E2621 – 小規模OA出版社の持続のためのガバナンス:COPIMの取組から

カレントアウェアネス-E

No.462 2023.08.24

 

 E2621

小規模OA出版社の持続のためのガバナンス:COPIMの取組から

京都大学学術研究展開センター・天野絵里子(あまのえりこ)

 

●COPIMについて

  Community-led Open Publication Infrastructures for Monographs(COPIM)は、コミュニティ主導のオープンアクセス(OA)書籍出版を支援する国際的なパートナーシップで、大手商業出版社の独占的なOA出版とは対極の、多様かつ民主的で公平なOA出版を目指す取組である。本稿ではCOPIMの概要とCOPIMによる小規模出版社のガバナンスに関する報告書について紹介する。

  パートナーシップに参加しているのは、研究者主体のOA出版社のコンソーシアムであるScholarLed、英国図書館(BL)などの図書館、英・ケンブリッジ大学などの大学、Directory of Open Access Books(DOAB)や英・Jiscなどの基盤提供者である。

  COPIMの活動は、7つのワークパッケージ(以下「WP」)から成っている。OA書籍のメタデータを作成、管理、流通させるためのプラットフォーム“Thoth”の運営(WP5)や実験的出版戦略の検討(WP6)、アーカイブとデジタル保存の支援(WP7)といった技術的なテーマに取り組むパッケージや、出版社が持続的に資金調達できるモデルを運用するパッケージがあり(WP2、WP3)、うちWP2の成果であるOpen Book Collectiveはすでに独立した団体として図書館向け購読プログラムを提供している。COPIMは2019年にリサーチ・イングランド開発(RED)基金とアルカディア財団からそれぞれ220万ポンド(約4億円)、80万ポンド(約1億5,000万円)の助成を受けて運営されてきた。2023年5月からはさらに580万ポンド(約10億5,000万円)の助成を受け、新たな3年間のプロジェクトOpen Book FuturesとしてCOPIMの取組や成果が引き継がれることになっている。

●WP4報告書に見る小規模OA出版社のガバナンス

  COPIMが目指すのは、“scaling small”、つまり大手の商業出版社によるOA出版が規模の拡大、市場の独占、コミュニティの画一化を目指すのに対し、志を同じくする小規模出版社がリソースを共有しながら持続的に発展することである。そのためにはそういった出版社が小さくともしっかりとしたガバナンス機構を持ち、資金提供者などのステークホルダーに対して透明な経営を行うのが理想的である。WP4は、ガバナンスの現状に関する調査やあるべき姿を検討するワークショップなどを行ってきた。

  これから紹介するWP4の成果である報告書“Governing Scholar-Led OA Book Publishers: Values, Practices, Barriers”(研究者主導のOA出版社を統治する:その価値、実践、そして障壁)は、ScholarLedに加盟し、価値観(小規模、オープン化、書誌多様性、非競合など)を共有するOA出版社の経営やガバナンスの現状について、事前調査及びインタビューにより得た結果をまとめたものである。

  調査対象となったのは、African Minds、Mattering Press、mediastudies.press、meson press、Open Book Publishers、punctum booksの6社である。調査の結果、全ての出版社は法人化されていたが、法人形態は、それぞれの理念や求められるガバナンスや手続きとの兼ね合いで全て異なっていた。ガバナンスを構成する人や手続きもそれぞれ異なり、評議員がいるところもあれば、購読メンバーである図書館で構成される諮問委員会があるところもあった。取締役や委員会メンバーの多様性、人数については各出版社でバランスを考慮しているようである。出版プロセスや財務についてはウェブサイトで詳細に公開されているところもあれば、インタビューで聞かなければわからないところもあった。他団体との関係性に関しては、図書館から事務スペースや資金を受けている出版社もあった。

  報告書は、結論として出版社がよりよいガバナンスの仕組みを開発するためのいくつかの方策を提案している。まず出版社がガバナンスを検討する際は、図書館・公文書館・博物館関係の複数のコミュニティ運営を支援する米国の非営利団体Educopiaの“Governance in Formation”といった既存のガイドを参考にするということである。そして、法人化し、ガバナンスを構成する要素(人、財源、規則など)間の関係性を明確にすることである。多様性を重視するならば、ガバナンスを構成する人のバランスは考慮されねばならない。と同時に、多様な人が集まればコンフリクトが起こりうるため、解決手続きをあらかじめ決めておくことも必要である。ガバナンス機構や財務状況はウェブサイトに掲載し、透明性の確保に努めなければならない。

●おわりに

  OAを標榜して始められた革新的な取組が、大手の商業出版社に取り込まれ理念が換骨奪胎されていくのを私たちはこれまでいくつも見てきている。本来自由であるはずの出版を多様なまま維持するためには、安定的な収支モデルや技術開発だけでなく、ガバナンスの地道な整備も重要であるとCOPIMの取組が教えてくれている。

Ref:
COPIM.
https://www.copim.ac.uk
ScholarLed.
https://scholarled.org
“£5.8 million funding to significantly expand and accelerate COPIM open access infrastructures”. COPIM. 2023-03-30.
https://copim.pubpub.org/pub/open-book-futures-announcement/release/1
“WP4: Community Governance”. COPIM.
https://www.copim.ac.uk/workpackage/wp4/
Fathallah, Judith. Governing Scholar-Led OA Book Publishers: Values, Practices, Barriers. COPIM, 2023.
https://doi.org/10.21428/785a6451.e6fcb523
Educopia Institute. Governance in Formation: Identifying Priorities for Action and Making Decisions: Facilitator’s Guide. Community Cultivation: Resource Library. 16p.
https://educopia.org/wp-content/uploads/2021/03/Educopia_GovernanceinFormation_FacilitatorsGuide_PUBLICATION.pdf