E2595 – フランスの研究機関におけるAPCに関する分析について

カレントアウェアネス-E

No.456 2023.05.18

 

 E2595

フランスの研究機関におけるAPCに関する分析について

大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)事務局・金子芙弥(かねこふみ)

 

●はじめに

  2022年12月、フランス高等教育・研究省が調査報告書“Retrospective and prospective study of the evolution of APC costs and electronic subscriptions for French institutions”を公開した。同省は、オープンアクセス(OA)推進に一つの方法を取るのではなく、グリーンOA、ゴールドOA、ダイヤモンドOAのバランスを取って出版エコシステムを作ることを検討している。同報告書では、論文処理費用(APC)を過去に遡って算出し、2021年から2030年の10年間のAPCを予測することを目的として、統計的分析が行われている。本稿では、調査報告書の概要をまとめる。

●調査で利用されたデータセット

  調査で利用されたデータは、Baromètre de la science ouverte(BSO)を基にしている。BSOは、フランスの機関に所属している著者による、DOIの情報を含んでいる論文データを集めたものである。DOIを使って著者がフランスの機関に所属しているか判別し、APC支払情報をOpenAPCから取得している。OpenAPCは、機関が実際に支払ったAPCのデータセットを提供するイニシアチブである。BSOの責任著者のデータは、出版社プラットフォームから集めてきた情報であるが、更にWeb of Scienceから責任著者の情報を追加している。APC支払いによって論文がOAとなったかどうかの情報をOpenAlexから取得している。OpenAlexは、世界中の学術論文、著者、機関等のカタログであり、無料公開されている。

●APCに関する分析結果

  2013年から2020年におけるAPCに関する分析結果は、以下のようにまとめられる。

  • フランスの機関に所属している責任著者による論文におけるAPC総額は、2013年の1,130万ユーロから2020年には3,010万ユーロとなり、約3倍となった。2020年のAPC支払い総額のうち、ゴールドOA誌が78%を占め、22%がハイブリッドOA誌となっている。APC総額の増額の主な原因は、ゴールドOA誌への投稿数の増加である。
  • フランスの機関に所属している著者が2020年に発表した論文数を、出版社ごとに算出し、論文数がおおよそ同じになるように上位から4つの階級(Tier)に分けた。Tier1はElsevier社のみ、Tier2はSpringer Nature社、Wiley社、MDPI社の3社、Tier3はOxford University Press社 やSAGE社を含む16社、Tier4は残りの1,995社となる。
  • APCを支払った論文数が最も伸びたのは、Tier2であった。2013年の300論文から、2020年は6,864論文へと増加している。
  • APCを支払った論文のうち4分の3以上が、生物学や医学分野の論文である。
  • フランスの機関に所属している責任著者による論文において、ハイブリッドOA誌の平均APCは、2013年が平均2,453ユーロ、2020年が平均2,488ユーロとなり高水準で安定している。一方で、ゴールドOA誌の平均APCは、2013年が平均1,395ユーロ、2020年が平均1,745ユーロとなり、上昇している。

●2030年のAPC総額の予測

  2021年から2030年の10年間のAPCをいくつかの仮定(資金提供者の方針、研究者の実践、政策介入等)の下に予測している。

  2030年のAPCについては、以下のように予測している。

  • フランスの機関に所属している責任著者による論文のうち、90%がゴールドOAで出版された場合:1億6,870万ユーロ
  • 現在の傾向が維持された場合:5,060万ユーロ
  • ゴールドOA路線が加速した場合:6,870万ユーロ
  • グリーンOAが増加し、ハイブリッドOA誌からゴールドOA誌への移行が進んだ場合:3,850万ユーロ

  なお、フランスの学術機関コンソーシアムであるCouperinの調査によると、Couperinの全機関による2020年の購読料金は、約8,750万ユーロと見積もられている。2014年から2021年の分析では、年間価格上昇率は1.76%であった。この年間価格上昇率を使用すると、2030年の購読料金は約9,750万ユーロと推定される。

●おわりに

  本調査による予測は、出版コストが将来どのように推移するのかを理解することに役立ち、今後の学術出版社との交渉やフランスのオープンサイエンス方針へ影響を与えることが期待されている。フランス高等教育・研究省は、2030年までにOA出版が100%となることを目標にしている。2021年から2024年のオープンサイエンス計画では、公的資金による研究成果のOA化の義務化、論文や書籍の出版処理費用がかからないOA出版モデル(ダイヤモンドモデル)での支援が表明されているが、次期計画がどのようになるのか、注目される。

Ref:
Blanchard, Antoine; Thierry, Diane; Van der Graaf, Maurits. Retrospective and prospective study of the evolution of APC costs and electronic subscriptions for French institutions. Comité pour la science ouverte, 2022, 56p.
https://dx.doi.org/10.52949/26
Second French Plan for Open Science:Generalising open science in France 2021-2024. Ministry of Higher Education, Research and Innovation, 2021, 30p.
https://www.ouvrirlascience.fr/wp-content/uploads/2021/10/Second_French_Plan-for-Open-Science_web.pdf