カレントアウェアネス-E
No.381 2019.12.05
E2206
国際図書館連盟(IFLA)の新たな戦略
総務部企画課・渡邉由利子(わたなべゆりこ)
●はじめに
国際図書館連盟(IFLA)は,2019年8月26日,2019年から2024年までを対象とする新たな戦略「IFLA戦略2019-2024(IFLA STRATEGY 2019-2024)」(以下「新戦略」)を公表した。本稿ではその策定の背景,内容と特徴について概観する。
●新戦略策定の背景
今回公表された新戦略は,2016年に公表された「戦略計画2016-2021(IFLA Strategic Plan 2016-2021)」(以下「前戦略計画」)の後継文書にあたる。前戦略計画の対象期間は2021年までであったが,今回,その終期を迎える前に新戦略が策定されたことになる。このようなタイミングで新戦略が策定されたことの背景には“Global Vision”(E2034参照)がある。
“Global Vision”とは,IFLAが2017年4月に始めた将来ビジョン策定のための取組のことである(策定されたビジョン自体もこのように呼ばれる)。約1年にわたり複数回のワークショップ(E2037参照)が開催され(計190か国の図書館員や図書館関係者が参加),またウェブ経由でも意見が収集され,それらの幅広い意見を基にビジョンが策定された。策定プロセス,関連するデータ及び策定されたビジョンは“Global Vision Report”にまとめられ,2018年8月付けで公表された。
このビジョンと新戦略の関係は,新戦略の冒頭に「ビジョンがこの戦略に力を与え,その導きの星となった(the Vision has provided the energy, and represented the guiding star for this Strategy)」と比喩的に表現されている。一方で,前述の“Global Vision Report”の中では,ロードマップの第二段階(ビジョン策定後のフェーズ)の最後に新戦略の公開が位置付けられている。ビジョンを実現するために具体的な戦略が必要であり,その戦略策定にあたってはビジョンが指針となったと捉えられるだろう。
●新戦略の構成
新戦略は以下のとおり8項目で構成されている。
- 序文:国を超えた図書館の声(Introduction: The Global Voice of Libraries)
IFLAという組織が,世界中の図書館関係者の力を得て,人々の生活をより良いものとするために活動していることが述べられている。 - 私たちの戦略:未来へのロードマップ(Our Strategy: A Roadmap for the Future)
IFLAが持つ強みについての評価結果と国際連合の持続可能な開発目標への関与(E1763参照)を踏まえて新戦略が策定されたと述べられている。 - 組立:行動の枠組(Structure: A Framework for Actions)
新戦略が,IFLA関係者だけでなく,世界中の図書館業界に関わる人が参照すべきものとして策定されたことが述べられた上で,以下の4つの戦略方針が示されている。- 1.図書館の声を世界に広げる(Strengthen the Global Voice of Libraries)
- 2.専門家としての取組を促進・拡張する(Inspire and Enhance Professional Practice)
- 3.図書館界をつなぎ強化する(Connect and Empower the Field)
- 4.私たちの組織を最適化する(Optimise our Organisation)
- 私たちのビジョン(Our Vision)
上述の2018年に確定したビジョンが次のとおり太字で記載されている。「人々が識字力を備え,十分な情報を得ることができる,参加型の社会を促進する,強力な,一致団結して結ばれた図書館界(A strong and united library field powering literate, informed and participative societies)」 - 私たちのミッション(Our Mission)
ここも太字で次のとおりミッションが記されている。「国を超えて図書館界を刺激し,関わらせ,可能性をあたえ,つなげる(To inspire, engage, enable and connect the global library field)」 - 私たちの価値観(Our Values)
情報アクセス及び表現の自由の原則を支持する等,IFLAが重視する4つの価値観が記されている。 - 行動への呼びかけ(A Call to Action)
新戦略をただ読むだけでなく活用し,行動に移すことを呼びかけている。 - 戦略方針(Strategic Direction1-4)
「組立」の項目で示された4つの戦略方針の説明と関連する活動目標が記されている。
●新戦略の特徴
冒頭で述べたとおり,新戦略は前戦略計画の終期を迎える前に策定され,内容に関しては一部前戦略計画を引き継いでいる。しかしながら,新戦略を見ると,継続性よりも新しい方向に進もうという意欲が感じられる。以下,新戦略の特徴を挙げる。
- 基盤強化へ
前戦略計画では戦略方針として,「社会における図書館(Libraries in Society)」「情報と知識(Information and Knowledge)」「文化遺産(Cultural Heritage)」「能力の構築(Capacity Building)」の4点が挙げられていた。このうち,「文化遺産」という資料保存に関する具体的な業務の戦略方針がなくなり,新戦略では組織や組織間のつながりに関する方針が掲げられ,基盤強化に注力することを意識しているようにうかがえる。 - 親しみやすいデザイン
PDF版を見ると,タイトル及び各章タイトルの文字が大きく,カラフルなページ構成で,目を引き,読みやすい作りを心がけていることが伝わる。 - 「私たちの」
Our Strategy,Our Vision,Our Mission,Our Valuesというように,各項目を「Our(私たちの)」から始めている(前戦略計画では,Vision,Core Valuesと記されていた)。IFLAに関わる者たちがこの戦略を自分のこととして意識することを期待しているのだろうか。表紙及び2ページ目の最後に“We are IFLA”の文字が記されているのも印象的である。 - 名詞から動詞へ
前戦略計画では戦略方針が名詞で表現されていた。新戦略では各戦略方針が動詞で表現されており,行動を意識していることが感じられる。
世界中で新しい行動を引き起こそうという意気込みの感じられる新戦略である。各地でどのような取組が行われるのか,今後の展開に注目していきたい。
Ref:
https://www.ifla.org/node/92409
https://www.ifla.org/strategy
https://www.ifla.org/files/assets/hq/gb/strategic-plan/ifla-strategy-2019-2024-en.pdf
https://www.ifla.org/node/10267
http://www.ifla.org/files/assets/hq/gb/strategic-plan/2016-2021.pdf
https://www.ifla.org/node/67011
https://www.ifla.org/globalvision/report
https://www.ifla.org/node/11900
E2034
E2037
E1763