E2620 – 歴史公文書を学校現場で活用するために:滋賀県の事例から

カレントアウェアネス-E

No.462 2023.08.24

 

 E2620

歴史公文書を学校現場で活用するために:滋賀県の事例から

滋賀県立公文書館・大月英雄(おおつきひでお)

 

  2023年3月、滋賀県立公文書館では、情報紙『滋賀のアーカイブズ』第13号として、公文書館所蔵資料を用いた学習指導案集を作成した。2022年3月刊行の前号(第12号)では、当館の開館記念誌『歴史公文書が語る湖国―明治・大正・昭和の滋賀県―』を用いた授業指導案を掲載しており、今号はその続編にあたる。これらの指導案は、学校現場の教員の協力を得て作成したものであり、前号の刊行経緯や内容については、「『歴史公文書が語る湖国』を用いた学校連携事業」(『アーカイブズ』第83号)で紹介している。

  今号の基本的な構成は前号を踏襲しているものの、いくつか改良を加えた点がある。また関連事業として公開授業・シンポジウムも実施することができた。本稿では、当館の学校連携事業の新たな取り組みについて紹介したい。

●学習指導案の改良

  今号の改良点の第1は、小学校から高等学校までを対象とする学習指導案集としたことである。前号は、児童が資料を読み解くことは難しいと考えたことから、中学校と高校向けのものにとどめていた。しかし、前号の執筆者と親しい渡晋一教諭(大津市立堅田小学校)に手に取ってもらったところ、写真や図面を中心にすれば、小学生でも読み解くことができるのではないか、というアドバイスを受けた。そこで新たに渡教諭にも執筆者に加わってもらい、今号はさらに小学校も対象とした指導案集とすることができた。渡教諭担当分では、1896年(明治29年)に起きた琵琶湖大水害を事例として、水害の様子がうかがえる図面や写真、被災調査表などを取り上げるなど、くずし字や古文などの素養がない生徒でも、イメージをふくらませやすいような資料を掲載している。

  改良点の第2は、所蔵資料を読み解くための資料編を充実させたことである。今号では、巻末に全掲載資料の翻刻文(原文を活字化したもの)を載せている。当館所蔵資料の多くはくずし字で書かれており、前号作成時には複数の執筆者から翻刻の依頼があった。実際に授業で生徒に読ませる際も、翻刻文や現代語訳などがなければ活用が難しいとの声も寄せられたため、今号ではあらかじめ資料編を巻末に配置することとしたのである。

  また、当館ウェブサイトでは、『歴史公文書が語る湖国』掲載の資料画像の公開も開始している。同書は、授業で活用しやすい資料が多数掲載されており、今後教員や生徒がタブレットなどから当館所蔵資料を手軽に利用できる環境整備が必要であると考えたからである。2023年度中には、すべての掲載資料が公開できる予定となっており、学校現場でより活用されることを期待している。

●公開授業・シンポジウムの開催

  さらに今回の学校連携事業では、2022年10月5日に、第1回公開授業およびシンポジウムを滋賀県立膳所高等学校で実施することができた。指導案執筆者の1人である山本茂雄教諭が、「富国強兵と文明開化」(歴史総合)の単元で、「彦根城と膳所城の近代」をテーマに授業を行った。授業で取り上げられた資料は、「膳所城廃城願」「彦根城評価の義に付き回答」など6点で、生徒に各自のタブレットに送られた写真と翻刻文を手がかりとして、資料の文意を読み取ってもらうという内容だった。大人でも理解が難しい資料ばかりであるが、生徒たちは「戦闘」「城郭」「修理」などのキーワードをつなげることで、当館職員が驚くほど内容を正確に理解していた点が印象的だった。参加した教員からも、「公文書館所蔵資料は高校生には難しすぎるのではと考えておりましたが、教師側の工夫でいかようにも活用できるのだと実感しました」との声が寄せられた。授業後に実施したアンケートでは、今回の学習に興味をもつことができたと回答した生徒は、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」を合わせて95%(37人中35人)にのぼり、「読み取りを楽しみながら授業に取り組めた」、「歴史的資料の現物の写真が見られて、興味がより湧く」などの感想があった。

  授業後に行われたシンポジウムでは、指導案執筆者や筆者らが登壇し、歴史学習などにおける公文書館所蔵資料の活用について、活発な議論を交わすことができた。当日は県内の中学校・高校の教員ら45人の参加があった。さらに2023年2月9日には、第2回公開授業を近江八幡市立八幡中学校で実施し、指導案執筆者の小林美希教諭が「社会事業のはじまり~近代滋賀の貧困対策~社会権」をテーマに授業を進めた。

  このように、当館の学校連携事業は、まだ始まったばかりだが、今後も引き続き、さまざまなかたちで公文書館所蔵資料の活用を進めていきたいと考えている。

Ref:
“【県政150周年記念事業】公文書館所蔵資料を用いた学習指導案集の作成について”. 滋賀県. 2023-03-27.
https://www.pref.shiga.lg.jp/kensei/koho/e-shinbun/oshirase/330885.html
滋賀県立公文書館. 滋賀のアーカイブズ. 2023, 13, 20p.
https://archives.pref.shiga.lg.jp/images/publication/shiga_archives13.pdf
“学校連携”. 滋賀県立公文書館.
https://archives.pref.shiga.lg.jp/index.php/school
大月英雄. 『歴史公文書が語る湖国』を用いた学校連携事業. アーカイブズ. 2022, (83).
https://www.archives.go.jp/publication/archives/no083/11446
滋賀県立公文書館編. 歴史公文書が語る湖国―明治・大正・昭和の滋賀県―. サンライズ出版, 2021, 212p.