研究分野間の論文処理費用(APC)の価格相違の要因に対する分析(文献紹介)

2020年10月8日、ドイツのイルメナウ工科大学(TU Ilmenau)経済・メディア学部(Fakultät für Wirtschaftswissenschaften und Medien)は、同大学の研究者3人の共著によるディスカッションペーパーとして、“The Prices of Open Access Publishing: The Composition of APC across Different Fields of Sciences”を公開したことを発表しました。

デジタル出版の普及により学術雑誌の出版プロセスにかかる費用が均一化しているにもかかわらず、オープンアクセス(OA)出版のための論文処理費用(APC)の価格は雑誌ごとに大きく異なっています。APC価格の相違の要因には、各雑誌の分野内における評価がしばしば挙げられますが、著者らは研究分野間の相違の要因に焦点を当てた調査を試みました。

著者らは、営利の出版社が各分野でどの程度「市場支配力(market power)」を保持しいるかが分野間の相違の主要因であるという仮説の下、健康科学・生命科学・物理科学・社会科学の4分野の調査を実施しました。OA雑誌のディレクトリDOAJ、機関によるAPCの実際の支払データを提供するイニシアチブOpenAPC、Elsevier社の文献データベースScopusによる評価指標CiteScore Metricsを用いて、APC価格・市場支配力(各分野で大手出版社が刊行するハイブリッド雑誌のシェアとして設定)・Elsevier社の雑誌評価指標SNIP・論文数・出版社の営利非営利の別・出版社の設立年数などのデータを収集して分析を試みました。

ディスカッションペーパーでは分析の結果として、APC価格は生命科学・健康科学・物理科学・社会科学の順に高額となっていること、生命科学・健康科学分野はAPC価格に市場支配力の影響を大きく受けていることなどを報告しています。著者らは調査の結果等から、研究費の獲得が容易で高額なAPCでも支払い可能かどうか、研究分野内でプレプリントを学術雑誌で発表された非OA論文の代替としてみなす慣行があるかどうかが研究分野間のAPC価格の相違の要因となっており、仮説を支持する内容であった、としています。また、調査の結果を踏まえて、研究者へのAPC補助は、大手出版社が刊行するハイブリッド雑誌の高額なAPC価格を維持する方向に作用する可能性があることなどを指摘しています。

TU Ilmenauのウェブサイトからディスカッションペーパーの全文をダウンロードすることができます。

New Discussion Paper on Open Access Academic Publishing(Fakultät für Wirtschaftswissenschaften und Medien, TU Ilmenau,2020/10/8)
https://www.tu-ilmenau.de/wm/aktuelles/einzelnachricht/newsbeitrag/25920/

The Prices of Open Access Publishing: The Composition of APC across Different Fields of Sciences [PDF:28ページ](TU Ilmenau)
https://www.tu-ilmenau.de/fileadmin/public/wth/Diskussionspapier_Nr_145_.pdf

参考:
CA1977 – 動向レビュー:学術雑誌の転換契約をめぐる動向 / 尾城孝一
カレントアウェアネス No.344 2020年6月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1977

米国・カナダの研究大学におけるAPC支払いの状況(文献紹介)
Posted 2016年7月26日
https://current.ndl.go.jp/node/32163

大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)、論文公表実態調査(2019年度)の結果を公開
Posted 2020年3月4日
https://current.ndl.go.jp/node/40394

オープンアクセス誌を発行する出版者(文献紹介)
Posted 2020年6月25日
https://current.ndl.go.jp/node/41346