E2691 – 日本図書館研究会第65回研究大会シンポジウム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.478 2024.04.25

 

 E2691

日本図書館研究会第65回研究大会シンポジウム<報告>

大阪城南女子短期大学現代生活学科・尾松謙一(おまつけんいち)

 

  2024年3月9日と10日に、エル・おおさか南ホール(大阪府)において、日本図書館研究会第65回研究大会が対面形式で開催された。本稿では、10日に開催されたシンポジウム「読書バリアフリーと図書館」の概要を紹介する。

  まず、司会の村林麻紀氏(八尾市立八尾図書館)と佐藤悠氏(大阪市立淀川図書館)からの挨拶の後、村林氏から次のようなシンポジウムの趣旨説明があった。

  市川沙央氏(第169回芥川賞受賞者)の読書バリアフリーの環境整備推進への切実な思いを掲載した新聞記事を紹介し、2019年に制定された「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(読書バリアフリー法;CA1974参照)をはじめとする法整備は進んでいるが、その認知度は低いとした。そうした状況認識から、本シンポジウムは「読書バリアフリーと図書館」をテーマに設定し、研究者、出版界、各種図書館の立場からの報告と、それに基づいた現状や課題について議論を行う旨、説明した。

  野口武悟氏(専修大学)から、「日本における読書バリアフリーの現状と課題」と題した基調報告があった。まず、読書バリアフリー法が制定された背景とその内容について概説した。次に、同法に基づく行政等の取り組み状況について、国、地方公共団体、図書館界、出版界に整理して説明した。今後の展望として、読書にバリアを感じる人は視覚障害者等に限らないことから、図書館利用に障害のある人へのサービスという視点に立ち戻って、総合的に検討する必要があると指摘した。

  落合早苗氏(アクセシブル・ブックス・サポートセンター:ABSC)から、「ABSC(アクセシブル・ブックス・サポートセンター)の目指すもの」と題して、読書バリアフリー法に対応するために日本出版インフラセンター(JPO)に設置された組織であるABSCの設立経緯と活動、電子書籍市場の現状について報告があった。本の統合カタログサイト“Books”のアクセシブル化、国立国会図書館(NDL)のAPIの利用による同サイトの改修について言及した。

  杉田正幸氏(NDL関西館)から、「みなサーチ(国立国会図書館障害者用資料検索)をはじめとする国立国会図書館の読書バリアフリーの取り組みについて」と題した報告があった。国立国会図書館障害者用資料検索(みなサーチ;E2608参照)の名称の由来、NDLの障害者サービスの歴史、みなサーチの特徴について説明した。

  原田敦史氏(堺市立健康福祉プラザ 視覚・聴覚障害者センター)から、「点字図書館における読書バリアフリーについて」と題した報告があった。視覚障害者情報提供施設と聴覚障害者情報提供施設の現状をデータに基づき分析したうえで、DAISYの操作やスマートフォンによる読書といった読書方法の習得を支援するサービスの必要性、各施設のサービスを知らない人への広報、啓発の必要性を指摘した。

  吉田沙矢香氏(滋賀県立図書館)から、「滋賀県立図書館の『読書バリアフリーサービス実施方針』と取り組み」と題した報告があった。同館の障害者サービスの取り組み、「滋賀県読書バリアフリー計画」と「滋賀県立図書館読書バリアフリーサービス実施方針」の策定経緯、概要、現状と課題、今後の取り組みについて説明した。

  その後、野口氏がコーディネーターとなり、各報告者による討議が行われた。最初に、杉田氏から「みなサーチ」のデモが行われた。デモの後、参加者から事前に寄せられた質問に対して、各報告者が回答した。次に野口氏から「出版界が図書館界に希望すること、逆に図書館界が出版界に希望すること」という話題が提供され、意見交換が行われた。最後に、これからの読書バリアフリーのあり方について、各報告者の見解が示された。まとめとして、野口氏が、落合氏の「ABSCの究極の目標は、ABSCが無くてもよい世界になること」という発言を紹介し、同様に「障害者サービス」ということを言わなくても、多様な人々に応じたサービスを提供する図書館を目指していきたいと締め括った。

  なお、シンポジウムの詳細な記録は、同研究会の『図書館界』に掲載予定であり、参照されたい。

Ref:
“日本図書館研究会第65回研究大会(ご案内)”. 日本図書館研究会.
https://www.nal-lib.jp/65taikai/
ABSC.
https://absc.jp/
本の総合カタログBooks.
https://www.books.or.jp/
みなサーチ.
https://mina.ndl.go.jp/
これからの滋賀県立図書館のあり方. 滋賀県教育委員会. 2018, 23p.
https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5107525.pdf
滋賀県読書バリアフリー計画. 滋賀県教育委員会. 2022, 25p.
https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5309679.pdf
滋賀県立図書館読書バリアフリーサービス実施方針. 2023, 10p.
https://www.shiga-pref-library.jp/wp-content/uploads/2023/05/d2c5300d8e2746caf16639d88db9a574.pdf
杉田正幸. 国立国会図書館障害者用資料検索「みなサーチ」β版の紹介. カレントアウェアネス-E. 2023, (459), E2608.
https://current.ndl.go.jp/e2608
野口武悟. 読書バリアフリー法の制定背景と内容、そして課題. カレントアウェアネス. 2020, (344), CA1974, p. 2-3.
https://doi.org/10.11501/11509684