E2690 – 「JATDT舞台美術作品データベース」の公開とその意義

カレントアウェアネス-E

No.478 2024.04.25

 

 E2690

「JATDT舞台美術作品データベース」の公開とその意義

日本舞台美術家協会・伊藤雅子(いとうまさこ)

 

●はじめに

  2024年1月31日、一般社団法人日本舞台美術家協会(Japan Association of Theatre Designers&Technicians:JATDT)が「JATDT舞台美術作品データベース」(以下「データベース」)を公開した。舞台美術の資料を蓄積し、後世に舞台美術文化をつないでいくデジタルアーカイブである。本稿では、JATDTや舞台芸術の歩みに触れつつ、データベースを紹介する。

●JATDTについて

  JATDTは、舞台芸術において視覚的・美術的立場から演出に参画する創作者と技術者、ならびに舞台美術教育者や研究者が集まった、国内唯一の舞台美術家のための職能団体であり、1958年に創立された。

●データベースの概要

  データベースの主な目的は二つある。一つは、舞台美術に関する様々な資料をデジタル形式で残すことにより、貴重な舞台美術資料の散逸を防ぐこと。もう一つは、舞台美術を学びたい人、すでに舞台に関わっていて、この分野にどのような人材がいるか知りたい人の為に幅広い資料を公開すること。資料の公開により舞台美術のプロセスなどを学べるようにすることで、舞台美術の教育の発展や新しい人材育成につながることも目指している。

  データベースは主に、演劇、ミュージカル/2.5次元、バレエ/ダンス、オペラ、古典芸能に関する情報の検索などが可能な「舞台美術ギャラリー」、舞台美術家のプロフィールなどを提供する「舞台美術家一覧」、舞台美術プランナーのインタビュー動画を掲載する「オーラルヒストリー紹介」、舞台芸術に関連する書籍などを紹介する「文献紹介」で構成されている。2024年3月現在、上演情報2万2,988件、舞台美術資料情報1万9,621件、舞台美術家情報233件、オーラルヒストリー8件、関連文献紹介193件が登録されている。

  データベースは、JATDTが企画・制作・運営し、一般社団法人EPADが2023年度に文化庁文化芸術振興費補助金(統括団体による文化芸術需要回復・地域活性化事業(アートキャラバン2)、独立行政法人日本芸術文化振興会)の助成を受けた事業の一環として作成されたウェブサイトである。

●アーカイブの必要性について

  終戦直後の舞台美術家は、沢山の資料・書籍を残してきた。しかし、約30年前、当時大学生であった筆者は、大学の図書館以外でこれらの情報を探し出すことが出来なかった。現在は教職に就いているが、学生から、「舞台美術に関する情報がない」「どう勉強したら美術家になれるのかがわからない」「調べてもほとんど出てこない」と常々言われてきた。インターネットは進化したが、アナログ要素の多い舞台美術は、この30年間あまり進歩してこなかったように感じる。進歩していたとしても、情報が外に出にくい、閉ざされていてわからない状況である。演劇は「記憶」に残すものだという認識が今でも根深く残っているのも要因の一つであろう。なぜなら演劇は、上演する側と観る側が同じ空間に存在し、相乗効果によって完成する。公演が終わると当事者達の記憶に仕舞われていくものであるからである。

  一般的にアーカイブとして公開されるのは、完成された舞台写真と映像である。「記憶」の「記録」として成立している。しかし教育も視野に入れたアーカイブにするにあっては、作品が完成に向かうまでの過程を、成功例だけではなく、没案・失敗談なども含めて伝えていくことが重要である。なぜなら、舞台美術家が描いた絵がそのまま形になることは少ないからである。上演空間・予算・スタッフや役者との関係性を含めたさまざまな制限や状況が存在する。最終的には、全てを演出家に委ねることになる。

  「戯曲デジタルアーカイブ」や舞台公演映像の情報検索サイト“Japan Digital Theatre Archives”(JDTA)など舞台関係者が作成する他のアーカイブとこのデータベースの情報を横断検索でつなげることにより、厚みのある深い情報となり、1本の舞台作品においてもトータル的な保管となるであろう。

●さいごに

  資料の整理―保管・公開―利用―フィードバックという循環をつくりあげ、持続性のあるデータベースに進化させていきたいと考えている。現場に関わる専門知識を持つ関係者が自らアーカイブを構築する事により学びの多い状況となる。過去を知ることで新たな創造が生み出され、人材育成にもつながっていくと確信している。

  データベース自体はデジタルなものであるが、人と人とのコミュニケーションを通して構築され、受け継がれていくものであると考えている。こうした人とのつながりや舞台美術に関わる人々の情熱も含めて、未来に継承していきたい。

Ref:
“お知らせ一覧”. JATDT舞台美術作品データベース.
https://sdda.jatdt.or.jp/information
JATDT舞台美術作品データベース.
https://sdda.jatdt.or.jp/
日本舞台美術家協会.
https://jatdt.or.jp/
EPAD.
https://epad.jp/
戯曲デジタルアーカイブ.
https://playtextdigitalarchive.com
Japan Digital Theatre Archives.
https://enpaku-jdta.jp
田村優依. ドーナツ・プロジェクト2023シンポジウム<報告>. カレントアウェアネス-E. 2024, (474), E2673.
https://current.ndl.go.jp/e2673