カレントアウェアネス-E
No.521 2026.04.23
E2874
フランスにおける青少年の読書推進の取組:「青少年の読書に関する全国会議」を中心に
国立国会図書館利用者サービス部人文課・芹沢幸輝(せりざわこうき)
●はじめに
近年、フランスでは若者の読書時間が著しく減少し、スマートフォン等の画面を見て過ごす時間が増加していることが社会的な課題となっている。これは特に7~19歳に顕著で、本を読む時間に比べて画面を見る時間が平均10倍にも及ぶという調査結果も報告されている。さらに読書を妨げる要因として、地理的・文化的・社会的格差が指摘されており、これらが子どもの成長へ影響を与えるとされる。
こうした状況に対処するため、2025年7月3日に文化省と国民教育省が共同で立ち上げたのが「青少年の読書に関する全国会議」(États généraux de la lecture pour la jeunesse:EGLJ)である。この取組は、若者の読書離れの背景や阻害要因を明らかにし、読書を日常生活の中心的な文化活動として再び位置づけることを目指す、国民的な大規模意見収集プロジェクトである。フランス本土および海外領土から約6,000人の青少年を含む3万6,000人以上が参加し、さらに出版・教育・児童分野のあらゆる関係者が参加するというこれまでにない取組であった。本稿では、EGLJにおける意見収集の内容やその成果などを紹介する。
●意見の収集と分析
2025年9月から11月にかけて、以下の4つの方法で意見収集が進められた。
- 計60時間以上にわたる専門家・関係者へのヒアリング
- 約2万9,700件の回答と8万5,000件以上の投稿を集めたオンライン調査
- 合計で約300人以上が参加した、サントル・ヴァル・ド・ロワール(Centre-Val de Loire)、オー・ド・フランス(Hauts-de-France)、ヌーヴェル・アキテーヌ(Nouvelle-Aquitaine)、レユニオン(La Réunion)、マイヨット(Mayotte)の各地域圏での対話セッション
- 円卓会議や「pass Culture」(15歳から21歳までのフランスの若者に、身近にある文化的なイベントや施設へのアクセスを容易にするためのアプリケーション)等を活用した約6,000人以上の若者の声の収集
その結果、子どもの読書への関心は中学校(collège)入学頃までは比較的高いものの、特に男子生徒はそれ以降に読書習慣が急激に衰え、高校卒業後も読書を継続する若者はさらに少なくなる傾向が明らかとなった。また、思春期以降は男女間の読書習慣の差が拡大することも確認された。若者には読書への潜在的な関心が存在することが示された一方、読書体験が学校の学習や評価と関連づけられているゆえに、本の内容が自分の関心と合わず、退屈で魅力を感じにくいと認識している。さらに、読書は社会的に高く評価されていないというイメージが広く共有されており、SNS上の言説がその印象を強めている。また、読書は依然として「孤独な活動」とみなされがちである。読書離れの要因として、保護者はスマートフォン等やSNSの過剰利用を問題視しているが、若者自身もそれらが注意力を奪う存在であることを認識しており、同時にスマートフォンやSNS等の利用について大人が模範を示すことが重要であると指摘している。
EGLJは、若者と読書との関わりは生まれてから大人になるまで継続して育む必要があるとし、発達段階に応じた読書支援の重要性を強調した。また、学校内外の時間を一体的に捉え、教育関係者や家庭、地域が協働する枠組みの構築を求めている。さらに、地方自治体が地域に即した施策を主導するためには、政治的な支援と推進力が不可欠であると結論づけた。
●ロードマップの策定
2025年12月1日、パリ近郊のモントルイユで開催された青少年図書・出版フェア(Salon du livre et de la presse jeunesse)において、集約された意見をもとにした報告とロードマップ(Feuille de route)の発表が行われた。このロードマップは、今後10年間にわたる読書推進戦略を示したものであり、次の3つの軸から構成されている。
- 読書の楽しさを育み、維持するために「読解力と言語力の早期の習得」、「カリキュラムの多様性の拡大」、「若い読者の関与と責任感を高める仕組み」を可能にする。
- 若者が生涯にわたって読書に親しめるよう、読書の普及を目指す。出生時点での図書館カードの発行、娯楽施設への図書館設置を通じて、読書を学校教育だけでなく家庭や地域社会に浸透させる。
- 青少年支援に関する専門家間の協力の促進と体系化を行う。これにより、これまで予算の制約下で、少数の人によって支えられてきた最も効果的な取組をさらに安定させる。
●おわりに
EGLJについて、エドゥアール・ジェフレ(Édouard Geffray)国民教育大臣は、読書は自由のための強力な手段であり、読書の地位を取り戻す道筋が示されたと総括している。また、ラシダ・ダティ(Rachida Dati)文化大臣(当時)は、この取組への若者の積極的な参加は、読書時間を回復するための公共活動の実施にあたって大きな励みになる、と総括している。
Ref:
“Livre et lecture”. Ministère de la Culture.
https://www.culture.gouv.fr/thematiques/livre-et-lecture/etats-generaux-de-la-lecture-pour-la-jeunesse-remettre-la-lecture-au-caeur-des-pratiques-culturelles-des-jeunes
“Lancement des États généraux de la lecture pour la jeunesse par Élisabeth Borne et Rachida Dati”. Ministère de la Culture. 2025-07-03.
https://www.culture.gouv.fr/presse/communiques-de-presse/lancement-des-etats-generaux-de-la-lecture-pour-la-jeunesse-par-elisabeth-borne-et-rachida-dati
“Restitution des États généraux de la lecture pour la jeunesse : remettre la lecture au cœur du quotidien des jeunes”. Ministère de la Culture. 2025-12-01.
https://www.culture.gouv.fr/presse/communiques-de-presse/restitution-des-etats-generaux-de-la-lecture-pour-la-jeunesse-remettre-la-lecture-au-caeur-du-quotidien-des-jeunes
“Restitution des États généraux de la lecture pour la jeunesse : remettre la lecture au cœur du quotidien des jeunes”. Ministère de l’Éducation nationale. 2025-12-01.
https://www.education.gouv.fr/restitution-des-etats-generaux-de-la-lecture-pour-la-jeunesse-remettre-la-lecture-au-coeur-du-467800
“États généraux de la lecture : trois axes et une feuille de route”. Actualitte. 2025-12-01.
https://actualitte.com/article/127865/politique-publique/etats-generaux-de-la-lecture-trois-axes-et-une-feuille-de-route
