E2559 – 米国公共図書館の職員と多様性に関する調査

カレントアウェアネス-E

No.448 2022.12.08

 

 E2559

米国公共図書館の職員と多様性に関する調査

駿河台大学メディア情報学部・青野正太(あおのしょうた)

 

  2022年8月,米国公共図書館協会(PLA)は,職員の待遇や役割,人種・性別,公平性・多様性・包摂性(Equity, Diversity, and Inclusion:EDI)に向けた目標や活動についての全国調査結果のレポート“Public Library Staff and Diversity Report”を公開した。PLAは米国のすべての公共図書館に調査を呼びかけ,773の図書館が回答した(回答率8.4%,期間2021年10月~12月)。館の所在地域を3カテゴリ(都市部,郊外,町・地方)に分けて回答が示されている。

  本稿ではその内容を要約するとともに,日本の状況についても簡単に触れる。

●職員の給与,役割,雇用の動向

  職員の年収は,図書館長の中央値が7万9,022ドル,新任司書の中央値が4万1,864ドルであった。職員数は,都市部の図書館では常勤45人/パートタイム28人,郊外の図書館では常勤11人/パートタイム14人,町・地方の図書館では常勤1人/パートタイム3人であった(いずれも非加重中央値)。

  職員の役割は,児童サービス(91.2%)が最も多く,蔵書構築(82.3%),成人サービス(81.6%),ヤングアダルトサービス(81.0%)と続いた。新しい分野としては,EDI(25.1%),労働力やスモールビジネスの開発支援(18.2%),社会事業(8.1%)が挙がった。

  過去12か月間に採用した職員の新しい役割(自由回答)は,234の記述回答のうち41%が,コアサービスと,人的支援(資料へのアクセス,蔵書,レファレンスやテクニカルサービス)を挙げている。また,地域社会への貢献やアウトリーチ,広報業務などに重点を置いた人材配置傾向も見られた。

  さらに,27.2%の図書館で過去12か月間に人員削減がなされていた。最も多い理由は退職した職員の後任がいない(55.3%)であり,他に,職員の予算削減,サービス時間の短縮なども挙げられた。

  職員の能力開発に関しては,97.9%が1種類以上の能力開発機会を提供していた。最も多い回答(97%)は,能力開発のための勤務時間や休暇を設けることであった。

●職員の雇用と定着

  職員の人種・民族構成については,黒人・先住民・有色人種が少なく,白人女性が多かった。これは,同種の他調査と比べても一貫している。ただし,153の図書館はデータを収集していない等の理由により回答していない。

  人口比率に比して雇用の少ないグループの人々の雇用・定着のため,図書館の91.7%が一つ以上の戦略を有していた。回答された戦略は,多様な人々へのポジションの提示(73.6%),偏見や文化的能力に関する研修の実施(50.9%),ブラインドによる応募書類の審査(44.9%),EDIの声明を明示した求人情報の掲出(42.5%)等であった。

  また,定着率の改善に向けて,74.8%が包摂的な職場文化の醸成を目指しており,52.7%が組織に浸透する人種差別をなくそうとしていると回答している。しかし,具体的なプログラムを報告している図書館は極めて少なかった。

●公平性・多様性・包摂性(EDI)

  EDIに関して,26.6%が目標を明文化していた。うち90%以上が利用者のための包摂的な風土の醸成,蔵書構築,職員のための職場文化の改善,イベント・プログラムについての目標を有していた。

  また,図書館の95.2%がEDIに関する一つ以上の取組をしており,多様な著者や視点に配慮した蔵書構築(87.9%),EDIトレーニングや専門職としての能力開発に職員が参加することへの支援(78.5%),計画策定のための地域の人口統計の分析(76.0%)といった取組が多かった。

  この調査結果は米国の公共図書館におけるEDIへの現在の関与の範囲を示している。PLAはこれらの質問が図書館の「現場では今何をしているか,もっとうまくできることはあるか」といった内省につながり,変化のための機会をもたらし,説明責任を果たしていけることを望んでいる。

●日本の公共図書館における職員多様性

  日本図書館協会(JLA)多文化サービス委員会では『多文化サービス入門』を2004年に発行し,サービスの基礎事項や実践事例を取り上げている。さらに,2015年に公立図書館・大学図書館を対象に「多文化サービス実態調査」(E1900 参照)を実施している。これらを参照すると,実際に多文化サービスに取り組む図書館が見られる一方,「多様な文化的・言語的背景を持つ人」が,館内に「いる」と回答したのは31館(2.6%)に過ぎない等,日本の公共図書館は職員多様性があるとは言えない状況である。

  考えられる一つの要因として,「公権力の行使又は公の意思の形成への参画に携わることを職務とする公務員となるためには日本国籍が必要であるとの立場」から行われる公務員の任用等の制限が挙げられるが,地方公務員法上規定があるわけではなく,大阪,沖縄,群馬など9府県で部分的な制限撤廃が掲げられている。また,外国人の公務就任に関する解釈に関しては,学説も必ずしも一致しているとはいえない状況であるという指摘も存在し,公共図書館において多様な人種・民族の職員を任用することについては課題の整理が必要である。

  上記では職員の人種・民族における多様性について言及したが,図書館員の役割や待遇においても,PLAのレポートが日本の状況について考える一助となれば幸いである。

Ref:
“PLA releases first Staff and Diversity Survey report”. ALA. 2022-08-23.
https://www.ala.org/news/press-releases/2022/08/pla-releases-first-staff-and-diversity-survey-report
Public Library Staff and Diversity Report: Results from the 2021 PLA Annual Survey. PLA, 44p.
https://www.ala.org/pla/sites/ala.org.pla/files/content/data/PLA_Staff_Survey_Report_2022.pdf
日本図書館協会多文化サービス研究委員会編. 多文化サービス入門. 日本図書館協会, 2004, 198p.(JLA図書館実践シリーズ, 2).
日本図書館協会多文化サービス委員会編. 多文化サービス実態調査2015報告書. 日本図書館協会, 2017, p. 102-104.
法令用語研究会編. 有斐閣法律用語辞典. 第5版, 有斐閣, 2020, p. 402.
“第24回定例記者会見要旨(10月7日)”. 群馬県. 2022-10-07.
https://www.pref.gunma.jp/chiji/z90g_00318.html
高乗智之. 外国人の公務就任をめぐる法的問題. 高岡法学. 2015, vol. 33, p. 1-23.
https://doi.org/10.24703/takahogaku.33.0_1
“最高裁判所判例集 平成10(行ツ)93 号 管理職選考受験資格確認等請求事件 平成17年1月26日”. 裁判所.
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52248
日本図書館協会多文化サービス委員会. 『多文化サービス実態調査2015報告書』刊行. カレントアウェアネス-E. 2017, (323), E1900.
https://current.ndl.go.jp/e1900