E2451 – 鳥取県の読書バリアフリー推進に関する取組について

 

カレントアウェアネス-E

No.426 2021.12.09

 

 E2451

鳥取県の読書バリアフリー推進に関する取組について

鳥取県立図書館・福市信(ふくいちまこと)

 

●計画策定の背景

  鳥取県立図書館(以下「当館」)における障がい者サービスは,2006年の「鳥取県立図書館の目指す図書館像」策定により本格的に始動した。「情報拠点としての図書館」を実現するための具体的方策として「障害者・外国人利用者に対応できる職員の養成」が明記されたことから研修の計画的な受講を始めた。2007年度には館内の課や係をまたいでワーキンググループ「障がい者サービス委員会」を組織し,研修で得た情報なども取り入れながら,具体的なサービス整備を少しずつ進め,今に至っている。

  市町村立図書館に対しても,2008年以降,障がい者サービスに関する研修を実施してきたが,資料面や設備面などの整備は徐々に進みつつあるものの,ほとんどの図書館において,障がい者サービスが運営方針やサービス計画として明確に位置づけられていないという状況であった。

  このような状況の中,読書バリアフリー法(CA1974参照)が2019年6月に施行され,地方公共団体における計画策定は努力義務とされたが,この機会に県の福祉保健部ささえあい福祉局障がい福祉課(以下「障がい福祉課」)と,国の基本計画の策定にあわせて,県の計画の作成作業に着手することを決めた。

●計画の策定について

・計画策定への着手
   2020年7月に国の基本計画が通知された(E2307参照)。この動きに呼応し,当館と障がい福祉課で,県の計画策定に向けて,関係者の意見を聞くための協議会を設置すること,協議会の協議内容や回数,計画公表までのスケジュールなどを確認した。作成作業を進めるにあたっては,国と県の役割を明確にし,そのうえで,国の基本計画の各項目に県の状況を反映させた。

・「鳥取県視覚障がい者等の読書環境の整備の推進に係る関係者協議会」(以下「関係者協議会」)の設置および開催
   計画案の作成と並行して,関係者協議会について,委員推薦団体の決定,委員決定の調整などの作業を障がい福祉課と協議しながら進め,学識経験者,障がい当事者代表,公立図書館,特別支援学校,ボランティア代表など,13人の委員を決定した。

  関係者協議会は,2020年12月,2021年1月,3月の計3回開催した。1,2回目では計画案への意見を聴取し,その結果を受けての修正を経た計画案に対して,2021年1月22日から2月12日までパブリックコメントを実施した。3回目で,パブリックコメントで受け付けた意見等を反映した計画案を説明し,関係者協議会としての最終的な計画案として決定した。

  上記の経緯で決定した最終的な計画案が2021年3月に知事および教育長の決裁を経て正式に決定された。

●今後の取り組み

  計画に基づいて読書バリアフリー推進に向けた具体的な取り組みを進めていくためには,関係団体との連携が不可欠であり,引き続き関係者協議会を設ける予定としている。

  計画の周知を図り,また,図書館や鳥取県ライトハウス点字図書館の取り組みを知ってもらうために,2021年度はフォーラムの開催,啓発パネルの作成とその巡回展示,デイジー図書の利用促進や障がいに配慮したさまざまな資料を周知するためのはーとふるサービスコーナーのリニューアルを実施することとしている。図書館や学校の職員に対する研修についても,当館の研修体制の中に組み込んで実施する予定である。

  今回の計画は,2025年度が一応の区切りとなっているが,計画そのものの見直し,確認などを行いながら,2026年度以降も関係機関等と緊密に連携して,読書環境の整備に取り組んでいく予定である。

●読書バリアフリーフォーラムの開催

  読書バリアフリー推進に向けた具体的な取り組みとして2021年10月31日,「すべての県民に読書のよろこびを-読書バリアフリーの現状と課題-」というテーマでフォーラムを開催した。以下その概要である。

  フォーラムでは,これまで読書バリアフリー法の制定に関わるなど,長年,障がい者の読書環境の整備に尽力されている宇野和博氏(筑波大学附属視覚特別支援学校教諭)の講演と,鳥取県の計画についての報告,そして,宇野氏をコーディネーターとしたパネルディスカッションを行った。パネルディスカッションには,鳥取県視覚障害者福祉協会の情報誌編集委員,困り感を抱える子を支援する親の会,音訳ボランティアグループ,鳥取県ライトハウス点字図書館の方々に登壇いただき,読書について障がい当事者の立場や,発達障がいを持つ子どもたちを支える立場から,それぞれお話しいただいたほか,ボランティアグループの活動,鳥取県ライトハウス点字図書館の取り組みを紹介していただいた。また,当館職員として筆者も参加し,会場の質問に答えていく形で,ディスカッションを行った。

  このフォーラムの開催により,多くの障がい当事者,関係団体,行政関係者などの方々に,図書館,鳥取県ライトハウス点字図書館,ボランティアなどの読書バリアフリーの取り組みを知っていただくよい機会となった。今後も引き続き,図書館関係者を含め,さまざまな立場で読書バリアフリーについて考えていただけるような機会を提供していきたいと考えている。

Ref:
鳥取県立図書館. 鳥取県立図書館の目指す図書館像. 2006, 19p.
https://www.library.pref.tottori.jp/about/18-tosyokan-zou.pdf
鳥取県. 鳥取県視覚障がい者等の読書環境の整備の推進に関する計画. 12p.
https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/1237554/keikaku2.pdf
“鳥取県視覚障がい者等の読書環境の整備の推進に関する計画(案)に係るパブリックコメントの実施結果”. 鳥取県.
https://www.pref.tottori.lg.jp/296770.htm
“読書バリアフリーフォーラム「すべての県民に読書のよろこびを-読書バリアフリーの現状と課題-」”. 鳥取県立図書館.
http://www.library.pref.tottori.jp/event/2021/10/1520213710.html
野口武悟. 「読書バリアフリー基本計画」を読む. カレントアウェアネス-E. 2020, (399), E2307.
https://current.ndl.go.jp/e2307
野口武悟. 読書バリアフリー法の制定背景と内容、そして課題. カレントアウェアネス. 2020, (344), CA1974, p. 2-3.
https://doi.org/10.11501/11509684