキャンペーンを繰り広げていくことだという。

 米国の公共図書館における財政支援の現況と対策についての知見を提供する本報告書は有意義なものであり,またこういった調査を実施し,エビデンス(CA1625参照)に基づいたアドヴォカシー活動を喚起する取組みは,国を問わず参考になるものと思われる。

Ref:
http://www.oclc.org/reports/funding/
http://www.oclc.org/news/releases/200826.htm
CA1625
CA1646
E649
E699
E716
E781