E2596 – SPARC Japan セミナー2022<報告>

カレントアウェアネス-E

No.456 2023.5.18

 

 E2596

SPARC Japan セミナー2022<報告>

千葉大学附属図書館・伊勢幸恵(いせさちえ)

 

  2023年2月17日にSPARC Japanセミナー2022「電子ジャーナルの転換契約とAPC問題で変わるオープンアクセスの現状と課題」がオンラインで開催された。本稿ではその概要を報告する。

  冒頭で林和弘氏(科学技術・学術政策研究所)から、本セミナーは、論文処理費用(APC)問題と電子ジャーナルの転換契約を中心に、学術情報流通の課題を再確認し、ステークホルダーを超えた解決策を模索するものであるという趣旨説明があった。

  ビーマー(Jennifer Beamer)氏(米・The Claremont Colleges)から「SPARCの経緯とオープンアクセスの変遷」と題した講演があった。これまでのSPARCの取り組みを振り返り、BOAI20による4つの推奨事項(E2526参照)が今後のオープンアクセス(OA)の道筋となる可能性が述べられた。今後のOAへの転換に向けた米国内の動向として、Read & Publish契約の状況、米国大統領府科学技術政策局(OSTP)が2022年8月に発表した、連邦政府から助成を受けた研究成果の即時公開を求める指針(E2564参照)、機関リポジトリの基盤構築について説明があった。

  大隅典子氏(東北大学)から「#転換契約 は #電子ジャーナル問題 を解決できるか?」と題した講演があった。日本の研究発信力低下の背景にOA化の遅れがあり、その原因として、研究者の意識、図書館職員の意識、国レベルでの対応の遅れといった問題が指摘された。OA化の遅れに加えて日本から多額のAPCが出版社に支払われている現状への短期的な対応策として、東北大学を含む4大学が2022年4月に開始したWiley社との転換契約パイロット・プロジェクト(E2505参照)の事例が紹介された。

  西岡千文氏(国立情報学研究所(NII))からは「オープンアクセスの実現手段としての機関リポジトリ」と題し、グリーンOAの実現手段としての機関リポジトリの現状と課題、ダイヤモンドOAのビジネスモデルとオーバーレイジャーナルについての説明があった。

  池松克昌氏(高エネルギー加速器研究機構)からは「オープンアクセスを実現する方法としてのSCOAP3国際連携プロジェクト」と題し、欧州合同原子核研究機関(CERN)が主導する高エネルギー物理学分野の国際連携プロジェクトであるSCOAP3について、同分野の論文の90%以上がOAとなり、プロジェクトが成功に繋がった背景について説明があった。

  小泉周氏(自然科学研究機構)からは「オープンアクセスの推進による研究力強化」と題し、研究成果共有を通した大学の研究力強化のために、OA推進についてグリーンOAとゴールドOAの両輪で議論していく必要性と、OA出版のビジネスモデルの変化に応じて、大学を取り巻く関係者が一体となって議論することの重要性について述べられた。

  小野浩雅氏(ライフサイエンス統合データベースセンター)からは「生命科学系研究におけるAPCの事例紹介」と題し、生命科学分野における高額なAPC支払の事例と、医学・生物学文献データベースであるPubMedにプレプリントが搭載されることに伴う影響についての説明があった。

  平田義郎氏(東京大学)からは「大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)の論文公表実態調査について」と題し、大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)のOAへの取り組みと論文公表実態調査について紹介があった。

  パネルディスカッションでは、池内有為氏(文教大学)と山形知実氏(北海道大学)がモデレーターを務め、各講演者がパネリストとして登壇した。研究者にとってのプレプリントの扱い、機関リポジトリで論文を公開することの研究者と図書館双方の負担、商業出版社のOAに関わるビジネスモデルの変化、転換契約について学内で理解を得ることの重要性や出版社との交渉主体、OAの政策に関する国への期待などについて活発な議論が行われた。

  最後に竹谷喜美江氏(NII)から、本セミナーが学術情報流通の課題を再認識し、解決策を模索するための機会となったとの挨拶があり、セミナーは閉会した。

  多様な視点からOAの現状と課題を捉え直す契機となるセミナーであった。各講演者の発表資料と動画はSPARC Japanのウェブサイトで公開されている。詳しくはそちらを参照されたい。

Ref:
“SPARC Japan セミナー2022「電子ジャーナルの転換契約とAPC問題で変わるオープンアクセスの現状と課題」”. SPARC Japan.
https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2022/20230217.html
“Read the Declaration”. BOAI.
https://www.budapestopenaccessinitiative.org/read/
“THE BUDAPEST OPEN ACCESS INITIATIVE: 20TH ANNIVERSARY RECOMMENDATIONS”. BOAI.
https://www.budapestopenaccessinitiative.org/boai20/
“OSTP Issues Guidance to Make Federally Funded Research Freely Available Without Delay”. The White House. 2022-08-25.
https://www.whitehouse.gov/ostp/news-updates/2022/08/25/ostp-issues-guidance-to-make-federally-funded-research-freely-available-without-delay/
“【共同プレスリリース】研究大学コンソーシアム(RUC)のメンバーを中心とする国内10大学がシュプリンガーネイチャーとオープンアクセス論文出版の促進に関する合意書に署名”. SpringerNature. 2022-11-21.
https://www.springernature.com/jp/20221121-pr-1st-japan-ta-jp/23725324
岡部晋典. BOAIが20周年を記念して新たな推奨事項をリリース. カレントアウェアネス-E. 2022, (441), E2526.
https://current.ndl.go.jp/e2526
脇谷史織. 米国・OSTPによる研究成果公開に関する政策方針について. カレントアウェアネス-E. 2022, (449), E2564.
https://current.ndl.go.jp/e2564
小陳左和子. 国内4大学とWiley社との電子ジャーナル転換契約の締結. カレントアウェアネス-E. 2022, (437), E2505.
https://current.ndl.go.jp/e2505
船守美穂. プランS改訂版発表後の展開―転換契約等と出版社との契約への影響. カレントアウェアネス. 2020, (346), CA1990, p. 17-24.
https://doi.org/10.11501/11596736
尾城孝一. 学術雑誌の転換契約をめぐる動向. カレントアウェアネス. 2020, (344), CA1977, p. 10-15.
https://doi.org/10.11501/11509687