カレントアウェアネス-E
No.495 2025.01.30
E2765
フランスの研究機関におけるオープンサイエンスの現状
関西館図書館協力課・山口琴衣(やまぐちことえ)
2024年12月、フランス高等教育・研究省は、同国の高等教育・研究機関におけるオープンサイエンスの現状に関する調査報告書“Où en sommes-nous dans la mise en oeuvre de la politique de science ouverte? Résultats de l’enquête auprès des établissements d’enseignement supérieur et de recherche”を公開した。2023年12月から2024年1月にかけて、同国内の高等教育・研究機関を対象にアンケート調査を実施し、105機関から回答を得たとしている。本調査は、オープンサイエンス方針と実践の現状、国のオープンサイエンスに関する取組に対する評価、オープンサイエンス推進上の障害を把握することを目的としている。本稿ではこの報告書の概要を紹介する。
●調査の内容と結果
オープンサイエンス方針を定義する文書等の有無について、回答機関の57%が策定済、38%が策定に向けて取組中であると回答した。方針で取り上げられている主な項目は、出版物(98%)、データ(92%)、教育(88%)、FAIR原則(85%、E2052参照)である。また、方針文書を策定した機関数の推移を見ると、2018年時点で方針文書を策定していたのは2.9%だったが、2021年には25.7%、2023年には51.4%に増加した。2021年に策定した国の第2期オープンサイエンス計画では、施策として高等教育・研究機関におけるオープンサイエンス方針策定の促進が掲げられており、着実な成果を挙げつつあると考えられる。
オープンサイエンスに関する業務の担当者の有無については、回答機関の84%が配置済、11%が検討中であると回答した。また、87%が機関内にオープンサイエンスの実践を支援するネットワークが一つ以上存在すると回答した。オープンサイエンスに関する研修については、90%が実施しており、そのうち56.8%は修了者に博士課程の単位を授与している。単に方針を策定するだけでなくその実践に人的リソースを投入している実態が示されたと言える。
大学出版局等、機関独自の編集・出版サービスの有無については、回答機関の63%が存在すると回答した。どのようなオープンアクセス(OA)出版戦略を推進しているかを尋ねた調査項目(複数回答可)では、77%がグリーンOA、62%がダイヤモンドOA、26%がゴールドOAと回答した。OA実現の手段としては、国営のリポジトリであるHALが広く利用されていたとしている。また、機関用のデータウェアハウスの有無については、40%が設置済、そのうち74%が国営の研究データプラットフォームRecherche Data Gouvを利用していると回答した。研究評価にオープンサイエンスに関する基準を導入したかについては、30%が導入済、39%が検討中であり、回答機関の間ではまだ広く普及していない状況であるとしている。
国の取組や提供サービスの評価については、回答機関の95%が国のオープンサイエンス計画を有用であると評価した。オープンサイエンスの実践の評価指標であるBaromètre français de la Science Ouverteの提供、財政的支援を実施する国家基金の創設等の取組についても80%以上がそれらを有用であると回答しており、概ね好意的に受け入れられている現状が示された。
オープンサイエンス推進上の障害を尋ねた調査項目(複数回答可)では、慣行の違い(50%)、データの共有や利用可能にすることへの抵抗(42%)、コスト増の懸念(28%)、研究者に対する機関レベルでのサポートの欠如(13%)等が挙げられた。オープンサイエンスに対する研究者の理解がまだ十分ではなく、研究者支援サービスの供給が高まる需要に対応できていない現状を示唆する結果となった。
●さいごに
フランスでは、第2期オープンサイエンス計画の下、研究データプラットフォームRecherche Data Gouvの創設、研究評価改革推進のための有志連合Coalition for Advancing Research Assessment(CoARA)のフランス支部の設立、オープンサイエンスに携わる学術出版者の連合であるAlliance des éditeurs scientifiques publics français(Alef)の発足等、オープンサイエンスを推進するための数々の取組が実施されている。また、同国では2030年までに学術出版物のOA化率を100%にすることを目標として掲げている。引き続き今後の動向を注視したい。
Ref:
Maire, Séverine; Caporali, Arianna; Dacos, Marin. Où en sommes-nous dans la mise en oeuvre de la politique de science ouverte? Résultats de l’enquête auprès des établissements d’enseignement supérieur et de recherche. Ministère de l’Enseignement supérieur et de la Recherche. 2024, 52p.
https://dx.doi.org/10.52949/80
“Strong support for open science from higher education and research institutions in France”. Ouvrir la science. 2024-12-20.
https://www.ouvrirlascience.fr/strong-support-for-open-science-from-higher-education-and-research-institutions-in-france/
Second French Plan for Open Science:Generalising open science in France 2021-2024. Ministry of Higher Education, Research and Innovation, 2021, 30p.
https://www.ouvrirlascience.fr/wp-content/uploads/2021/10/Second_French_Plan-for-Open-Science_web.pdf
HAL.
https://hal.science/
Recherche Data Gouv.
https://recherche.data.gouv.fr/
Baromètre français de la Science Ouverte.
https://barometredelascienceouverte.esr.gouv.fr/
“Creation of the French national chapter of COARA, the Coalition for Advancing Research Assessment”. Ouvrir la science. 2024-06-10.
https://www.ouvrirlascience.fr/creation-of-the-french-national-chapter-of-coara-the-coalition-for-advancing-research-assessment/
“Création de l’Alliance des éditeurs scientifiques publics français (Alef)”. Ouvrir la science. 2024-12-10.
https://www.ouvrirlascience.fr/creation-de-lalliance-des-editeurs-scientifiques-publics-francais-alef/
八塚茂. FAIR原則と生命科学分野における取組状況. カレントアウェアネス-E. 2018, (353), E2052.
https://current.ndl.go.jp/e2052