E2599 – 映像・オーディオのメタデータに関するNISOの推奨指針

カレントアウェアネス-E

No.457 2023.06.01

 

 E2599

映像・オーディオのメタデータに関するNISOの推奨指針

収集書誌部逐次刊行物・特別資料課・久保智史(くぼさとし)

 

  2023年2月、米国情報標準化機構(NISO)は、映像・オーディオのメタデータに関する推奨指針“Video and Audio Metadata Guidelines”(以下「指針」)を公開した。指針は、映像・オーディオコンテンツの作成者及びユーザーをターゲットとし、これらコンテンツ資産(アセット)のメタデータ交換に用いる語彙と推奨事項を定めている。また同指針の目的は、情報の相互伝達に必須となるエレメントを同定し、異なるメタデータ形式に依拠する関係者間のやり取りに伴う曖昧さを軽減することとされている。以下、その概要について紹介する。

  第1章では序論として、指針策定に至った背景や前提事項、策定プロセスが説明されている。指針は様々な分野・関係者の間で既に使用されているメタデータ標準を置き換えるものではなく、一般的かつ誰にでも理解できる語彙を提供することによって、メタデータ標準間の明確な情報伝達を可能とする「ロゼッタ・ストーン」のような役割を果たすことを意図したものとしている。またこの目的に関連して、指針の限界にも言及しており、策定の過程では既存のメタデータ標準に対する分析を実施しているものの、これらメタデータ標準間の具体的なマッピングは目指すところではない、と明言されている。なお、分析対象となったメタデータ標準は、MARC21、MODS、PBCore、EBUCore、IPTC Video Metadata Hub、Dublin Core、Common Metadata、Schema.orgの計8種である。

  第2章では、分野を問わずあらゆるユースケースにおいてメタデータに含めることが推奨されるプロパティ(Global Metadata Properties)として、16項目が定義されている(重要度順に列記)。

  • タイトル(主タイトル、部分タイトル(必要に応じて))
  • 識別子
  • URL(必要に応じて)
  • ファイルタイプ
  • ファイル名
  • ファイルサイズ
  • 所要時間
  • 日付(記録日時)
  • 権利関係
  • 言語(アセット内の主要言語、アセットに関連するその他の言語(字幕・翻訳など))
  • 主題(統制語彙の場合)またはキーワード
  • 説明
  • 寄与者(メディアアセットの作成者、作成団体)
  • メディアアセットの提供者(出版者、放送事業者、主催者など)
  • 人物(アセット内で描写されているもの。必要に応じて)
  • 場所(アセット内で描写されているもの。必要に応じて)

  指針は、上記のプロパティを含め、映像・オーディオコンテンツの主要なメタデータ要素を網羅する語彙リスト(VAMD Properties Vocabulary)を付録として掲載している。語彙は5つのカテゴリ(ヘッダ、書誌/引用/識別、技術、意味情報、管理)に分類された上で3階層に構造化され、同義語や例示とともにリストアップされている。これらをあわせて参照することで、メタデータの構造把握を容易にし、それぞれ異なる語彙を用いる既存のメタデータ標準間でも相互運用性を確保することが想定されている。このほかに、指針ではメタデータのユースケースを、教育、イベント、ジャーナリズム、図書館・アーカイブズ、出版、研究の6分野に分類し、特定分野でのみ必要とされるプロパティ(Domain-Specific Properties)を別途定めているが、図書館・アーカイブズ分野では特に追加のプロパティは定義されていない。

  第3章では適用にあたってのヒントが紹介されており、一般的な方法論から実装シナリオの一例まで幅広く扱われている。

  付録には上述の語彙リストに加え、指針策定にあたったワーキンググループが各ステークホルダーから収集した、メタデータのユースケース一覧が掲載されている。

  ユースケースの分野が多岐に渡ることからも明らかなように、指針は図書館のみならず、多種多様なステークホルダーからの参照を視野に入れた文書として策定されており、その広範な適用可能性が特筆される。円滑なメタデータ流通を促進するという即時的な効果に留まらず、既存のメタデータ標準間の具体的なクロスウォーク(CA1552参照)実現への第一歩となりうる発展性を秘めているという点で、今回の指針策定は映像・オーディオ分野におけるメタデータ整備の進展に大きな意義を有するものといえるだろう。

Ref:
“Video & Audio Metadata Guidelines Working Group”. NISO. 2023-02-13.
https://www.niso.org/standards-committees/video-audio-metadata-guidelines
NISO. Video and Audio Metadata Guidelines. 2023, 37p.
https://doi.org/10.3789/niso-rp-41-2023
佐藤康之. MARCとメタデータのクロスウォーク. カレントアウェアネス. 2005, (283), CA1552, p.11-15.
https://doi.org/10.11501/287114