E2725 – 15周年を迎えた飛騨市図書館:「直営」がもたらすもの

カレントアウェアネス-E

No.486 2024.09.05

 

 E2725

15周年を迎えた飛騨市図書館:「直営」がもたらすもの

飛騨市図書館・西倉幸子(にしくらさちこ)

 

  岐阜県飛騨市の公共図書館である飛騨市図書館は、市の直営である。人口約2万1,000人の小さなまちにある2つの図書館の中央館を担う。開館から15年を迎えた2024年度、これまでの運営を見直し「改革」と称して新たな取り組みを進めている。本稿ではこれまでの当館の取り組みと今後の展望を紹介する。

●飛騨市図書館の開館とこれまでの取り組み

  当館は2009年の市庁舎増設を機に本庁舎の隣に移転開館した。当時は職員10人程度のうち3人から4人が司書であり、全員が臨時職員であった。雇用期限があり、募集しても司書が採用できない年が何度もあった。その後、図書館の持続と経験豊富な司書の安定雇用を図るため、市は正規職員としての司書の採用を決める。そして2015年、初の正規司書として筆者が採用された。

  筆者がまず取り組んだのは、市庁舎との複合施設であることを生かした行政連携である。それまで貸出返却業務や読書推進事業など基本的なサービスを行っていたが、市営の図書館として市政の方針を取り入れるべきだと考えた。政策指針などをほかの司書に供覧し、市の目指すところに図書館が協力できることは何かと問いかけた。重点施策のキーワードを拾い出し、特集展示や市主催イベントの関連図書の展示などを自主的に行った。林業振興課から市産広葉樹の木片を借りて図書と並べる展示企画や、市の特産である薬草を使ったワークショップは「魔女の集い」というタイトルからも注目を浴びるイベントとなった。本だけでは伝えきれない情報として実物や実体験を加えることで、本の価値をさらに高めることができ、また図書館を市民への施策を知らせる場として活用できることが市職員に認識される効果もあった。

  当館の自主イベントでは、司書全員が企画を担当する。発案からポスター制作など、司書がそれぞれのセンスを使って行う。少ない職員だからこそその個性が当館の活動によく表れている。館内での音楽ライブや、照明を落として夜の図書館を体験する「暗がりライブラリー」、所蔵雑誌の人気投票「雑誌総選挙」など、司書の自由な発想で多彩な企画が生まれている。

  2016年8月には、司書による純文学の朗読会「官能小説朗読ライブ」が企画され、SNS上で話題となった。同じ頃、映画『君の名は。』に飛騨市図書館の外観や書架をイメージした場面が登場し、いわゆる聖地巡礼者が当館を訪れるようになった。飛騨市図書館が市民以外から注目されたことで、職員はこれまであまり意識することのなかった「市民のための図書館」を強く認識することになった。サービスの提供を優先するべきは市民であり、市民にとって過ごしやすく、楽しめる図書館になっているかを振り返る機会になった。市民利用者が第一であると考え、「聖地巡礼者」にも配慮をお願いした。

  このような取り組みが進む一方、開館日数や開館時間の拡大を理由にたびたび運営の業務委託が検討された。しかし、市民に活用され生活に根付いた図書館は、このまちにしかない財産を後世に伝える博物館や美術館などと同様、公共の施設であるからこそ市が責任をもって専門職を配置し、維持・発展させることが重要との方針のもと、正規司書は4人まで増員された。

●開館から15年目の「改革」

  開館から15周年を迎えた現在、その4人が強く意識するのは、市の人口減少という課題である。飛騨市は消滅可能性自治体と指摘されており、当館も消滅の危機を感じている。本は電子化され、娯楽の種類は増える一方で、市民の興味は今どこにあるのか。本の貸出だけでは求められなくなるのは目に見えている。レファレンスサービスを知らない市民も多いだろう。「使われない施設はないのと同じ」。これが今回の改革に至った大きな流れである。

  改革はまず「市民が来館したくなる図書館」を目標に、「おしゃべりOK」や「飲み物の持ち込み制限の解除」など、これまで当館を訪れたことがない人を取り込む作戦とした。多様な人が集まれば、多様な使い方が生まれ、新たな要望や議論が生まれてくると期待している。今後は、クッションを置いてごろ寝しながら読書できるスペースや、ウェブ会議ができる一角を設けるなど、設備の改修が不要で簡易な改革を進める予定である。利用者の提案も取り入れながら実現していきたいと考えている。何より、たくさんの人に使ってもらいたいというのが現在勤める司書たちの願いである。

●今後の展望

  今後は、読書施設という基本機能をさらにアクセシブルなものにし、多様な情報資源へのアクセスと創造の場も提供したい。また、図書館に留まらない行政職としての司書の役割も考えている。例えば政策部局に籍を置き、統計情報の収集や他自治体の調査を専門的に行うなど、従来の行政支援サービスを超えて行政に深く関わる業務を担当する。図書館以外の職場における多様な業務や勤務形態も経験しながら活躍していくことも、このまちの発展と司書という職業の持続と発展につながるのではないかと考えている。

Ref:
飛騨市図書館.
https://hida-lib.jp
“魔女の集い”. Facebook.
https://www.facebook.com/events/267520270313881/
“「2Days Library Concert in 飛騨市図書館」を開催します”. 飛騨市図書館.
https://hida-lib.jp/TOSHOW/oshirase/133686017139370353/jazzpc.html
“市図書館が「暗がりライブラリー2023~ハロウィンパーティー」を開催”. 飛騨市. 2023-10-27.
https://www.city.hida.gifu.jp/site/koho/2023-10-20.html
“第8回 雑誌総選挙を開催中”. 飛騨市図書館.
https://hida-lib.jp/toshoa/oshirase/133495193081421781/zassisp.html
“官能小説朗読ライブ”. Facebook.
https://www.facebook.com/events/329500857381534
“変わる飛騨市図書館2024~読書だけじゃない、おしゃべりOKな図書館へ~”. 飛騨市図書館.
https://hida-lib.jp/toshow/oshirase/133593507273344270/202406kawaru2024pc.html
“変わる飛騨市図書館2024<第2弾>”. 飛騨市図書館.
https://hida-lib.jp/toshow/oshirase/133654846534401772/202408kawaru202402pc.html
西倉幸子. 図書館職員から生まれる企画広報活動. 図書館雑誌. 2017, 111(2), p. 78-79.