E2605 – デジタル社会と子どもの読書に関するシンポジウム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.458 2023.06.15

 

 E2605

デジタル社会と子どもの読書に関するシンポジウム<報告>

東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター・佐藤賢輔(さとうけんすけ)

 

  2023年3月14日、オンラインシンポジウム「デジタル社会は子どもの読書環境をどう豊かにできるか?〜『紙』と『デジタル』のベストミックスの模索〜」が開催された。本シンポジウムは、東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター(CEDEP)と株式会社ポプラ社による共同研究プロジェクトの一環として行われ、当日は300名超がウェビナーに参加した。

  野澤祥子氏(CEDEP)からの趣旨説明と里見朋香氏(文部科学省)の挨拶の後、筆者が共同研究の成果を中心とした研究報告「子どもの読書における紙とデジタル−期待・実態・課題」を行った。未就学児の保護者を対象とした調査結果を紹介しながら、読書が子どもの発達にとって重要であるという認識が社会で共有されている一方、子どもの読書時間は少なく、成長とともに読書離れが進んでいく実態を示した。また、電子書籍を含む子どものデジタルデバイス使用に対する保護者の否定的な態度は根強く、デジタル読書が子どもにあまり普及していないことを指摘した。続いて、幼児と保護者が一緒に実際に絵本を読む場面を利用して、保護者が紙の絵本を読み聞かせる場合と、ナレーションによる読み上げ機能付きのデジタル絵本を一緒に読む場合とを比較した実験結果を紹介した。紙かデジタルかによって絵本の内容の理解や読む最中の会話が大きく変化することはないことを示し、デジタルを選択肢から除外するのではなく、紙とデジタルそれぞれの特長を生かした読書環境の構築が重要であると主張した。

  続いて、青木いず美氏(群馬県甘楽町立福島小学校)が「GIGAスクール端末導入から2年−授業での電子書籍サービス等を活用した実践とその効果」と題した実践紹介を行った。青木氏はまず、同校が導入しているポプラ社の学校向け電子書籍読み放題サービス「Yomokka!」と調べ学習応援サービス「Sagasokka!」を活用した各学年における具体的な実践活動について紹介した。次に学校図書館の利用状況の推移から、「Yomokka!」導入に伴う紙の本の貸出数の減少はみられず、サービス導入により紙の本と電子書籍を合わせた生徒の総読書量が大きく増加していることを示した。また、生徒へのアンケート結果から、「Yomokka!」の導入が生徒の本選びの幅を広げ、読書意欲を高めている可能性について言及した。実践の振り返りから、デジタル環境を含めた学校図書館環境の充実化によって紙とデジタルの相乗効果を期待できるとし、今後も紙とデジタル両方の良さを生かし、適宜使い分けていくことでより豊かな読書環境の構築を目指していきたいと述べた。

  筆者、青木氏からの発表の後、秋田喜代美氏(学習院大学)が指定討論を行った。秋田氏は「読書環境の豊かさ」とは何か、すべての子どもが格差なく本にアクセスでき、主体的に選び、自由に読めるといった「豊かさ」をどうすれば実現できるか考え続けていくことが重要であるとし、トランスメディアの時代にふさわしい個別最適な学びと協働的な学びの充実化に資する読書環境の整備が必要であると述べた。紙やデジタルでの読書について大人が持っている先入観にとらわれず、子どもの声を重視した取り組みが重要であるとし、研究と実践とが手をつなぎながら、子どもの読書における紙とデジタルそれぞれの特長や賢い使い方について解明を進めていくことが、読書環境を豊かにすることにつながっていくと主張した。

  その後はディスカッション・質疑応答に移行し、それまでの登壇者に千葉均氏(株式会社ポプラ社)を加え、子どもの読書環境の「豊かさ」とは何か、そしてそのために大人に何ができるかについてや、何歳ころからデジタルデバイスを用いた読書を始めるのが適切かといった事柄について、熱心に意見交換が行われた。

  最後に遠藤利彦氏(東京大学)の挨拶があり、シンポジウムは閉会した。

  なお、本シンポジウムの様子は、CEDEPウェブサイトおよびCEDEPのYouTubeチャンネルにて配信中である。各登壇者の資料についても、CEDEPウェブサイトで公開されている。詳しくはそちらを参照されたい。

Ref:
“共同研究シンポジウム「デジタル社会は子どもの読書環境をどう豊かにできるか?〜『紙』と『デジタル』のベストミックスの模索〜」”. 東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター.
https://www.cedep.p.u-tokyo.ac.jp/eventlisting/symposium/20230314symposium/
“【東大Cedep×ポプラ社】共同研究シンポジウム「デジタル社会は子どもの読書環境をどう豊かにできるか?~『紙』と『デジタル』のベストミックスの模索~」”. 東大CEDEP×ポプラ社.
https://sites.google.com/g.ecc.u-tokyo.ac.jp/cedep-poplar/%E3%82%A4%E3%83%99%E3%83%B3%E3%83%88/2023%E5%B9%B43%E6%9C%8814%E6%97%A5%E5%85%B1%E5%90%8C%E7%A0%94%E7%A9%B6%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%9D%E3%82%B8%E3%82%A6%E3%83%A0%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3…
“CEDEP×ポプラ社 共同研究”. 東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター.
https://www.cedep.p.u-tokyo.ac.jp/research/poplar/
東京大学CEDEP×ポプラ社共同研究「子どもと絵本・本に関する研究」プロジェクト. 調査結果ダイジェスト:令和の子どもと絵本・本環境. 東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター, 2022, 18p.
https://cedep.meclib.jp/popular_leaflet_02/book/data/all_page.pdf
MottoSokka!. ポプラ社.
https://kodomottolab.poplar.co.jp/mottosokka/
東大CEDEP×ポプラ社.
https://sites.google.com/g.ecc.u-tokyo.ac.jp/cedep-poplar