カレントアウェアネス-E
No.522 2026.05.14
E2880
SPARC Japanセミナー2025<報告>
新潟大学附属図書館・瀬高花生里(せたかかおり)
2026年1月23日にSPARC Japanセミナー2025「リポジトリの永続性と信頼性:持続可能な学術情報基盤をどう築くか」がオンラインで開催された。本稿ではその概要を報告する。
冒頭で、池内有為氏(文教大学)は、日本の研究者による論文のオープンアクセス化、研究データやプレプリントの公開の増加と、それに伴いリポジトリの役割の重要性が相対的に高まっていることに言及し、リポジトリはデータの公開先と信頼性の参照のために使用される一方で、永続性・信頼性は危機的な状況にあるという本セミナー開催の背景について説明した。
前半は6人の講師による講演が行われた。初めに、杉田茂樹氏(京都大学)は「学術情報流通の薄明るい未来」と題し、学術情報流通の歴史を技術革新と科学の多様化とともに振り返った。その後、電子情報通信を活用した新たな学術情報流通アプリケーションは紙時代の慣習から完全に独立して設計する必要があると述べた。
鎌田均氏(京都ノートルダム女子大学)からは「消失するデータ:データと社会の相互作用」と題し、データそのものの不完全性や不確実性、データの消失の発生について説明があった。データには様々な社会的な要素や技術的な要素が関与しており、データが生まれた状況や作用、影響について批判的に考えたうえで取り扱うことが重要だと述べた。
オーファン(Stephanie Orphan)氏(arXiv)からは、「arXiv-今日、明日、そして未来のオープンアクセスを支える不可欠な基盤」と題し、論文共有プラットフォームarXivの沿革や利用状況、運用を支えるボランティア、多様なコミュニティからの資金提供、直面している技術的な課題や投稿の質の低下について動画による講演があった。
胡中孟徳氏(東京大学)は、「SSJDAのCoreTrustSeal認証取得の経験からみるコンテンツの永続性」と題し、データリポジトリの国際的な認証基準であるCoreTrustSealの要件と東京大学社会科学研究所のSSJ データアーカイブ(Social Science Japan Data Archive:SSJDA)の申請内容を比較しながら、アーカイブにおけるコンテンツの永続性と信頼性に必要な要素を整理した。
山之城チルドレス智子氏(Taylor & Francis Group)からは、「AI時代における信頼性の高い学術情報の提供と透明性の確保」と題し、Taylor & Francis社におけるAIポリシーについて、執筆段階での重要原則と査読段階での注意点が挙げられ、出版における透明性の確保の重要性について説明があった。また、国際STM 出版社協会(International Association of Scientific, Technical and Medical Publishers:STM)作成のAI利用に関するガイドラインが紹介された。
杉原孝充氏(国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC))は、「JAMSTECにおける研究データの公開ワークフロー」と題して講演した。JAMSTEC の情報管理部署では、データの管理・公開のための技術開発を行うと同時に、研究者や関連部署と連携しながら永続的なデータ公開を目指したガバナンス体制を構築していると紹介した。
後半は、江沢美保氏(一橋大学)と林賢紀氏(国立研究開発法人国際農林水産業研究センター)がモデレーターとなり、オーファン氏を除く講演者5人に加えて小林健輔氏(岡山大学)をパネリストとして、前半の講演に対する参加者からの質問をもとにパネルディスカッションが行われた。機関リポジトリの運営が終了した際のデータ保存については、多くの参加者が興味を示した。リポジトリを主要な公開場所としている紀要のようなデータは、リポジトリの消失がデータの消失に繋がる点が課題として指摘された。対策として、学術情報資源の長期保存を目的としたプロジェクトであるCLOCKSSに、大学が出版者として参加することが提案された。さらに、著者がセルフアーカイブとして所属機関のリポジトリで公開している著者最終稿については、著作者の権利に基づいて取り扱う必要性が指摘された。参加者からは、国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)の収集対象にしてはどうかという意見が寄せられた。
最後に細川聖二氏(国立情報学研究所)から閉会の挨拶があり、学術情報の永続性・信頼性に対するステークホルダー一人一人の意識の重要性が示された。
本セミナーでは、多くの実例を挙げながら、現在のリポジトリの永続性・信頼性を支えている要素から今後の学術情報流通の変化まで多岐に及ぶ話題が提供された。当日の発表資料と講演映像はSPARC Japanのウェブサイトで公開されている。詳しくはそちらを参照されたい。
Ref:
“SPARC Japan セミナー2025「リポジトリの永続性と信頼性:持続可能な学術情報基盤をどう築くか」”. SPARC Japan.
https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2025/20260123.html
Recommendations for a Classification of AI Use in Academic Manuscript Preparation. STM Association. 2025, 8p.
https://s3.eu-west-2.amazonaws.com/stm.offloadmedia/wp-content/uploads/2025/04/23020709/STM_AI_Classification_Recs_19_Sept2025-1.pdf
“Recommendations”. International Committee of Medical Journal Editors.
https://www.icmje.org/recommendations/
“CLOCKSS”. JUSTICE.
https://contents.nii.ac.jp/justice/clockss
“Triggered Content”. CLOCKSS.
https://clockss.org/triggered-content/
国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP).
https://warp.ndl.go.jp/
