E820 – 米カントリー音楽の女王,子どもたちに本を無料で贈って10余年

カレントアウェアネス-E

No.133 2008.08.13

 

 E820

米カントリー音楽の女王,子どもたちに本を無料で贈って10余年

 

 「私の父は世界一賢明な男性でしたが,読むことができませんでした」。「私は,お金ができたら,そのお金を使って,全ての人が読書に触れられるようにしたいと決心したのです」。グラミー賞,アカデミー賞の受賞歴もあり,カントリー音楽の女王とも評される米国の歌手,ドリー・パートン(Dolly Parton)氏は,2008年7月に英国で開催されたコンサートにおいて,このように語ったという。

 パートン氏は1996年,5歳未満の子どもたちに毎月,無料で本を贈るというプログラム“Dolly Parton’s Imagination Library”として長年の夢を現実のものとしている。このプログラムはパートン氏とドリー・パートン財団が運営するもので,当初,パートン氏の故郷であるテネシー州セヴィアー郡でのみ実施されていたが,評判が高まり,1999年には全米へ,2006年にはカナダへ,2007年には英国へと実施地域が拡大された。2007年の時点で,米国の43州,コロンビア特別区,カナダの6州と1準州から,合わせて732のコミュニティが参加し,42万人の子どもたちに,毎月本が贈られているという。

 子どもたちに贈られる本は,児童サービス担当ライブラリアンなど専門知識を持った委員から成る委員会が,発達段階に応じたものを選定している。例えば,1年目の子どもたちには,カラフル,リズミカル,文字が最小限,簡単に使える,といった特徴を持った本が選ばれ,5年目の子どもたちには,学校へ行く準備段階であることを意識して,パズルを取り入れている作品,民話,ノンフィクション,感謝について学ぶことができる作品,といった内容の本が選ばれている。その他,多言語での資料提供も行っている。

 このプログラムへの新たな参加地域は随時募集中であるが,参加するためには,(1)プログラムを取り入れたい地理的地域の明確化,(2)必要経費(資料費とその郵送費は各地域の負担)の試算とスポンサー探し,(3)子どもに関するデータの登録や毎月の経費の支払いを行う地域の代表の特定,(4)必要な事務処理,(5)対象となる子どもに向けたパンフレットの注文,(6)業務説明書とレファレンスガイドの受取,(7)キャンペーンイベントの主催,という7つのステップを経る必要がある。 (1)から(3)で明らかなように,必要な業務管理は各地域の代表が執り行い,費用は各地域が募ったスポンサーによって賄われる。なおスポンサーの名前は,上述のパンフレットと,本を郵送する際のラベルに掲載される。子どもたちのデータを管理するデータベースのシステム運用,本の梱包・発送については,ドリー・パートン財団が行っている。以上の手続きを経て,プログラムへの参加が認められた地域では,5歳未満の子どもたち全員が本をもらう権利を持つ。

 子どもたちに贈った本は,2006年と2007年だけでも,合計770万冊にも及ぶという。子ども1人1人に対し,5年間に渡って毎月無料で1冊の本を贈るということ,一個人に端を発した活動が,10年以上に渡って継続し,さらに国を超えて拡大し続けているということは,注目に値するだろう。

Ref:
http://dollysimaginationlibrary.com/
http://www.bromleytimes.co.uk/content/bromley/times/news/story.aspx?brand=BMLYTOnline&category=news&tBrand=northlondon24&tCategory=newsbmlyt&itemid=WeED16%20Jul%202008%2014%3A31%3A22%3A987
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