E2667 – SPARC Japanセミナー2023<報告>

カレントアウェアネス-E

No.473 2024.02.08

 

 E2667

SPARC Japanセミナー2023<報告>

宮崎大学附属図書館・野中真美(のなかまみ)

 

  2023年11月28日にSPARC Japanセミナー2023「即時OAに備えて:論文・データを「つかってもらう」ためのライセンス再入門」がオンラインで開催された。本稿ではその概要を報告する。

  冒頭で山形知実氏(北海道大学)から、本セミナーは、2025年以降の研究論文の即時オープンアクセス(OA)化を実現する動きが加速している流れを受け、研究者は論文やデータの利用についてどのような戦略を立てられるのか、図書館職員や政策立案者といった関係者はどのような支援ができるのかということを、ライセンスという切り口から考えていくものであるという趣旨説明があった。

  前半は6人の講師による講演と質疑応答が行われた。初めに、鈴木康平氏(人間文化研究機構)から「30分でざっくり理解するオープンアクセスと著作権」と題し、OAに係る著作権やクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)、権利保持戦略、二次出版権について解説があり、購読料や掲載料(APC)が不当に高額なのであれば、競争法の適用可能性を議論すべきではないかという意見が述べられた。

  赤池伸一氏(内閣府/科学技術・学術政策研究所)からは「日本のオープンアクセス政策」と題した講演があった。OAに係る政策動向をはじめ、総合科学技術・イノベーション会議有識者議員がまとめた「公的資金による学術論文等のオープンアクセスの実現に向けた基本的な考え方」のポイントや検討中の内容について説明があった。

  久保田壮一氏(科学技術振興機構)からは「J-STAGE Dataの現状とライセンスについて」と題し、J-STAGE登載論文に関連するデータのリポジトリであるJ-STAGE Dataにおいて、研究データに対して論文とは別の独立したメタデータ、DOI、CCライセンスを付与することが可能であり、付与するCCライセンスはジャーナルの発行機関が選択していることが紹介された。

  エヴァ(Victoria Eva)氏(Elsevier社)からは「オープンアクセスとライセンスに関する出版社の見解」と題し、出版社の立場から、OAで論文を出版した際の著者の権利、OAに関する各国の政策を受けたElsevier社の対応について紹介があった。

  野村周平氏(横浜国立大学)からは「研究成果をより広く公開するためのライセンス付与について:CCライセンス付与の経験から」と題した講演があった。学協会著作権ポリシーデータベース(SCPJ)では、既存の利用も含めた想定される利用形態、CCライセンスの特性を踏まえ、CC BY-NDと独自ライセンスを同時に設定するデュアルライセンスという形式でライセンスを付与したことが紹介された。

  ビーマー(Jennifer Beamer)氏(米・The Claremont Colleges)からは「アメリカにおける権利保持の現状」と題し、米国大統領府科学技術政策局(OSTP)の覚書(E2564参照)が発表されてからの米国における権利保持の状況について、実際の大学の事例を交えて紹介があった。

  後半は、林賢紀氏(国際農林水産業研究センター)と山形氏がモデレーターとなり、鈴木氏、八塚茂氏(製品評価技術基盤機構)、小野浩雅氏(ライフサイエンス統合データベースセンター)、小池文人氏(横浜国立大学)、渡辺智暁氏(国際大学/クリエイティブ・コモンズ・ジャパン)をパネリストとしたパネルディスカッションが行われた。論文や研究データのOA化と権利について、学会誌やデータベースにおける具体的な事例を交えながら、OAへの考え方や必要性が研究分野によって異なることや、データへのCCライセンス付与、権利主張についての議論があった。権利面では、著作権法で解決することにこだわらず、アカデミアのマナーである引用情報の記載による対応も考えられるのではないかという意見が述べられるなど、課題解決のためのアイデアが活発に議論された。

  最後に竹谷喜美江氏(国立情報学研究所)から、本セミナーは学術情報流通の課題解決を模索する内容であったと閉会の挨拶があった。

  ライセンスという切り口から、論文および研究データの公開や活用に関する現状や課題について様々な意見が交わされ、即時OAへの対応を考えるための示唆に富んだセミナーであった。当日の講演資料や動画はSPARC Japanのウェブサイトにて公開されているので、詳しくはそちらを参照されたい。

Ref:
“SPARC Japan セミナー2023「即時OAに備えて:論文・データを「つかってもらう」ためのライセンス再入門」”. SPARC Japan.
https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2023/20231128.html
“クリエイティブ・コモンズ・ライセンスとは”. クリエイティブ・コモンズ・ジャパン.
https://creativecommons.jp/licenses/
公的資金による学術論文等のオープンアクセスの実現に向けた基本的な考え方. 内閣府総合科学技術・イノベーション会議, 2023, 7p.
https://www8.cao.go.jp/cstp/231031_oa.pdf
J-STAGE Dataリリースノート. 科学技術振興機構, 2020, 34p.
https://www.jstage.jst.go.jp/static/files/ja/pub_release_jstage-data.pdf
“学協会の著作権ポリシーを調べる”. オープンアクセスリポジトリ推進協会.
https://jpcoar.repo.nii.ac.jp/page/133
SCPJデータベース 二次利用に関するライセンスガイドライン. オープンアクセスリポジトリ推進協会, 2022.
https://doi.org/10.34477/0002000249
MEMORANDUM FOR THE HEADS OF EXECUTIVE DEPARTMENTS AND AGENCIES. OSTP, 2022, 8p.
https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2022/08/08-2022-OSTP-Public-Access-Memo.pdf
脇谷史織. 米国・OSTPによる研究成果公開に関する政策方針について. カレントアウェアネス-E. 2022, (449), E2564.
https://current.ndl.go.jp/e2564