E2766 – 第39回国際児童図書評議会(IBBY)世界大会<報告>

カレントアウェアネス-E

No.495 2025.1.30

 

 E2766

第39回国際児童図書評議会(IBBY)世界大会<報告>

国際子ども図書館児童サービス課・坪井伸樹(つぼいのぶき)

 

  第39回国際児童図書評議会(IBBY)世界大会が、2024年8月30日から9月1日まで、“Join the revolution! Giving every child good books”(変化をもたらせ!すべての子どもにすぐれた本を)を大会のメインテーマとし、イタリアのトリエステにあるトリエステ・コンベンションセンターで開催された。国立国会図書館国際子ども図書館からは筆者が参加した。今大会は、60か国以上から600人以上が参加した。

  大会は、参加者全員を対象としたプレナリー・セッションと、複数の部屋で同時に発表が行われるパラレル・セッションで構成されていた。パラレル・セッションとしては、オーラル・セッション、ポスター・セッションなどが行われた。

●プレナリー・セッション

  国際アンデルセン賞、IBBY朝日国際児童図書普及賞、IBBY-iRead読書プロモーター賞、IBBYオナーリストの授与式等が行われた。IBBYオナーリスト2024の翻訳作品部門には日本からは『見知らぬ友』(マルセロ・ビルマヘール著、宇野和美訳、福音館書店、2021年)が選出された。授与式には、宇野和美氏が登壇した。

  基調講演は、英国の児童文学作家であるMichael Rosen氏の「変化の担い手としての文学」(Literature as a Driver of Change)、フランスの認知神経学者であるStanislas Dehaene氏の「脳の中の読書」(Reading in the Brain)など、計4本開催された。前者ではRosen氏の手遊びパフォーマンスに会場が沸き、後者では読書を巡る脳科学の知見が紹介された。

  また、今大会は、オーストリア、ドイツ、イタリア、スロベニアの20歳未満の若者が「ヤングリーダーズ」として意見表明を行うラウンドテーブルが設けられた。これは、今までIBBY世界大会の場で子どもたちが意見を述べる機会がなかったことへの反省を踏まえたもので、IBBYとして初めての試みとなる。

●オーラル・セッション(パラレル・セッション)

  日本からの参加者の発表は、南山大学の浅香幸枝氏による「SDGs推進の観点からの大学生との33年間にわたる経験」(33 Years of experience with university students from the perspective of promoting the SDGs)があった。浅香氏が関わった南山大学での教育活動やプロジェクトをSDGs推進の観点から振り返る内容であった。

  そのほか、児童サービスという観点から、興味深かったオーラル・セッションでの発表を二つ紹介する。いずれも、子どもが聞き手に留まらず、語り手になる点が印象深かった。

  一つ目は、イタリアのLucia Schiralli氏による「インクルージョンツールとしての絵本とサイレントブック:若い読者同士のやり取りを通した経験」(Pictures and wordless books as inclusion tools. The peer to peer experience of young readers)である。発表者が教師として勤務するイタリア南部の都市バーリ(Bari)の小学校・中学校では、外国人の児童が多く、その国籍は15にも上る。発表者は、主にイタリア人の12歳の子どもたちに絵本とサイレントブック(文字のない絵本)の読み方を教え、その子どもたちが9歳の多国籍の子どもたちに本の読み方を伝えるというプロジェクトを行った。このプロジェクトは効果があり、子どもたち自身で読書を行うようになったとのことである。

  二つ目は、スロベニアのŠpela Frlic氏による「ストーリーテリングスタジオ:物語を語る子どもたち」(Storytelling Studio: children telling stories)である。紹介のあった「民話のおはなし会」では、「民話」「即興での言葉遊び」「積極的な聴き手としての教師」「視覚的なストーリーテリング」の4点を核として、おはなし会が構成されていた。民話の地図と、民話の登場人物等を書いた透明ビニールシート、民話に関するキューブ(木製のサイコロ状のもの)などを使用し、子どもたち自身が語り手となって、おはなし会を行う姿が紹介された。

●ポスター・セッション(パラレル・セッション)

  日本からの参加者の発表は、東京子ども図書館の笹岡智子氏による「復刊キャンペーン:図書館はすぐれた本を子どもたちの手に長く届けるために何ができるのか」(Reprint campaign: what libraries can do to keep good books in the hands of children for a long time)があった。東京子ども図書館で実施した復刊キャンペーン「今ふたたび、この本を子どもの手に!」を簡潔に紹介した内容であった。

  ポスター・セッションの一部のポスターは、第39回IBBY世界大会ウェブサイトの「プログラム」のページに掲載されているので、参照されたい。

  第40回IBBY世界大会は、2026年8月6日から9日まで、カナダのオタワで開催される予定である。また、IBBYアジア・パシフィック地域大会が、2025年8月30日と31日に、韓国の水原で開催される予定である。

Ref:
39th IBBY International Congress.
https://www.ibbycongress2024.org/
IBBY.
https://www.ibby.org/
“JOIN OUR REVOLUTION! La voce dei ragazzi e delle ragazze al 39° Congresso Internazionale IBBY”. IBBY Italia. 2024-08-28.
https://www.ibbyitalia.it/join-our-revolution-la-voce-dei-ragazzi-e-delle-ragazze-al-39-congresso-internazionale-ibby/
“第39回国際児童図書評議会(IBBY)世界大会”. 国立国会図書館国際子ども図書館. 2023-10-10.
https://www.kodomo.go.jp/info/child/2023/2023-077.html
“2024年国際アンデルセン賞受賞者決定”. 国立国会図書館国際子ども図書館. 2024-06-06.
https://www.kodomo.go.jp/info/child/2024/2024-047.html
“2024年IBBY朝日国際児童図書普及賞、受賞団体決定”. 国立国会図書館国際子ども図書館. 2024-06-06.
https://www.kodomo.go.jp/info/child/2024/2024-048.html
“2024年IBBY-iRead読書プロモーター賞受賞者決定”. 国立国会図書館国際子ども図書館. 2024-06-06.
https://www.kodomo.go.jp/info/child/2024/2024-049.html
“2024年IBBYオナーリスト、日本の推薦作品決定”. 国立国会図書館国際子ども図書館. 2023-12-21.
https://www.kodomo.go.jp/info/child/2023/2023-101.html
“復刊キャンペーン 今ふたたび、この本を子どもの手に!”. 東京子ども図書館.
https://www.tcl.or.jp/%e5%bd%93%e9%a4%a8%e3%82%92%e7%9f%a5%e3%82%8b/%e3%83%97%e3%83%ad%e3%82%b8%e3%82%a7%e3%82%af%e3%83%88/%e5%be%a9%e5%88%8a%e3%82%ad%e3%83%a3%e3%83%b3%e3%83%9a%e3%83%bc%e3%83%b3/
土居安子. 50周年を迎えた日本国際児童図書評議会(JBBY). カレントアウェアネス-E. 2024, (468), E2726.
https://current.ndl.go.jp/e2726