E2622 – シンポジウム「コロナ感染症をめぐる記録と記憶」<報告>

カレントアウェアネス-E

No.462 2023.08.24

 

 E2622

シンポジウム「コロナ感染症をめぐる記録と記憶」<報告>

日本歴史学協会・佐藤孝之(さとうたかゆき)

 

  2023年6月24日、日本歴史学協会(以下、「日歴協」)と日本学術会議史学委員会、日本学術会議史学委員会歴史資料の保存・管理と公開に関する分科会主催の第28回史料保存利用問題シンポジウムが、「コロナ感染症をめぐる記録と記憶―何を、誰が、どう残すか―」をテーマに、オンライン形式にて開催された(全国歴史資料保存利用機関連絡協議会・日本アーカイブズ学会の後援)。本稿では、このシンポジウムの概要を紹介する。(参加者211名)

  まず、若尾政希日歴協委員長から開会挨拶があり、筆者が趣旨説明を行った。新型コロナウイルス感染症(以下、「コロナ感染症」)はさまざまな社会問題を浮き彫りにし、人類社会の変容と課題を考える機会となったが、流行が3年余となり、本年5月には「五類」に移行したとはいえ、未だ安心できる状況ではない。この間の医療現場や保健所等における活動の記録、各地の史料保存利用機関等におけるコロナ感染症をめぐる公文書管理の取り組み等、関係諸記録・記憶の収集・保全への対応を検証し、未来へ継承するための展望を得るため本シンポジウムを開催した。一方、日本学術会議史学委員会では、「新型コロナウイルス感染症のパンデミックをめぐる資料・記録、記憶の保全と継承に向けて」(提言)を発出する計画が進められており、これと連動する企画でもある。

  また、日歴協では、昨年度のシンポジウムを受けて「公文書館法の専門職員に係る附則2の撤廃を求める要望書」を発出したが、アーカイブズ専門職問題に継続的に取り組む観点から、本年度は特別報告として、国立公文書館による認証アーキビスト制度の動向についての報告を受けた。

    第1報告   飯島 渉氏(日本学術会議連携会員、青山学院大学教授、感染症アーカイブズ顧問)
         「コロナ感染症をめぐる記録と記憶―現状と課題―」
    第2報告   関なおみ氏(大田区保健所感染症対策課長、医師)
         「保健所の新型コロナウイルス感染症対応に係る記録について」
    第3報告   工藤航平氏(国立歴史民俗博物館准教授)
          「東京都における感染症記録の保存対応と課題」
    第4報告   持田 誠氏(北海道浦幌町立博物館学芸員)
         「地域博物館におけるコロナ関係資料の収集について」
    特別報告  伊藤一晴氏(国立公文書館上席公文書専門官)
         「准認証アーキビストの検討状況について」

  それぞれの報告は、まず第1報告では、コロナ感染症をめぐる諸資料を残す意味・意義とその方法を包括的に論じた。次いで第2報告では、大田区保健所を事例に、コロナ感染症への対応の最前線にある保健所における諸記録の生成・保管・保存のあり方を、第3報告では東京都のコロナ感染症をめぐる公文書管理のあり方を、それぞれ論じた。そして第4報告では、地域博物館におけるコロナ感染症関係資料(文書以外のモノ資料)の収集の取り組みと成果・課題について論じた。特別報告は、国立公文書館による認証アーキビスト制度の全体の紹介(E2251 参照)と、新たに取り組む准認証アーキビストの検討状況を報告した。

  報告の後の第1報告から第4報告の報告者によるパネルディスカッションにおいて、オンライン参加者からの質問も交え、活発な議論が展開された。コロナ感染症にかかわる公文書の保管から保存・利用を考えた制度構築の重要性、その際の資料の選別基準、資料の保存・利用の上での人員や場所の問題、デジタル化対応の必要性が議論され、博物館機能の充実、大学や学会の役割も指摘された。SNSやネット情報への対応等については十分な議論に至らず課題を残すことになったが、コロナ感染症をめぐる経験を未来に伝えるための記録や記憶の保存・継承について理解を深めることができた。

  最後に、栗田禎子日本学術会議会員の挨拶があり、シンポジウムは閉会した。

  シンポジウムの各報告については、『日本歴史学協会年報』第39号に掲載予定である。ぜひ参照されたい。

Ref:
“公開シンポジウム「コロナ感染症をめぐる記録と記憶―何を、誰が、どう残すか」”. 日本学術会議.
https://www.scj.go.jp/ja/event/2023/342-s-0624.html
“史学委員会”. 日本学術会議.
https://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/bunya/sigaku/index.html
“公文書館法の専門職員に係る附則2の撤廃を求める要望書”. 日本歴史学協会.
http://www.nichirekikyo.com/statement/statement20220804.html
“認証アーキビストについて”. 国立公文書館.
https://www.archives.go.jp/ninsho/aboutCAJ/index.html
“新型コロナウイルスに関する情報”. 東京都.
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/tosei/news/2019-ncov.html
東京都文書管理規則.
https://www.reiki.metro.tokyo.lg.jp/reiki/reiki_honbun/g101RG00000187.html
東京都新型コロナウイルス感染症対策に関する公文書の移管方針. 東京都, 2020.
https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/01soumu/bunshoka/pdf2/koronaikanhoushin.pdf
“行政文書の管理における「歴史的緊急事態」の決定について”. 内閣府.
https://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/rekiren/index.html
“新型コロナウィルス (COVID-19) 感染についてのデジタルアーカイブ (国内)”. デジタルアーカイブ学会.
http://stokizane.sakura.ne.jp/tokizane2/covid-19-domestic/
“新型コロナウィルス(COVID-19)感染についてのデジタルアーカイブ(国外)”. デジタルアーカイブ学会.
http://stokizane.sakura.ne.jp/tokizane2/covid-19-overseas/
国立公文書館統括公文書専門官室人材育成担当. アーキビスト認証制度創設の検討について. カレントアウェアネス-E. 2020, (389), E2251.
https://current.ndl.go.jp/e2251