E2692 – 図書館を未来につなぐ江北図書館の活動<報告>

カレントアウェアネス-E

No.478 2024.04.25

 

 E2692

図書館を未来につなぐ江北図書館の活動<報告>

専門図書館協議会・金子由里恵(かねこゆりえ)

 

  2024年2月28日、専門図書館協議会関西地区連絡会が新春講演会「図書館を未来につなぐ―滋賀・江北図書館の活動から―」をオンラインで開催した。江北図書館は、滋賀県長浜市に位置する私立としては日本で3番目に古い図書館である。本講演会では同館の理事長・岩根卓弘氏と同館長・久保寺容子氏から地域に愛される図書館をいかに次世代につなぐか、という観点から運営の工夫やその在り方などについてお話しいただいた。本稿では、その内容について報告する。

●江北図書館の歴史と新たな活動

  江北図書館の前身は、伊香郡余呉村出身の弁護士・杉野文彌が「故郷に図書館を建て青少年に勉学の場を与えてあげたい」という思いから、1902年に開設した「杉野文庫」である。1904年に木之本村に移転し、1907年に財団法人江北図書館を開館した。以降、社会情勢などにより、法人組織の維持すら難しくなるが、移転しながらも存続の危機を乗り越え、2011年に公益財団法人の認定を受けた。しかし、近年は厳しい財政状況による運営難に直面し、年間250~300万円の運営費ですら賄えない状況に陥ったという。また、現在の本館は、1937年建築で老朽化が激しく耐震性も低いため、大規模な改修工事が必要であった。

  そこで、2021年に地元の有志が理事会に新たに加入して新体制を整え、地域に貢献できる図書館を目指して、以下の三つの基本方針を策定した。

  • 杉野文彌が抱いた、青少年育成と地域文化の向上の思いを引き継ぐ
  • だれもが、安全な施設内で、安心して図書や史料が利用できる、地域に解放された図書館を目指す
  • 地域の魅力を集め発信し、ともに学び育ち合い、未来のまちを創造できる図書館を目指す

  また、三つの基本方針に加え、レトロな建物は地域に愛される存在であり、それを次世代へつなぐことも、まちづくりへの貢献の一環であり、図書館としての使命でもあるとした。

  「個人が設立して100年以上ものあいだ地域住民が運営を続けてきた」点や、「運営メンバーらが『思いを次世代につなぎ、愛される図書館にしたい』と再生に向けて積極的に取り組んでいる」点が評価され、2022年に出版に関する優れた表現活動を行った個人、団体等を顕彰する野間出版文化賞特別賞(第4回)を受賞した。2022年12月から2023年3月にかけては本館の緊急修繕と別棟の閲覧室の新設を目標にクラウドファンディングにも挑戦した。また、記者会見を行うなど、メディアに出ることでPR活動を行った。その結果、目標金額を超える援助を受けることに成功、そして、2024年の3月末、待望の新館「Lib+」(リブプラス)が完成し、お披露目イベントを開催した。現在、修繕プロジェクト第2弾への挑戦も計画中とのことである。

  また、本館が国の登録有形文化財に登録される見込みとなり(その後3月6日付けで登録された)、江北図書館保存活用方法検討委員会を設立し、その保存計画を策定する予定である。本館の修繕費が巨額になるにもかかわらず、寄附に頼らざるを得ない現状であるため、中長期的な寄附計画を策定すること、また安定運営のための収入源を確保することが課題であるとした。

  江北図書館らしさを生かしたコミュニティ図書館として、これからも地域に貢献しながら活動を続けていきたいと、二人とも力強く語っていたのが印象的であった。

●質疑応答

  講演を視聴した参加者からの質問に岩根氏と久保寺氏が答える形で、質疑応答が進行した。同館では、2021年に新体制となり9人の理事がいるが、どうやって集まったのかという質問があった。これに対し、前理事長と現理事長は元々地元の住民であり、その他の理事は地域おこし協力隊として移住してきた人や周辺地域の住民であり、皆が志を持って集まったと回答した。また、蔵書の管理がどのように行われているかという質問に対しては、蔵書管理の専用のシステムは導入しておらず、司書の記憶が頼りとなっているとの回答であった。蔵書点検も除籍作業も行ったことがないため、今後の課題ではあるが、除籍を行っていないことで古い実用書なども残っており、当時の流行を知ることができて大変興味深いと述べた。体制としては5人の司書が日替わり、館長である久保寺氏が毎日出勤することでカウンターの対応を行っている。また、旧伊香郡に関連する古い資料などは、滋賀大学が保管していたが、2024年3月以降は自館で保管する予定であるとした。

●さいごに

  今回の講演会では、江北図書館が「愛される図書館」として地域のニーズや時代に合わせて変化してきたことに、図書館の理想的な在り方を見ることができた。運営面や資金面など難しい課題は多いが、理事たちの活動によって、住民から必要とされ、また次世代に残そうと尽力されてきた同館の歴史が、今後も受け継がれていくことを期待したい。

Ref:
“2023年度 新春講演会・交歓会開催(関西地区)のお知らせ”. SENTOKYOブログ. 2024-02-07.
https://blog.goo.ne.jp/sentokyo/e/a2b5f755c7325ee25c9be8d08028cf22?fm=rss
江北図書館.
http://kohokutoshokan.com/
“「第4回 野間出版文化賞特別賞」受賞しました!”. 江北図書館. 2022-11-04.
http://kohokutoshokan.com/2022/11/04/noma/
“3月31日 『Lib+』(リブプラス)オープンセレモニー開催のお知らせ”. 江北図書館. 2024-03-13.
http://kohokutoshokan.com/2024/03/13/lib_plus/
“3/31 新館『Lib⁺』完成セレモニーが行われました。”. 江北図書館. 2024-04-04.
http://kohokutoshokan.com/2024/04/04/3-31-%e6%96%b0%e9%a4%a8%e3%80%8elib%e2%81%ba%e3%80%8f%e5%ae%8c%e6%88%90%e3%82%bb%e3%83%ac%e3%83%a2%e3%83%8b%e3%83%bc%e3%81%8c%e8%a1%8c%e3%82%8f%e3%82%8c%e3%81%be%e3%81%97%e3%81%9f%e3%80%82/
“告示 文部科学省告示”. 官報検索!. 2024-03-06.
https://search.kanpoo.jp/r/20240306g50p7-4/