E2423 – 図書館におけるメディアリテラシー教育のガイド(米国)

カレントアウェアネス-E

No.420 2021.09.16

 

 E2423

図書館におけるメディアリテラシー教育のガイド(米国)

調査及び立法考査局国土交通課・落合翔(おちあいしょう)

 

●はじめに

   信頼性の欠ける「事実」に基づいたレファレンスの相談を受けたとき,あなたは図書館員として何ができるだろうか? 米国図書館協会(ALA)がウェブサイトで2020年12月に公開したガイド“Media Literacy in the Library: A Guide for Library Practitioners”は,冒頭でこう問いかける。これはあくまで仮定の状況だが,似たような場面を経験したことがある本稿読者もいらっしゃるのではないだろうか。

   本ガイドは,情報入手やコミュニケーションをデジタルなメディアに頼ることが多くなった現代において,図書館の実務担当者が把握しておくべきメディアリテラシーについての情報をまとめたものである。また,図書館利用者に対してメディアリテラシー教育を行うにあたっての,有用な情報も整理されている。以下では,本ガイドの主要部分を成す3つの章を紹介する。

●「利用者との接点におけるはたらきかけ」

   メディアリテラシーの教育プログラムがあったとしても,それを受ける必要がある人が参加しようと思うとは限らない。本章では,そういった利用者も想定し,日々のレファレンス対応や,特にメディアリテラシー教育を目的としていない従来のプログラムに,メディアリテラシーの要素を取り入れるための情報を提示している。

   レファレンス対応については,本ガイドは冒頭で紹介したような場面はむしろ好機であると説明する。例えば「どうして○○なんかに投票する人がいるのか?」という質問に対しては「そのテーマについては多くの議論がなされており,さまざまな見方があるようですね。そういった情報を探すお手伝いをいたしましょうか。」「投票する人々の動機は何だと思いますか。さまざまな視点の情報源を確認してみましょう。」というように切り返し,メディアリテラシーのスキルを伝える方向へ会話を発展させることを例示している。

   また,従来のプログラムにおける工夫としては,読書会で時事的な出来事に関連するテーマの本を取り上げ,メディアがそれをどう描写しているか議論する,といった例を示している。

●「メディアリテラシーのキートピック」

   本章では「インターネットのからくり」「市民政治」「メディアの現状と経済」「誤情報(misinformation)と偽情報(disinformation)」「メディア制作と参画」という現代のメディアリテラシーに関する5つの話題を取り上げ,関連用語とともに解説している。また,それぞれに関し,教育プログラム等の企画に活用できる題材を提供している。

   例として「インターネットのからくり(architecture of the internet)」の概要を紹介する。この節では,閲覧するウェブサイト等は自分で選択していると思っていても,オンラインコンテンツは既に個々人に合わせてカスタマイズされていることが説明される。そして,この目に見えない「からくり」は「フィルターバブル(filter bubbles)」等の現象を引き起こすという。そして,関連用語の一つとして「フィルターバブル」を取り上げ,これが検索エンジンの検索結果が閲覧履歴等に基づきフィルタリングされていること等により,既知の視点と異なる情報を得られない「泡」に個人が隔離されてしまう現象であることを解説する。さらに,教育プログラムの題材の一つとして「フィルターバブル」を扱った動画を提示し,この動画を上映後,コンテンツを個々人に合わせてカスタマイズすることのメリットやデメリットを討論したり,参加者どうしで検索エンジンの検索結果を比較したりすることを提案している。

●「成果の測定」

   本章では,図書館によるメディアリテラシー教育の取組み結果を評価する方法を示している。教育プログラムを評価するためのアンケートについて具体的な設問例を示すほか,アンケートが難しい場合に成果を確認するためのアイデアも示している。例えば,その取組みがソーシャルメディアで話題になったかを確認する,といったものである。

●おわりに

   本ガイドはALAのプロジェクト“Media Literacy Education in Libraries for Adult Audiences”により,図書館界に限らないさまざまな分野の第一人者の知識を結集することで作成された。本ガイドに沿った内容のウェビナーも2021年に開催されており,同プロジェクトのウェブサイトからその録画や資料を見ることもできる。本ガイドと併せて活用することで,より理解を深めることができるだろう。

   2016年の米国大統領選挙以後,「フェイクニュース」という言葉が注目されて久しい(CA1966参照)。本ガイドのような資料が発表されることは,メディアリテラシーをますます必要とする米国の深刻な状況を示しているようにも感じられる。メディアリテラシー教育の実践を積み上げてきた米国の図書館(E1684参照)の役割が,改めて問われているとも言えよう。

   世界においても今,新型コロナウイルス感染症の感染拡大が,不確かなものも含めた情報の氾濫「インフォデミック(infodemic)」を引き起こし,人々の健康や公衆衛生を脅かしているとさえ言われる。メディアから得られる情報に対し一層慎重な判断を求められるようになった現代において,本ガイドは日本の図書館にも多くの示唆を与えてくれるだろう。

Ref:
Media Literacy in the Library: A Guide for Library Practitioners . ALA. 2020, 30p.
https://www.ala.org/tools/sites/ala.org.tools/files/content/%21%20FINAL%20Media-Lit_Prac-Guide_WEB_040521.pdf
“Media Literacy Education in Libraries for Adult Audiences”. ALA.
https://www.ala.org/tools/programming/MediaLiteracy
“Infodemic”. World Health Organization.
https://www.who.int/health-topics/infodemic
神足祐太郎. “「フェイクニュース」/偽情報問題の現状と対策”. ソーシャルメディアの動向と課題:科学技術に関する調査プロジェクト報告書. 国立国会図書館調査及び立法考査局編. 国立国会図書館, 2019, p. 89-104., (調査資料, 2019-5).
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11472873
葛馬侑. 図書館における青少年へのメディア指導:ALSC白書から. カレントアウェアネス-E. 2015, (283), E1684.
https://current.ndl.go.jp/e1684
鎌田均. フェイクニュースと図書館の関わり:米国における動向. カレントアウェアネス. 2019, (342), CA1966, p. 12-26.
https://doi.org/10.11501/11423548