E2652 – ロービジョンケアと読書バリアフリー<報告>

カレントアウェアネス-E

No.469 2023.11.30

 

 E2652

ロービジョンケアと読書バリアフリー<報告>

筑波技術大学・青木千帆子(あおきちほこ)、
専修大学文学部・野口武悟(のぐちたけのり)

 

●はじめに

  2023年10月15日、高知市の図書館等複合施設であるオーテピアにて「ロービジョンケアと読書バリアフリー―情報セミナーと事例検討―」を開催した。主催は、日本学術振興会の科学研究費基盤研究(A)「プリント・ディスアビリティ児のための読書バリアフリー環境構築に関する実践的研究」(課題番号22H00081、研究代表:慶應義塾大学中野泰志氏)の研究チームである。ロービジョンケアとは、見えづらくなった人に対して行われる支援の総称である。ロービジョンケアの現場で読書バリアフリーをどのように実現するか、多機関・多職種で連携し協力することがもたらす可能性について、参加者とともに考える機会とした。

  イベントは、会場とオンライン配信のハイブリッドで開催した。全国から46人の参加申し込みがあり、点字図書館、公立図書館、学校図書館、医療機関、福祉施設、出版社、報道機関の職員やフリーランス、視覚障害等の当事者など、多様な視点や経験を持つ人々が参加した。本稿では、イベントの内容を報告する。

●情報セミナー

  第一部では、中野氏からの開会挨拶の後、情報セミナーとして以下の四つの報告があった。

  まず、筆者の野口が「読書バリアフリー法の概要と動向」と題して、2019年に制定された「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(読書バリアフリー法;CA1974参照)のポイントを解説し、公立図書館における読書バリアフリーの全国的な動向について報告した。

  続く三つの報告は、高知県でのロービジョンケアの実践を中心とした内容であった。

  オーテピア高知声と点字の図書館の坂本康久氏は、「オーテピア高知声と点字の図書館におけるロービジョンケア」と題して、障害者手帳の有無に関わらず、読書が困難な人に対し幅広く提供している同館のサービスを紹介し、高知県眼科医会が進めるロービジョンケアネットワークとの連携について報告した。

  すぎもと眼科(高知県安芸市)の医師である濱田佳世氏は、「高知家のロービジョンケアネットワーク」と題して、医療機関、福祉施設、教育機関、図書館をつなぐロービジョンケアネットワークの概要と意義について報告した。また、視力の低下を経験した人が、視力の状態に応じた生活を送れるようになるための一歩をふみ出すきっかけを逃さないようにするため、患者と関係者間のコミュニケーションが重要であると指摘した。なお、演題にある「高知家」とは、高知県が進めている「高知県は、ひとつの大家族やき。」をキャッチフレーズとする高知県振興キャンペーンの名称である。

  最後に、岡本石井病院(静岡県焼津市)の視能訓練士・歩行訓練士である別府あかね氏が、「眼科外来と病棟を軸とした多職種連携事例」と題して、医療機関として読書バリアフリーに関する情報提供をどのように行っているのか、病院内外のリソースの活用事例を示しつつ、具体的な取組内容を報告した。

●事例検討ワークショップ

  第二部では、筆者の青木のファシリテーションのもと、事例検討ワークショップを行った。まず参加者は、次の二つの事例を提示した。一つは、読書が趣味の70代で、加齢黄斑変性により中心視野障害があるものの身体障害者手帳には該当しないケース。もう一つは、緑内障により明暗がわかる程度の視力で、読書習慣がない60代のケースである。参加者を職種のバランスが偏らないよう調整した上でグループ分けし、ケースと類似した経験の有無、それぞれの職場でできることなどについて検討した。その後、各グループでの検討内容を共有する時間を設けた。

  全国各地から様々な職種の参加者が集まったこともあり、各地域での多様な取組が紹介され、様々なリソースを活用するアイデアが共有された。地域や機関によっても活用可能なリソースは異なり、実践上の課題を抱える参加者もいたが、別の参加者がそれらの課題を乗り越える方法を提案する様子も見られた。異なる職種の専門家が、それぞれの視点や知識を持ち寄り協力し合うことの可能性を、参加者が実感する機会となった。

●オンラインツアー

  第三部として、オーテピア高知声と点字の図書館の館内とバックヤードを紹介するオンラインツアーを開催した。同館は、オーテピア1階の正面玄関からそのままつながるオープンな空間となっている。そのスペースに、大活字本や録音図書、電子書籍端末などが展示されており、誰でも自由に触れることができる。同館が、アクセシブルな資料を一般の人々にとっても身近なものにしようとしている様子を、全国の参加者に配信した。

●さいごに

  ロービジョンケアは、医療の文脈で使われることが多い言葉である。だが、読書バリアフリーという観点からみるならば、ロービジョンケアに関わる職種は医療に限らない。イベントの参加者からも「関係がないと思っていた職種にも接点があることに気付いた」という声があった。今後、他の地域でも同様のセミナーを開催し、多機関・多職種との連携をさらに進め、誰もが読書することができる社会の実現のために取り組みたい。

Ref:
“【終了しました】ロービジョンケアと読書バリアフリー―情報セミナーと事例検討―”. オーテピア高知声と点字の図書館. 2023-10-15.
https://otepia.kochi.jp/braille/event.cgi?id=20230911104131l0ldeq
“プリント・ディスアビリティ児のための読書バリアフリー環境構築に関する実践的研究”. KAKEN.
https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-22H00081/
野口武悟. 読書バリアフリー法の制定背景と内容、そして課題. カレントアウェアネス. 2020, (344), CA1974, p. 2-3.
https://doi.org/10.11501/11509684