E1900 – 『多文化サービス実態調査2015報告書』刊行

カレントアウェアネス-E

No.323 2017.04.13

 

 E1900

『多文化サービス実態調査2015報告書』刊行

 

●はじめに

    日本図書館協会(JLA)多文化サービス委員会は,2015年,全国の公立図書館および大学・短期大学・高等専門学校図書館を対象に「多文化サービス」に関するアンケート調査を行った。この調査は,1988年,1998年に続く3回目の全国調査で,在住外国人や留学生へのサービスの進展具合,直面する課題を探ることを目的とした。調査結果をまとめた報告書が2017年3月末日刊行された。
 

●公立図書館の多文化サービス

    公立図書館に対する調査は,2015年10月,各自治体の中央館/中心館にアンケート用紙を郵送し,自治体内の地区館への周知と回答を依頼した。質問内容は,サービスの根拠となる業務指針の有無,多言語資料の所蔵,多言語目録と検索,サービス内容,他部局との連携などである。回答はウェブ上に用意した画面での入力のほか,Fax・郵送・メールで回収した。回収率は約74%(回答数1,005/配布数1,366),その他に地区館からの回答が177件あった。

    今回の調査では,都道府県,東京23区,政令指定都市,市町村(人口段階別に6区分)に分けた集計を行い,同規模自治体との比較や政策立案の参考となることを目指した。また,サービスエリアに外国人コミュニティがあると回答した図書館(153館)について,多言語資料の所蔵,多言語の広報類,外国人ための事業など,サービスへの取り組みの違いを全体集計と比較検証した。

    集計結果を概観すると,公立図書館における多文化サービスは,ある程度進展がみられるものの,全体的には依然足踏み状態といえる。進展がみられる部分としては,多文化サービスの根拠となる業務指針を有する館が増加している,本文が外国語の図書を所蔵している館が増加している,情報通信技術の発展に伴いウェブサイトに多言語の利用案内が発信されるようになった,などである。一方,サービスを実施するにあたって直面する課題として,地域の外国人のニーズが不明,カウンター応対や利用案内作成などの際の職員の外国語対応能力不足が,相変わらず上位に挙がった。

    前回調査には無かった実践事例(記述回答)では,外国人と日本人が参加するビブリオバトル,幼稚園でのタガログ語による出張お話し会など,多文化サービスにかかわるイベントが報告された。こうした図書館の事例は,多文化サービスを始める際の参考になるだろう。

●留学生等への図書館サービス

    大学図書館等に対する調査は,「留学生等への図書館サービスに関する調査」として2015年7月に大学・短期大学・高等専門学校図書館の中央館(1,021 館)にアンケート用紙を郵送し,回答はウェブ上に用意した画面での入力を依頼した。質問内容は,サービスの根拠となる業務指針の有無,留学生のための資料,多言語目録,多言語による広報類,利用支援,サービスの課題などである。回収率は館種によって異なるが,大学図書館中央館の場合は,約77%(回答数596/配布数779)であった。

    今回の調査結果をみると,17年前と比べ進展したと推測される部分と,それほど進展していないと思われる部分がある。留学生等へのサービスの根拠となる業務指針等については,「ある」という回答が中央館では5%に留まり前回調査よりも減少しているが,留学生等へのサービスに関して,学内他部局と協議・協力することが「ある」とする回答は34%と,前回調査より大幅に増加した。協議先は,大学の留学生を支援する部門が最も多い。利用者への日本語以外の言語による情報提供に関しては,利用案内・ウェブサイト・館内掲示類,それぞれについて質問したが,いずれも30%以下の回答であった。これら3点を全て作成している大学は約12%,いずれも作成していない大学は半数以上あった。留学生等を対象に図書館オリエンテーションや利用指導等を行っている大学は3分の1ほど(実施言語は日本語と英語が多い)あった。留学生の要望調査を実施している大学は6%程度で,懇談会やアンケート調査が行われているが,事例は多くない。留学生を対象にした図書館サービスの必要性は徐々に認識され,関係部署との連携が進みつつある。しかし具体的な実践例や要望調査の積み重ねが不足しているため,今後に向け,実践例の積み重ね,情報共有,ベストプラクティスなどの普及が必要だろう。

●おわりに
    図書館は,多言語による情報提供,日本語が母語でない人々への支援,文化的・言語的背景の異なる人々の交流の場となることで,多様性を尊重する社会の実現に貢献できる。しかしながら,資料費の減少や職員削減などにより,単独では効率的に進められない。本報告書が,自治体や館種を越えた連携によって,それぞれの強みを活用した協力を模索する手がかりとなるよう期待している。多くの質問に対して回答を寄せてくれた各図書館に感謝申し上げると共に,本報告書が今後の多文化サービス推進の一助となれば幸いである。

日本図書館協会多文化サービス委員会

Ref:
CA1661
日本図書館協会多文化サービス委員会. 「多文化サービス実態調査2015」調査結果中間報告. 図書館雑誌. 2016. 110(9),p.594-597.