E2569 – 多様性・公平性・包摂性研究に関するコレクション評価(米国)

カレントアウェアネス-E

No.450 2023.01.19

 

 E2569

多様性・公平性・包摂性研究に関するコレクション評価(米国)

収集書誌部国内資料課・和多もなみ(わだもなみ)

 

●はじめに

  2022年7月,北米研究図書館協会(ARL)は,多様性・公平性・包摂性(DEI)研究に関するコレクションの評価と発見可能性についての報告書“Educating and Empowering a Diverse Student Body: Supporting Diversity, Equity, and Inclusion Research through Library Collections”を公開した。米・テキサス工科大学図書館の研究チームによる調査の成果である本報告書について,概要を紹介する。

●調査の背景と目的

  近年,社会全体でDEIへの関心が高まっていることを受け,関連する研究が盛んになっている。テキサス工科大学図書館も全学的なDEI推進の取組に参画しているが,図書館のリソースがどのように貢献できるかの調査は不足していた。そこで,研究チームは,学生の学習効果に着目してDEIコレクションおよびサービスの評価方法を構築することを決め,DEIコレクションへのニーズ,利用状況,目録作成と発見可能性,利用者の探索行動およびリソースの評価に関して二段階の調査を行った。

●第一段階の調査

  第一段階では,大学図書館の抱える課題や資料の発見可能性について明らかにする目的で,DEI関連授業のシラバスに掲載された資料の所蔵状況,非営利の文化機関から受賞歴があるDEI関連タイトルの所蔵率,教職員が購入を推奨した資料,EBSCOから取得した電子書籍の利用状況などに関する調査が実施された。

  シラバス掲載資料のうち所蔵のあった119点について,資料検索システムでタイトルのキーワード検索を行ったところ,68%の資料は検索結果の1ページ目に表示されず,さらにページを読み込んだり,フィルタ機能を利用したりしなければ,検索漏れが生じてしまう可能性が判明した。また,教職員が購入を推奨した資料や電子書籍の利用状況調査によって,女性やジェンダーに関する資料や,ラテン系・メキシコ系米国人に関する資料の充実が求められていることが明らかになった。さらに,受賞歴があるタイトルの調査では,目録上,件名の付与は十分であったものの,DEIに関する情報が含まれると思われる目次と要旨の両方が含まれていたレコードは36.5%に過ぎず,DEIのような複合的で複雑なトピックに関する資料は,目録作成時に配慮が求められることが分かった。

●第二段階の調査

  第二段階では,図書館利用者がDEI関連資料の検索時に感じる難しさについて調べるため,学部生,院生,教職員等の計32人に対して検索方法のテストとインタビューが行われた。

  被験者の多くが検索結果に満足しながらも,検索時に感じる難しさの程度は様々であることが分かり,検索を容易にするために,図書館ウェブサイトの改善や,図書館員による資料検索方法のガイダンスの実施などの支援が必要であると言及された。また,目録については,要旨を必ず含めるようにする,DEI関連の情報を含むデータベースへのタグづけを行うなど,これまで以上の配慮の必要性が指摘された。さらに,研究チームは,利用者がDEIについて理解を深めることで検索が容易になるのではないかと考え,図書館員によるDEI関連の用語集の提供やDEI関連の研究の入手方法の紹介などによって,利用者のDEIに対する理解を促進することが有効ではないかと指摘している。

●おわりに

  本調査では,DEIが多様な分野にまたがり,明確な定義づけが難しい広義のトピックであるために,資料の発見可能性に課題があること,目録作成時に配慮が必要であることが明らかになった。資料の発見可能性に関しては,各分野の研究者と連携して情報共有を行うことや,図書館ウェブサイト上にリンクを配置しDEI関連のリソースを集めることで,利用者に図書館員の支援を受けやすい場を提供し,必要な資料を発見しやすくすることが有効ではないかと提案されている。一方,目録に関しては,MARCの改善は各館ではできず,ダウンロードしたMARCを自館で充実させることは可能でも,コレクションの規模が大きくなるとコストが現実的ではないと指摘された。

  米国では多くの図書館でDEIへの取り組みが進められており(E2559参照),DEI関連のコレクションの構築に関するガイドも公開されているが,ほとんどの図書館はコレクションの評価指針を持っていない状況にある。利用者の資料発見可能性や図書館への要望に関する本調査は,今後のDEI関連資料の収集方針を具体化し,図書館がDEI研究を支える役目を効果的に果たすために,参考になる点が多いだろう。

Ref:
Sappington, Jayne et al. Library Impact Research Report: Educating and Empowering a Diverse Student Body: Supporting Diversity, Equity, and Inclusion Research through Library Collections. ARL, 2022, 55p.
https://doi.org/10.29242/report.texastech2022
Bledsoe, Kara et al. Leading by Diversifying Collections: A Guide for Academic Library Leadership. Ithaka S+R, 2022, 31p.
https://doi.org/10.18665/sr.317833
Frederick, Jennifer K.; Wolff-Eisenberg, Christine. National Movements for Racial Justice and Academic Library Leadership: Results from the Ithaka S+R US Library Survey 2020. ARL, 2021, 28p.
https://doi.org/10.18665/sr.314931
青野正太. 米国公共図書館の職員と多様性に関する調査. カレントアウェアネス-E. 2022, (448), E2559.
https://current.ndl.go.jp/e2559