E2293 – 八王子市(東京都)のオーディオブック配信サービスについて

カレントアウェアネス-E

No.397 2020.09.03

 

 E2293

八王子市(東京都)のオーディオブック配信サービスについて

八王子市生涯学習センター図書館・藤原頼晶(ふじわらよりあき)

 

●導入の経緯・目的

   八王子市(東京都)では,2020年3月に「第4次読書のまち八王子推進計画 2020年度~2024年度」を策定し,「いつでも,どこでも,だれでも」読書に親しめるまち八王子の実現を基本指針に掲げている。図書館を中心として,家庭,地域,市民・市民団体,事業者,教育機関,行政などが連携した取組や,「いつでも,どこでも,だれでも」読書に親しめる環境を整備するとともに,全ての市民の読書活動を切れ目なく支援し,市民が,生涯にわたって,“読書”を楽しめる,知的好奇心あふれるまちをめざしている。

   八王子市図書館ではこれまでも,誰もが読書に親しめるよう,視覚に障害がある利用者等に向けた資料として,DAISY等の録音図書や録音雑誌などを提供しており,2018年4月からは,電子書籍サービスの中の音声読み上げ機能なども案内しているところである。そして,2019年6月に成立・施行された読書バリアフリー法(CA1974参照)への対応や非来館型サービスの更なる拡充として,誰でも気軽にいつでも聴くことができる図書の導入を考えていた。しかし,当時,公共図書館で実現するためには電子書籍の音声コンテンツを購入するしかなく,電子書籍(目)と音声コンテンツ(耳)を同じプラットフォームで提供することについて利用者・管理者の両面から議論を重ねていたが,導入には至っていなかった。

   そのような中,八王子市図書館で使用している京セラコミュニケーションシステム株式会社(KCCS)の公共図書館システムELCIELOと株式会社オトバンクのオーディオブックサービスaudiobook.jpが連携し,プロの声優やナレーターの朗読で読書を楽しむことができる「オーディオブック配信サービス」の提供を開始するとのプレスリリースがあった。2019年11月の第21回図書館総合展での説明を経て,有償トライアルについて案内があり,実施に向けて調整してきた。

●導入後の利用状況

   2020年6月1日から「オーディオブック配信サービス」を導入した。現在,ビジネス書や英語学習,子育て・健康に関する本,時代小説,落語,文学など3,102点を提供している。図書館ウェブサイトからパソコンやスマートフォンを通じて,場所や時間を選ばず,本を耳で聴くという新しいスタイルの「読書」を楽しむことができる。

   視覚に障害のある人が利用した感想の中には,「聞きやすい」というものがあった。聞きやすい朗読の声は,機械音声と違い,長い時間耳にしても疲れにくいことから,リラックスして楽しめると好評である。

   サービス開始後2か月間(6月・7月)の利用状況は,実利用者が681人で, 再生タイトル数(書誌)は709点,延べ利用回数は2,162回(6月1,432回,7月730回)だった。再生回数の多いジャンルは,文芸・落語が1,487回(名作文学853回,絵本237回,童話・昔話132回など),講演会が289回,自己啓発121回(スピリチュアル121回など)だった。時間帯別では,13時台・14時台と20時台・21時台の利用が多く, 年代別では,40歳代から60歳代,男女別でみると,女性の利用が男性より2割ほど多かった。また、講演会は40歳代・50歳代男性および40歳代女性,スピリチュアルは30歳代から50歳代女性,名作文学は30歳代から70歳代の男女において多かった。導入初期2か月間という利用分析であるが、利用年代や性別は,電子書籍サービスの利用傾向と似ている。そして, 名作文学や講演会,絵本や童話・昔話の利用が多いことは,本を耳で聴くというオーディオブックの特性の表れであり,想定通りであった。利用者の興味関心もそこにあると感じている。

●今後の予定

   システム自体のインターフェースが開発途上にあり,操作性の向上が課題と感じている。また,コンテンツも,時間的に短いもの,特定の話者のものに偏っている。新聞等への記事掲載や導入直後ということもあり,多くの利用があったが, サービス提供事業者には,お試し利用から継続利用につなげ,一定の利用者を確保していくためにも,公共図書館での利用許諾や提供価格について著作権者等と調整し,公共図書館向けコンテンツを充実させることをお願いしたい。

   読書バリアフリー法の趣旨のもと,現在導入している電子書籍やオーディオブックサービスを図書館利用に障害がある人の利用につなげていくためには,障害者団体や障害者を支援する(介助者)団体へのPRや使い方説明会など,図書館の取組にかかっていると感じている。また、最近は高齢者を中心に朗読CDのニーズも多くなっている。活字をそのまま読むことが困難になってきた利用者にも,「読書」を継続できる方法のひとつとしてオーディオブックサービスを案内していきたい。

Ref:
“オーディオブックサービス”. 八王子市図書館.
https://www.library.city.hachioji.tokyo.jp/audiobooks.html
“奈良市立図書館と八王子市立図書館が本を耳で聴くKCCSの「オーディオブック配信サービス」を導入”. 京セラコミュニケーションシステム株式会社. 2020-06-01.
https://www.kccs.co.jp/news/release/2020/0601/
“第4次読書のまち八王子推進計画”. 八王子市図書館.
https://www.library.city.hachioji.tokyo.jp/reading-town/page05.html
“公共図書館システム「ELCIELO」が「audiobook.jp」と連携し、本を耳で聴く「オーディオブック配信サービス」を提供開始へ”. 京セラコミュニケーションシステム株式会社. 2019-11-12.
https://www.kccs.co.jp/news/release/2019/1112/
野口武悟. 読書バリアフリー法の制定背景と内容、そして課題. カレントアウェアネス. 2020, (344), CA1974, p. 2-3.
https://doi.org/10.11501/11509684