E2304 – フランスの図書館ではどのような本が読まれているのか?

カレントアウェアネス-E

No.398 2020.09.17

 

 E2304

フランスの図書館ではどのような本が読まれているのか?

利用者サービス部サービス運営課・大沼太兵衛(おおぬまたへえ)

 

   2020年6月5日,フランス文化省は2019年版の“ Baromètre des prêts et des acquisitions dans les bibliothèques de lecture publique”を発表した。これは,公共図書館における資料の貸出・購入実績の年次動向調査の報告書であり,2014年に開始された同調査の6回目にあたる。なお,本稿では「公読書のための図書館(les bibliothèques de lecture publique)」を便宜上「公共図書館」と意訳した。「公読書(lecture publique)」とは,市民の読書の機会保障を国や自治体の責務として位置づけるフランス行政独自の概念であり,その主な担い手は公共図書館である。

●調査の目的・方法

   本調査の目的は,どのような資料を公共図書館(以下「図書館」)が利用に供し,利用者が借りているのか,その実態について全国レベルの大きな見取り図を描くことである。フランス全国から選ばれた169のサンプル館(合計でサービス人口約400万人に相当)の合計実績(貸出1,450万件,購入47万5,000件)を対象に,受託業者である民間の調査会社のTMO Régions社が,ソフトウェア会社のC3rb Informatique社,フランス国立図書館(BnF)および本の専門誌Livres Hebdoの3者と協同で実施した。

   各館から得られたデータの集計にあたっては,著作単位での名寄せを行い,同一著作の版・判型の違いや,館ごとの書誌データの揺れ等を捨象している。技術面の詳細は公開されていないが,BnFのメタデータ担当部門との協力体制のもと,ISBNをキーとしてデータ処理を行っているとのことである。

   本調査では,全ての資料が「フィクション」,「ノンフィクション」,「漫画」,「青少年・児童書(漫画を除く)」の4ジャンル(以下同順)に大きく区分され,貸出・購入の実績に対して各ジャンルが占める割合が算出された。

   以下,結果の概要を紹介する。

●貸出

   貸出件数全体をジャンル別に見ると,それぞれ21%,10%,30%,39%であった。青少年・児童書が多くの割合を占めている理由については,青少年・児童の利用者は,そもそも数が多いこと(2016年の年次統計では市町村立図書館の利用者の約32%を15歳未満が占めるという)や,貸出の回転率が高いこと等が挙げられている。

   一方,著作の観点で見ると,貸出の多い上位1万タイトルのジャンル内訳は,順に24%,1%,42%,33%となり,漫画の多さとノンフィクションの少なさが際立つ。漫画の多さについては,読了に要する時間が相対的に短いこと等が理由として挙げられている。なお,上位10タイトルに絞ると,貸出件数の59%がフィクション,41%が漫画となり,ベストセラー小説が上位を占めた。

●購入

   図書館の購入資料全体はジャンル別に25%,19%,19%,37%となり,貸出実績と比較するとノンフィクションが多く漫画が少ない結果となった。

   また,購入件数の多い上位1万タイトルのジャンル内訳は,33%,6%,24%,37%となった一方,上位100タイトルに限ると90%をフィクションが占め,利用者の需要の大きなベストセラー小説等に対する図書館側の購入意欲の高さが読み取れるという。

●出版年

   ジャンル分析に加え,本調査では貸出・購入件数に占める出版年の割合の分析も行われた。まず貸出については,新刊(2018年から2019年の発行書籍)が必ずしも多く読まれているわけではなく,いずれのジャンルも概ね2000年から2016年に出版された資料に最も利用が集中する傾向が示された。ただし,発行から図書館で利用可能になるまでのタイムラグ等も考慮に入れる必要があるという指摘も付記されている。

   一方,購入件数に新刊書が占める割合は,ジャンルごとに78%,75%,67%,64%となっており,貸出の場合よりも著しく大きい結果が示された。

●ランキング

   本調査では,4つのジャンルそれぞれについて,貸出・購入の多かった上位100タイトルのランキングも発表されている。ここでは書店の販売部数との比較も行われ,図書館の貸出・購入の上位タイトルとベストセラーとの一定の相関も示された。また,ノンフィクションでは旅行ガイドの貸出が多い事実等も指摘された。

   青少年・児童書の貸出ランキングを見ると,『ハリー・ポッター』シリーズをはじめ,『ウォーリーをさがせ!』,『かいじゅうたちのいるところ』,『チョコレート工場の秘密』等,日本でもおなじみのタイトルが複数ランクインしており,長く図書館で利用されている定番の作品の根強い人気をうかがわせる。

   ところでフランスは,日本の“manga”が根強い人気を誇っている国の一つであるが,この調査にもその一端が現われている。漫画の貸出ランキングでは,第1位の真島ヒロ氏の『FAIRY TAIL』第59巻をはじめ6タイトル,購入ランキングでは7タイトルを,日本の漫画が占める結果となった。

●最後に

   本調査は,図書館における貸出・購入の動向について,タイトル単位の分析に踏み込むことで,フランスの図書館利用者がどのようなジャンルの本を読んでいるのかを定量的に示した点に特色があると言える(日本の図書館関係統計において,全国レベルで同様の調査を行ったものはない)。

   蛇足ながら,フランス政府は政府統計等の各種オープンデータのポータルサイト“data.gouv.fr”を2011年に公開している。本稿執筆時点で,本調査シリーズのデータは同サイトで公開されていないが,オープンデータとして公開されれば,例えば自治体規模や地域別といった,より詳細な分析も可能となるだろう。フランス政府の今後のオープンデータ化に向けた取り組みに期待したい。

Ref:
“Baromètre des prêts et des acquisitions en bibliothèque – 2019”. Ministère de la Culture.
https://www.culture.gouv.fr/Sites-thematiques/Livre-et-lecture/Actualites/Barometre-des-prets-et-des-acquisitions-en-bibliotheque-2019
Ministère de la Culture. Baromètre des prêts et des acquisitions dans les bibliothèques de lecture publique 2019. 2019, 23p.
https://www.culture.gouv.fr/content/download/270510/3153058
Ministère de la Culture. Baromètre des prêts et des acquisitions dans les bibliothèques de lecture publique Palmarès 2019. 2019, 58p.
https://www.culture.gouv.fr/Media/Medias-creation-rapide/Palmare-s-2019.pdf
data.gouv.fr.
https://www.data.gouv.fr/
“第2部第2章フランスの公共図書館”. 諸外国の公共図書館に関する調査報告書. シィー・ディー・アイ, 2005, p. 78-98.
https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/houkoku/06082211/005.pdf