E2651 – Book Mobile(移動図書館)サミット<報告>

カレントアウェアネス-E

No.469 2023.11.30

 

 E2651

Book Mobile(移動図書館)サミット<報告>

名古屋市鶴舞中央図書館・大井亜紀(おおいあき)

 

  2023年10月29日、名古屋市鶴舞中央図書館は、移動図書館について楽しみながら考えるイベント「Book Mobileサミット」(以下「BMサミット」)を開催した。鶴舞公園会場で行われた屋外イベントと、図書館会場で実施した講演会等の内容について、開催に至る経緯とともに報告する。

●開催に至る経緯

  1956年に始まった本市の移動図書館(本市では自動車図書館と呼んでいる)は、現在は約3,000冊を積載する車両2台が市内118か所を巡回している。巡回回数の増加やイベント等への参加、新たな場所への出張をめざし、老朽化した2台の車両は2024年度から廃止し、新しい4台の小型車両による活動に切り替えていく予定である。

  本市の自動車図書館が大きく姿を変えようとする中、他都市の移動図書館の多様な活動を市民に周知し、本市が新たな取り組みに向かう契機としたいと考え、2023年10月の本市図書館開館100周年の記念事業の一つとしてBMサミットを企画した。

●公園会場

  イベント当日、鶴舞公園には名古屋市の3台(上記の2台と守山区・緑区の分館の指定管理者が新たに運行を開始する1台)に加え、特定非営利活動法人本と人とをつなぐ「そらまめの会」(鹿児島県)、近江八幡市立近江八幡図書館(滋賀県)、各務原市立中央図書館(岐阜県)の移動図書館及び移動本屋Book Truck(神奈川県横浜市)の計7台が集まった。気軽に車両を回ってもらえるよう実施した、各車体に隠された文字を探すクイズには400人以上が参加し、一部では本やグッズも販売され、たいへんな賑わいであった。移動図書館を所有する全国の政令指定都市や東海3県の図書館の協力により製作した各地の移動図書館紹介パネル21枚や、ワークショップで市民が作成した「一箱本棚」が並んだ。会場近くの桜花学園高校によるフェアトレードコーヒーの販売も行われ、これまで移動図書館を知らなかった人にも広く楽しんでもらうことができた。

●図書館会場

  図書館会場では、基調講演、事例発表、パネルディスカッションが行われ、市内外から延べ82人が参加した。会場には名城大学建築学科谷田真研究室の「ブック・モービル・スタディーズ」による移動できる展示架が設置され、休憩時間には日本図書館協会制作の「ブック・モビルの歌」が流れていた。

  基調講演では、十文字学園女子大学准教授の石川敬史氏が「移動図書館の過去×現在×未来」と題し講演を行った。各地の移動図書館の現場を訪ねて撮影された豊富な写真と共に、各種統計や呼称・愛称の変遷、テーマソングから読み取れる移動図書館の位置づけの移り変わり、時代や地域に応じて様々な形で展開されてきた各地の移動図書館の活動について分かりやすく解説した。

  その後「地域に飛び込む移動図書館~届けよう!本を読む喜びを~」と題して事例発表とパネルディスカッションが行われた。

  岡山市立中央図書館司書の三船充是氏は、移動図書館で実践している、重度の心身障害や難病を抱える子どものいる家庭への図書館サービスについて発表した。提供する資料は図書だけでなく多岐に渡ること、家族への資料提供・情報支援も行っていること、月1回の訪問では歌や器楽演奏などを導入に用いて読み聞かせを行っていることなど具体的な内容を紹介した。その実践は、図書館への来館が困難な子どもに読書体験を届けるための理想の姿を見る思いがした。

  近江八幡市立近江八幡図書館の奥村恭代館長は、2021年度と2023年度に移動図書館車を導入するまでの経緯や体制づくりなどについて報告した。就学時までに子どもの聞く力を育て、読書習慣を確立することを目指して2023年度に導入した小型車両で、保育園等を2か月に1回程度巡回している。巡回時には園内で司書によるおはなし会を行うとともに、園で読み聞かせをするための絵本セットを貸し出し、保育士に読み聞かせをしてもらっているとのことであった。車両は地域の絵本作家によるデザインで、園児と一緒に作ったオリジナルのれんをかけて巡回しているという。「すべての子どもに平等な読書体験を。感性豊かな時期に生きる力の根っこを育てたい」という同市の方針を、移動図書館という形で実践していた。

  特定非営利活動法人本と人とをつなぐ「そらまめの会」(E2479参照)の下吹越かおる理事長は、廃止された指宿市の移動図書館をもう一度走らせたいと考えてクラウドファンディングに挑戦した経験や、地域の人や子どもの夢が詰まった車両を作るプロセスについて述べた。図書館に一度も来たことがない子どもに本を届けたいという理念に、多くの共感が集まりクラウドファンディングは成功し、ブックカフェ号「そらまMEN」が誕生した。その取り組みが官民連携、多様な資金調達手法の事例として注目を浴びていることを紹介した。

  その後、石川氏をコーディーネーターとして、「図書館が「移動」することで、貸出以外に具体的にどのような活動を「移動」したいと考えているか?」などをテーマに、事例発表者3人によるパネルディスカッションが行われた。それぞれの実践を踏まえた様々な意見が出るなか、下吹越氏の「図書館へ来られなければ図書館が行く」という言葉が移動図書館担当の思いを総括していたように感じられた。

●おわりに

  図書館に来られない・来ていない市民は今どこにいるのか、その人たちに本を届けるにはどうすればよいのか、今のあり方を問い直し、本を貸し出すことに加えて地域の課題に即したサービスを提供していくことが、移動図書館を今後も走らせ続けるために重要であると改めて認識した。このBMサミットをきっかけに、本市はもちろんのこと、全国で移動図書館の活動がさらに発展していくことを期待したい。

  なお、BMサミットについては、本市図書館ウェブサイトで当日の写真を掲載するとともに、基調講演等の動画をYouTubeの名古屋市図書館公式チャンネルで配信しているので、興味を持たれた方は参照されたい。

Ref:
“名古屋市図書館 100周年記念事業「Book Mobile(ブックモービル)サミット」を行いました!”. 名古屋市図書館. 2023-11-12.
https://www.library.city.nagoya.jp/oshirase/topics_gyouji/entries/20231112_04.html
“名古屋市図書館 「100周年記念事業・Book(ブック) Mobile(モービル)サミット」≪開催日:10月29日(日)≫”. 名古屋市図書館. 2023-09-21.
https://www.library.city.nagoya.jp/oshirase/topics_event/entries/20230921_01.html
“Book Mobileサミット”. YouTube.
https://www.youtube.com/playlist?list=PLhC615-Jp-McSEAHEmW_xOFy2h76o84BH
下吹越かおる. 市民NPO「そらまめの会」による指宿市立図書館の運営. カレントアウェアネス-E. 2022, (432), E2479.
https://current.ndl.go.jp/e2479