E2598 – 学術雑誌の制作とアクセスの現状に関する調査報告(2022年)

カレントアウェアネス-E

No.457 2023.06.01

 

 E2598

学術雑誌の制作とアクセスの現状に関する調査報告(2022年)

京都大学東南アジア地域研究研究所・設樂成実(したらなるみ)

 

  2022年12月、学術雑誌のソフトウェア・ソリューション・プロバイダーであるScholasticaは学術雑誌の制作とアクセスの現状に関する調査結果 “The State of Journal Production and Access 2022”(以下「報告書」)を公開した。本調査は、2022年6月から10月まで、学会、大学出版会、研究機関、図書館といった、他の出版社に外部委託せずに査読付き学術雑誌の出版を行う出版者を対象に実施され、28か国から82の回答を得た。回答数の上位3か国は、米国、英国、カナダである。主な調査内容は、学術誌の制作のプロセスとフォーマット、メタデータのタグ付けの基準と優先事項、オープンアクセス(OA)への取り組みと資金調達モデルであり、2020年に実施した同様の調査(以下「前回調査」)との比較を含めた報告となっている。本稿では報告書の概要を紹介する。

●回答者の概要

  回答者は、学会(34%)、大学出版会(27%)、非営利の出版社(11%)が上位を占める。刊行誌数の区分としては、刊行する学術雑誌が1誌の出版者が最多(34%)である一方、6誌以上と回答した出版者の合計は前回調査(36%)より増え50%を占める。分野は、人文・社会科学が45%と約半数を占める。回答者の地域は、欧米(76%)が多くを占めるが、アジア(7%)、アフリカ・中東(7%)、南米(6%)、オセアニア(4%)も含まれる。

●学術雑誌制作の現状

  • フォーマット
      出版フォーマットは、PDFが94%、HTMLが62%、紙媒体が45%となり、前回調査よりHTMLの制作が増加している。XMLでの全文提供を行う出版者は38%にとどまり、前回調査から変化がない。EPUBを提供する出版者は、前回調査同様最も少ない。
  • メタデータ
      前回調査と同様、大半の出版者が論文ごとにアブストラクトや著者の所属機関といった基本情報に関して機械可読型のメタデータを作成しており、著作権使用許諾と引用文献については半数以上の出版者が作成している。永続的識別子では、DOIとORCID(E2261CA1740CA1880参照)が最も一般的で半数以上の出版者が取り入れており、次いでファンディングの名称(CA1976参照)が多い。メタデータ要素は、出版者の規模が大きくなるほど増加する傾向にある。
  • 制作プロセス
      校閲や校正といった編集作業は内部で行い、組版、XML制作、印刷・製本は外注する出版者が多い。メタデータや全文を索引やアーカイブに登録する作業は内部で行う出版者が多いが、DOIの登録については回答が分かれた。今後3年間の学術雑誌制作における優先事項は、検索エンジンの最適化、索引への収録の拡大、制作時間の短縮の順に多い結果となった。

●学術雑誌のアクセスの現状

  前回調査同様、80%の出版者が完全なOA誌(出版と同時に無料で読むことができるOA誌)の出版モデルを利用しており、うち93%は今後3年間も完全なOAを維持する予定である。資金調達及び予算に関しては、完全なOA出版のための資金調達の重要度が最も高く(重要度3.85(5を最重要とした場合))、出版コストの削減(3.74)、収入の増加(2.94)が続く。今後3年間の資金調達の手段としては、発行機関による助成が最多で、外部の助成金が続く。インフラの共同利用や資金調達のモデルを重視する出版者は前回調査より減少した。オープンリサーチやデータ共有に関するポリシーを作成している出版者は半数以下にとどまる。また、今後3年間の優先事項としては、読者数の増加の重要度が最も高い(重要度3.8)。

●おわりに

  日本では、出版社に業務委託することなくJ-STAGEや機関リポジトリを通し自ら学術誌の出版・公開を行う学会や研究機関が多く、報告書はこれらの編集者が今後の学術雑誌の在り方を検討する際に参考になるだろう。また、助成機関や大学執行部などが出版や編集の現場を知り支援の方向性について検討する際の情報源にもなるだろう。なお、著者からも読者からも料金を徴収しない出版モデルは、海外ではダイヤモンドOAと呼ばれ、購読料や論文処理費用(APC)の高騰といった学術雑誌の商業化が招く問題への打開策として見直されている。世界のダイヤモンドOA誌の編集現場の現状や課題については、2021年にボスマン(Bosman)らによる詳細な調査結果が報告され、日本語での解説も出ている。報告書と合わせて是非参照されたい。

Ref:
The State of Journal Production and Access 2022: Report on survey of independent academic publishers. Scholastica. 2022, 41p.
https://doi.org/10.5061/dryad.qbzkh18n5
Bosman, Jeroen et al. OA Diamond Journals Study. Part 1: Findings. Zenodo. 2021.
https://doi.org/10.5281/zenodo.4558704
下城陽介. ダイヤモンドOA. JPCOAR, 2022, 74p.
https://doi.org/10.34477/0002000167
森雅生. ORCIDへの期待とコンソーシアム. カレントアウェアネス-E. 2020, (391), E2261.
https://current.ndl.go.jp/e2261
蔵川圭. 著者の名寄せと研究者識別子ORCID. カレントアウェアネス. 2011, (307), CA1740, p. 15-19.
https://doi.org/10.11501/3050829
宮入暢子. ORCIDのコミュニティ展開―日本での実装に向けて―. カレントアウェアネス. 2016, (329), CA1880, p. 2-4.
http://doi.org/10.11501/10196261
中島律子. 組織IDの動向−RORを中心に. カレントアウェアネス. 2020, (344), CA1976, p. 7-9.
https://doi.org/10.11501/11509686