E2760 – 進学や就職を控えた西都市の18歳を応援する「18歳の図書館」

カレントアウェアネス-E

No.494 2025.01.16

 

 E2760

進学や就職を控えた西都市の18歳を応援する「18歳の図書館」

一般社団法人まちづくり西都KOKOKARA・山口雄大(やまぐちゆうだい)

 

  2024年10月から11月にかけて、「西都市シティプロモーション事業」の一環として、宮崎県西都市唯一の高校である宮崎県立妻高等学校(以下「妻高校」)で、進学や就職を控えた高校生を応援する取組み「18歳の図書館」を、西都市の委託を受け、一般社団法人まちづくり西都KOKOKARA(以下「KOKOKARA」)が企画した。なお、「西都市シティプロモーション事業」とは、西都市が2020年度から5か年計画で進めている事業で、現在、同市のまちづくり会社である弊社が受託し取り組んでいる事業である。本稿では、「18歳の図書館」が発足した背景、内容、参加者の声などを紹介する。

●「18歳の図書館」を企画した背景

  宮崎県西都市は、人口約2万8,000人の小さな自治体である。市内に大学を有していないこともあり、高校卒業後に多くの若者が地元を離れてしまうという課題を抱えている。市の統計資料によると、20~34歳の人口が少なくなっている。これは大学を有さない地方自治体が抱える共通の課題であり、本事業ではそうした課題に着目した。

  しかし、これは本当に課題と言えるのだろうか?人口減少の要因という意味で、地方自治体にとっては確かに課題であるが、外に出る若者にとっては、外の世界を知って自分の可能性を広げる大きなチャンスではないか。我々KOKOKARAとしてはそんなチャンスを応援したいという想いを背景に、本企画を展開した。

  地元を離れる18歳の時期から、再び西都市に帰省するタイミングでもある「20歳を祝う会」までの約3年間、本を貸し出すことで、西都市と若者がつながり続ける仕組みを創った。若者を直接的に呼び戻すのではなく、地元を離れても応援し続けることで、就職・転職・起業・移住のタイミングで西都市を想起してもらえるようなポジショニングの創出を目指している。

●「18歳の図書館」の内容

  2024年10月29日。妻高校の図書室に設置した本棚に並ぶのは「大人が選んだ、18歳に3年後、もう一度読んで欲しい本」である。

  選書するにあたり、事前に妻高校の生徒へアンケートを実施。その回答を基に、人生の先輩である大人が1冊1冊選書を進めた。本を選んだのは、西都市出身のオカリナさん(芸人)や米良美一さん(カウンターテナー歌手)をはじめとする、西都市内外で活躍する大人総勢79人である。

  本棚に並ぶ本にはブックカバーがかけられており、本の背表紙には「大切な一節に出会える本」など、選書者が考えたタイトルが書かれている。生徒は本を開かずに直感で本を選ぶ。本を開くと栞が挟まれており、そこには選書者の名前やメッセージ、そして選書者が本から抜粋したおススメの一文が書かれている。

  本を借りるときは、3年後の自分宛てに感想文を送る。感想文の半分には、18歳の「今」の気持ちを書き、残りの半分は3年後の自分のために空欄にして提出する。そして3年後、18歳の自分が書いた感想文が届くので、感想文の残り半分に20歳の気持ちを書き、本と一緒に返してもらうという仕組みだ。

●「18歳の図書館」実施に至るまで

  「18歳の図書館」企画は、実施の4か月ほど前から、妻高校の教員や司書教諭などに対し、企画の背景、趣旨、内容を丁寧に説明し、当初から一定の理解を得ることができた。妻高校の図書室では以前から「先生が選ぶ、高校生に読んで欲しい本」コーナーが設けられており、本事業と近い想いを持たれていたと考えている。

  先生方の協力により、国語の授業の一環として本を貸し出すことになった。最終的には213人もの生徒が参加した。

●参加者の声

  今回の企画実施後、先生方や企画に参加した生徒たちに話を聞いた。

  黒木春文教頭(妻高校)は、本にブックカバーがかけられている仕組みに着目し、「あえて書籍名を隠し、選書者が新たに付けたタイトルをもとに生徒が本を選ぶことで、自分が選ばないような本を手に取ることになる。そして、そこには本を選んだ人の想いが入っている。自分とは違った考え方に触れることで、違った自分の3年間の歩みができるのではないか」との感想であった。

  実際に参加した生徒はどのような気持ちで本を選んだのか。「大切な一節に出会える本」を選んだ生徒は「卒業して西都市外で就職が決まっている。これから大変になったときに、心の支えになる一節があると思って選んだ」と述べた。また、「心の音を探し出す本」を選んだ生徒は「自分が持つ目標の意味がなくなったときに、自分の気持ちを探すため本を探していて、これだなと思った」と述べている。

●今後の展望

  KOKOKARAでは、今後も「18歳の図書館」の企画を継続し、若者を応援し続けようと考えている。また、本企画の背景にある「高校卒業と同時に若者が地元を離れてしまう」という課題は多くの地方自治体が抱える課題である。西都市と同じ課題に直面するほかの地方自治体にも、この「18歳の図書館」というコンセプトを自由に活用してもらうことで、全国の「若者の「はじめる」を応援する」というムーヴメントを創出していきたい。

  本を借りた生徒たちには、人生の節目ごとに「18歳の図書館」で借りた本を見返し、18歳当時の自分の気持ちを振り返ってほしい。想いの根本に立ち戻ることはとても大事なことだから。そして、本を返した後、また西都市をふと思い出してほしい。この「18歳の図書館」が、西都市を堂々と飛び立つ若者にとって、西都市を思い出すきっかけの一つになればと思う。

Ref:
“18歳の図書館”. 西都はじめるPROJECT.
https://www.saito-hajimeru.com/library-18/
“「18歳の図書館」が開館しました。”. 西都はじめるPROJECT. 2024-11-26.
https://www.saito-hajimeru.com/magazine/library-18-2024event/
西都市. 西都市シティプロモーション基本方針. 2021, 25p.
https://www.city.saito.lg.jp/kihon_housin_2.pdf
西都市総合政策課. 数字でみる西都. 2024, p. 14.
https://www.city.saito.lg.jp/9960d17483755c89c576625815d57e55_1.pdf
18歳の図書館. 12p.
https://www.saito-hajimeru.com/wp/wp-content/themes/original/resources/assets/pdf/library-18-selection-2024.pdf