E2568 – 佐賀県立図書館「みんなの森」開室について

カレントアウェアネス-E

No.450 2023.01.19

 

 E2568

佐賀県立図書館「みんなの森」開室について

佐賀県立図書館・馬場麻理子(ばばまりこ)

 

  2022年8月22日,佐賀県立図書館に「みんなの森」がオープンした。本稿では,「みんなの森」開室に至った経緯,開室に向けての準備,運営面などについて紹介する。

●はじめに

  「みんなの森」とは,高齢者,障害者,子育て中の人など,誰もが自然体で心地よく読書できるよう配慮された部屋である。当館1階に位置し,司書1人が常駐している。特徴は,いろいろなカタチの図書と読書を助ける道具を取り揃えていること,授乳室や他者からの視線を遮り気持ちを落ち着かせるカームダウンコーナーを設置していること,そして飲食・会話可能なことである。

●経緯

  2020年6月に施行された「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(読書バリアフリー法;E2307, CA1974参照)を受け,佐賀県では2022年3月30日,「佐賀県読書バリアフリー推進計画」を策定している。「みんなの森」の場所は,元々60年程食堂として活用されていたが,コロナ禍の2021年秋に食堂が撤退したため,その跡地を読書バリアフリー専用の部屋として整備できないか検討を重ね,「みんなの森」が誕生したのである。

  また,佐賀県では,誰もが自分らしく,心地よく過ごせる,やさしいまちのスタイル「さがすたいる」を進めており,「みんなの森」はその一環でもある。当館は60年以上前に設計された建物であり,ハード面でのバリアフリーが遅れており,エレベーターもない。そこで,1階の入りやすい場所に新たに窓口を設け,心のバリアフリーをもって対応することにより,誰もがより利用しやすくなるよう試みた。

●開室に向けての準備

  準備は大きく分けて8つである。屋内・外の改修,部屋のレイアウト,備品・器具等の購入,図書等の購入,図書等の整理,広報,オープニングセレモニー,そして職員研修である。

  一番苦労したのは,どのような部屋にするか,つまり部屋のレイアウトである。誰もが読書を楽しめる空間を作るのはなかなか容易なことではなかった。まず,障害当事者,支援施設職員,医療施設の理学療法士,特別支援教育士,子育て中の人などの声を聞いた。職員同士でも考え方は十人十色である。何度も話し合いを重ね,今できることを一つずつ積み重ねていき,空間を作っていった。誰もが自然体で入れるよう,そして誰でも,どんなカタチででも図書館をぜひ利用してもらいたいというメッセージを込めた。

  書架や椅子・机・カウンター・授乳室からカームダウンコーナーまで,家具は,地場産品である諸富家具を取り入れ配置した。当館全体においても2020年度より諸富家具を取り入れており,全体的な雰囲気と統一感を持った内装とした。

●いろいろなカタチの図書と読書を助ける道具

  書架は,見やすい・分かりやすい・手に取りやすい,を意識した。バリアフリー図書の充実を図り,大活字本(一般・児童),点字つき絵本,さわる絵本,LLブック,布の絵本,オーディオブック,マルチメディアデイジー,電子書籍を揃えた。点在していたバリアフリー図書を1か所に集め,どのような図書なのか簡単な説明とともに排架している。また,読書支援機器もハンディタイプから据え置き型まで各種揃えた。特にリーディングトラッカー「楽よみ!しおり」は地元小学校の特別支援学級に通う生徒と教師の意見を取り入れ開発されたもので,商品として全国でも販売・活用されている。

●運営と心がけていること

  特に気を付けているのは,声かけである。カウンターからは,2か所の出入口が見える。そして,部屋全体も見わたせるようになっている。声かけをしながらどのような対応が相手にとって望ましいのか判断するよう試みている。障害の有無にかかわらず,ひとりひとり心地よい対応は異なる。言語・非言語コミュニケーションを通じて相談・サービスに努めるよう心がけている。

●おわりに

  開室から3か月ほどが経った。その中でも印象的だった利用者の言葉がある。「場と時間を共有できる空間ですね。」と,それは思いがけない言葉であった。子どもは点字図書を読み,親は活字の本を読む。同じ空間にいながら,自分に合ったカタチでそれぞれ読書に親しんでもらえた瞬間であった。これからも,誰もが心地よいと感じてもらえる空間であるよう「みんなの森」を育てていきたい。

Ref:
“佐賀県立図書館に「みんなの森」がオープンします~誰もが自然体で心地よく読書ができる空間~”. 佐賀県. 2022-08-19.
https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00387397/index.html
佐賀県立図書館.
https://www.tosyo-saga.jp/
“「佐賀県読書バリアフリー推進計画」を策定しました”. 佐賀県. 2022-03-30.
https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00385282/index.html
“読書バリアフリーに関するリーフレットを作成しました”. 佐賀県. 2022-04-22.
https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00384393/index.html
さがすたいる.
https://saga-style.jp/
諸富家具.
https://www.morodomikagu.or.jp/
野口武悟. 「読書バリアフリー基本計画」を読む. カレントアウェアネス-E. 2020, (399), E2307.
https://current.ndl.go.jp/e2307
野口武悟. 読書バリアフリー法の制定背景と内容、そして課題. カレントアウェアネス. 2020, (344), CA1974, p. 2-3.
https://doi.org/10.11501/11509684