E2424 – オープンアクセス出版状況のモニタリングに関する推奨事項

カレントアウェアネス-E

No.420 2021.09.16

 

 E2424

オープンアクセス出版状況のモニタリングに関する推奨事項

東京大学附属図書館・立原ゆり(たちはらゆり)

 

   2021年5月, Science Europeは,オープンアクセス(OA)出版状況のモニタリングに関するガイドラインおよび推奨事項をまとめた報告書“Open Access Monitoring: Guidelines and Recommendations for Research Organisations and Funders”を公表した。本稿では,この報告書の内容について概説する。

●報告書の目的

   OA出版状況のモニタリング(以下「OAモニタリング」)は,OAを推進するうえで,方針の立案,実施,評価のために非常に重要であるが,学術出版システムの複雑さゆえに,その作業は簡単ではなく,多くの判断を必要とする。この報告書は,研究助成機関や研究実施機関の意思決定者が,出版物のOAの状態を測定するために,新たなモニタリング実施や,既存のプロセスの評価・改善を支援することを目的としている。

  報告書では,組織がOAモニタリングを実施するためにとるべき3つの主なステップと,実例をふまえた具体的な課題の解決方法を示している。なお,国や機関レベルでの資金提供や財務慣行は多様であるため,OA出版コストのモニタリングについては,この報告書の範囲には含まれていない。

●OAモニタリングの目的と要件の明確な定義

  効果的なOAモニタリングを行うためには,組織固有の要件等を考慮に入れ,実施前に,OAモニタリングの目的と獲得したい情報をできるだけ明確に定義する必要がある。例えば,国レベルのOAモニタリングと機関レベルのOAモニタリング,研究助成機関と研究実施機関の間では,求められる内容が大きく異なる場合がある。何を達成する必要があるのかを明確にし,そのうえで,何をモニタリングするか,出版物のデータをどのように収集し分析するかを決定する必要がある。

●OAモニタリング対象の決定

  目的と要件を明確に定義した後は,OAモニタリングの対象を決定する。その際にポイントとなるのは,どの種類の出版物を対象とするかである。学術出版は,さまざまな種類の出版物を通じて行われる。現在までのところ,OAの対象となっているのは主に学術論文である。しかし,書籍,会議録,書籍の章単位でもOAが一般的になりつつあり,これらのOA出版状況をモニタリングするには,学術論文とは異なるメタデータが必要になる。

  なお,対象を決定する際には,複数の著者がいる場合の著者と所属機関の関係,分野による筆頭著者や最終著者の役割や意味の違い,複数の資金提供がある場合の対処法,所属機関のOAポリシー等を考慮する必要がある。特に著者については,オーサーシップだけでは出版物に結実する寄与の多様性を反映できないため,CRediT(Contributor Roles Taxonomy:寄与者役割分類法)などの他のアプローチが開発されている。

●データの収集,分析,報告

   OAモニタリングのために必要な出版データやメタデータを完全に網羅した単一の包括的な情報源は存在しない。ほとんどのOAモニタリング作業では,複数のデータソースからデータを収集する必要がある。データソースには商業ベースの出版物データベース(Web of Science,Scopus等)のほか,CRIS(E1791参照),機関リポジトリ等があるが,どのデータソースにも利点と欠点がある。商業ベースの出版物データベースは,研究分野によっては出版物のカバー率が低くなる場合があり,補足するためにCRISや機関リポジトリなど,地域や国の情報源から入手できる出版物のデータを可能な限り含めることも推奨されている。また,完全にOAのジャーナルに掲載されているかどうか等を調べる場合にはUnpaywallを用いることができる。

  信頼性の高いデータセットを作成するためには,永続的識別子を用いて,著者,出版物,関連する研究機関,貢献した資金源を明確に識別できることが重要である。標準化された識別子は,曖昧さの解消という課題を解決するとともに,ワークフローを大幅に簡素化し,信頼性を高めるため,可能な限り使用するべきとされている。

  データ収集後は,データのクリーニング,変換,再編成を行い,相互運用可能なフォーマットで1つのデータセットに集約する作業が必要となる。複雑な作業であるため,それに見合った予算の確保と,計量書誌学分野の専門家に相談することが推奨されている。

  データ分析時には,データ収集の限界や,出版からメタデータが利用可能になるまでのタイムラグなどの不確実性を考慮しなければならない。また,結果を報告する際には,分析過程と欠点について透明性が求められる。そのため,最低限,データ収集の時期,分析対象とした出版物の種類と著者のグループ,データの入手方法,OAの種類の定義を明示する必要がある。他のOAモニタリング活動との比較を容易にするために,OAモニタリングにおけるすべての決定事項を文書化し,可能な限りオープンで透明性のある形で伝えることが強く推奨されている。

●おわりに

  報告書では上記ステップごとの推奨とは別に,OAモニタリングを実施する際には,持続可能性と比較可能性を念頭に置く必要があることが指摘されている。学術出版と学術コミュニケーションは,急速に発展している分野であり,特定のデータ提供元への依存関係について留意し,出版業界の変化に常に注意を払うことが推奨されている。

  各国・各機関がOAに関する取り組みを評価し,戦略を策定するには,OAモニタリングの継続的な実施が必要である。そのためにも,この報告書をはじめとする効果的なガイドラインや実践例の共有は非常に参考になるものであろう。

Ref:
Open Access Monitoring: Guidelines and Recommendations for Research Organisations and Funders. Science Europe. 2021.
https://doi.org/10.5281/zenodo.4905553
“CRediT – Contributor Roles Taxonomy”. CASRAI.
https://casrai.org/credit/
林豊. 欧州におけるCRISと機関リポジトリの連携の現状. カレントアウェアネス-E. 2016, (302), E1791.
https://current.ndl.go.jp/e1791