カレントアウェアネス-E
No.381 2019.12.05
E2207
IFLA「児童図書館サービスのためのガイドライン」の改訂
国際子ども図書館児童サービス課・藤﨑理恵子(ふじさきりえこ)
国際図書館連盟(IFLA)の児童・ヤングアダルト図書館分科会(以下「分科会」)は,2003年に公表した「児童図書館サービスのためのガイドライン」(Guidelines for Children’s Libraries Services;以下「旧ガイドライン」;E200参照)を2018年に改訂し,「IFLA児童図書館サービスのためのガイドライン―0歳から18歳まで」(IFLA Guidelines for Library Services to Children aged 0-18;以下「改訂版ガイドライン」)として取りまとめた。本稿では,7つのパートで構成されるこの改訂版ガイドラインについて紹介する。
分科会は,児童図書館サービスの優れた実践例を提示するために,改訂版ガイドラインの作成に取り組んできた。あらゆる子どもにとって理想的な児童図書館サービスの在り方を示す規範としてではなく,各国の事情や文化的背景に合わせて何が実現可能か検討し,活用できるガイドラインとなるよう意図して作られている。旧ガイドラインではサービス対象を13歳以下の学童とし,乳幼児(E694参照)やヤングアダルト(E815参照)への図書館サービスは別のガイドラインを作成していたが,改訂版ガイドラインでは国際連合の「児童の権利に関する条約」の児童の定義に鑑み,0歳から18歳をサービス対象としている。
パートA「児童図書館の使命と目的,ガバナンス」では,児童図書館の使命として,多文化社会における,子どもとその保護者の情報・学習・文化の拠点となることを挙げている。また,児童図書館の目的は,子どもの識字力や読解力を高め,成長する助けとなるよう,さらに,余暇を楽しみ,健康で安定した生活を送れるよう,一人一人に適切な方法で適切なサービスを提供することであるとしている。このことは,「児童の権利に関する条約」や国連が掲げる指針「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」で示されるビジョンとも合致している。パートAの最後では,児童図書館のガバナンスについて述べており,図書館の管理者は,資金調達や情報保護に関するものをはじめとする,図書館運営に関連する法令に精通している必要があるとしている。
パートB「人材,資金,協力」では,児童図書館員に求められる専門家としての能力と資質や倫理基準,児童図書館員の養成について言及している。予算の調達と管理についても,図書館員に必要な知識の例を示している。また,教育機関等,地域の諸機関との協力関係の構築についても触れている。
パートC「図書館のコレクション構築と管理」では,児童図書館の所蔵資料についての普遍的な基準はないとしつつ,全ての子どものニーズを満たすように,地域性を尊重した多様なものでなくてはならないとしている。また,性別や社会的背景,人種等の多様性のような,包摂(inclusiveness)を反映する資料も重要である。蔵書構築の参考として,分科会による「絵本で知る世界の国々」プロジェクトにおいて世界中の国の図書館員が選定した絵本から成るセットを挙げている。また,図書や雑誌などの紙資料だけではなく,デジタル機器を含むデジタル情報資源の提供と,子どもやその保護者へのサポートの必要性についても触れている。児童図書館員は,子どもがインターネット等を含む新しいテクノロジーを安全に利用できるよう指導できる知識とスキルを備えておくべきであるとしている。
パートD「イベントやプログラムと地域へのアウトリーチ活動」では,利用者に提供する多様なプログラムや,地域の全ての住民へのサービスなど,児童図書館が行う活動についての考え方が示されている。全ての住民の中には,移民や難民のほか,障害のある子どもも含まれるため,子どもの学習障害に気付きやすい教育関係者等と連携することも考え得るとしている。
パートE「空間デザインと快適なスペースの創出」では,図書館の中の児童サービスのための空間を計画する際に,設備は居心地の良さと耐久性が重要であるといったことや,案内表示はその地域で使われる言葉で易しく表現するといった,考慮すべき点を列挙する。新しい図書館計画の立案の際には,子どもやヤングアダルトの利用者の意見を取り入れることを推奨している。優れた実践例として,デンマークの公共図書館モデルを挙げており,このモデルでは図書館を,4つの空間(ひらめきの空間,学びの空間,出会いの空間,活動の空間)が重なり合い構成されるものとしている。
パートF「マーケティングとプロモーション」では,マーケティングで利用者のニーズを明らかにし,そのニーズを満たす効果的な計画を立てることの重要性と,紙媒体や電子媒体,ソーシャルメディア等の積極的な利用といった具体的な例を挙げている。
パートG「評価と影響」では,評価の重要性について述べ,評価案を計画する際に考えるべきポイントとして,いつ評価を行うのが最適か,どのような基準にのっとって評価するべきか等8つのポイントを例示している。
この改訂版ガイドラインは,日本の図書館においても,児童図書館サービスを改善し,発展させるために有効であると考えられる。日本図書館協会児童青少年委員会により,このガイドラインの日本語訳が進められており,2019年度内に刊行され,IFLAのウェブサイトでも公開される予定であるので参照されたい。
Ref:
https://www.ifla.org/publications/node/67343
https://www.ifla.org/files/assets/libraries-for-children-and-ya/publications/ifla-guidelines-for-library-services-to-children_aged-0-18.pdf
https://www.ifla.org/node/6718
https://www.kodomo.go.jp/event/lend/index.html
E200
E694
E815